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ダビド・シルバ、静かな天才。ポジショナルプレーの象徴として君臨

2018.03.13

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 スペインの育成が生み出した最高傑作の一人がこの男だろう。マンチェスター・シティのアカデミー責任者が「育成年代において、技術的な側面を優先するべき理由はダビド・シルバが示している」と述べるように、判断力と視野の面で他を寄せ付けないMFは、常に動きながらボールをコントロールし、的確に味方に繋いでいく。

 グアルディオラ就任後のシティが基本的に「左サイド」でボールを循環しようとすることは、シルバの絶対的な価値を示している。昨季は大外のノリート(現セビージャ)との横のポジションチェンジによって守備を切り崩す役割を任された彼は、今季さらに緻密化した左サイドの崩しを統率する。偽SBとしてポジションを確立したデルフが中央で距離感を保ちながらシルバを押し上げ、サイドライン際にはスピードに絶対の自信を持つサネ。本来SBが残るべきスペースにはCBが流れ、組み立てのリセットとカウンターのケアを任される。

「パスコースを生む動き」と「次に受ける動き」

 シルバの武器は、常に味方の動きを把握することであり、ポジショナルプレーにおける「相互作用」を生み出す能力に長けている。特筆すべきは、ムーブメントの中で位置的優位を作り出すことだ。さらにシルバの論理的思考は自ら適切な位置へと動くだけでなく、味方の位置的優位を生み出すようにプレーすることへと繋がる。ピッチ全体を動き回り、時にはデ・ブルイネのサイドにも顔を出すことで局面を動かす彼は「数的優位」を創出する重要な役割を任されている。

 ワトフォードとのプレミアリーグ第22節では、彼の特筆すべき能力が最大限に発揮された。まず、シルバはサネへのパスコースを塞ぐ位置に立つ。相手は当然シルバへの警戒を強めており、近い距離で対応しようとする。この状態では三角形は作られていないが、シルバが縦に抜ける動きによってボールホルダー、シルバ、サネによる三角形が生まれる。そして、その動きは同時に「閉じていたサネへのパスコース」を開くことになる。シルバを囮(おとり)にサネにボールを送り、走り込んだシルバがそのままハーフスペース、もしくはサイドライン際の縦パスを受けることで2次攻撃へと繋げるのが得意のパターンだ。大外のサネは無理に動かず、縦のスペースを消さないように意識しておくこともポイント。デ・ブルイネの長いスルーパスからロングカウンターを一瞬でチャンスに変えるパターンを武器とした昨季と異なり、サネは直接深いスペースに走り込むことによってボールを引き出す動きを減らしている。シルバの動きに合わせてパスを受けることで相手の守備陣を広げ、いったんシルバや周囲の選手にボールを預けると、ショートスプリントでスペースを狙う。

シルバは前に出る動きによってサネへのパスコースを作り出しながら、自身も攻撃の起点になれる位置へと移動する

 シルバは、「パスコースを生む動き」と「次に受ける動き」を統合することによって互いの位置的優位性を向上させる。この非常に効果的なムーブメントは、もともと彼の能力を支えていた「視野の広さ」とスペインで磨かれた「他者の位置を把握する能力」に支えられている。質的な優位性において彼の武器となるのは柔らかなボールタッチとスキルだが、特にターン技術は達人の域で、狭いハーフスペースでも体を器用に使うことで相手のプレッシャーから逃げてしまう。さらにターンを囮に使うようなプレーにも適応する彼は、ターンしながら逆側へと相手の予想を外すパスを狙うことも可能だ。キックのタイミングが読めない細かいアウトサイドでのタッチでライン際に流れるプレーも兼ね備えるように、とにかくスモールスペースでのボール扱いに長けていることがフィジカル勝負に持ち込ませない秘訣である。ポジショナルプレーの象徴として君臨する静かな天才の雄弁なプレーは、学ぶべき技術にあふれている。

シティ在籍8年目、グアルディオラの下でインサイドMFとして凄みを増す32歳


Photos: Getty Images

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ダビド・シルバマンチェスター・シティ

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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