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“口撃”も“美容整形”も計算?ユリアン・ナーゲルスマンはピッチ外でも普通じゃない

2020.01.16

ストーミングの旗手#7

現在のサッカー界における2大トレンドとして、「ポジショナルプレー」とともに注目を浴びている「ストーミング」。その担い手である監督にスポットライトを当て、指揮官としての手腕や人物像に迫る。

 ユリアン・ナーゲルスマンはピッチ内で強気なサッカーを展開するが、ピッチ外でもそれは同じだ。納得いかないことがあれば歯に衣着せず批判する。

 例えば2017年4月、バイエルン対ドルトムントを観戦した時のことだ。赤いダッフルコートを着てスタンドにいるシーンがテレビに映し出され、メディアで「ナーゲルスマンがバイエルンの次期監督に内定?」と大騒ぎになった。彼は根拠のない妄想に憤り、メディアを批判した。

 「僕は単に赤いコートが好きで着ただけ。メディアのせいで、もう着られない」

 しかし、ただでは転ばない男である。ナーゲルスマンは転売サイト「ebay」で赤いコートを出品し、売上を慈善団体に寄付すると発表。50ユーロからスタートし、1500ユーロを超える値がついた。

 ファンを“口撃”することもある。2019年4月、ホッフェンハイムの監督時代にボルフスブルクに1-4で大敗した試合で、一部のファンが早い段階でスタジアムから帰ってしまった。試合後、ナーゲルスマンは吠えた。

 「期待と現実は異なることがある。今日、先に帰ってしまった人はオペラでも見に行けばいい。まあ、そちらでも低い音色(サッカーではブーイングの意味)が吹かれるがね」

 当然、選手のプレーが悪ければ会見で批判する。よく口にするのが「Haltung」(態度)という言葉だ。

 「これは僕が(アウグスブルクⅡの)選手時代、(当時チームを指揮していた)トーマス・トゥヘル監督が言った言葉の一つで、個人的に気に入って監督になってからもよく使うワードだ。絶対に失点しないというゴール前での守備の決意のことだ」

 こういう強気の態度はある程度計算されたものかもしれない。なぜならナーゲルスマンは自分自身のブランディングを入念に行っている節があるからだ。

 例えば“美容整形”。2018年8月のバイエルンとの開幕戦、白いシャツの首元を安全ピンで留めたファッションもさることながら、眉毛を細くカットしていたことが話題になった。頬がすっきりして小顔になっており、リフトアップの整形をしたのではないかという噂まで流れた。奇抜なファッションは定番になっており、「世界で最もモードな監督」と評されることもある。

襟には安全ピン。話題となったバイエルン戦での出で立ち

 ただし、あくまで32歳の青年だ。弱さもある。ナーゲルスマンはCLの試合後、寝ている時に突然選手の名前を叫んで、妻を驚かせてしまっているという。

 「CLの試合は夜なので、心を落ち着かせるのが難しい。妻が怖がっているので、なんとかしないとね」

 彼の好きな名言の一つに「普通と特別の違いはわずかなプラスアルファ」(アメリカンフットボールの伝説の監督、ジミー・ジョンソン)というものがある。これからもナーゲルスマンは“異常”であり続けるだろう。


Photos: Bongarts/Getty Images

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Profile

木崎 伸也

1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。

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