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鈴木彩艶はアストンビラの新・戦術兵器。「キックが上手いだけじゃない」配球力を組み込むエメリのマンツーマン破壊&疑似カウンター設計論

2026.09.23

北中米W杯での活躍を受けてパリSG行きやユベントス行きも取沙汰された後、8月19日に日本人GK史上最高額となる推定最大3500万ユーロ(約64億円)の移籍金で、パルマからアストンビラへと完全移籍することが発表された鈴木彩艶。加入後2戦目で新天地デビューを飾るとさっそく正守護神の座をつかむとともに、190cmの体躯を生かしたハイボール処理やビッグセーブ連発だけでなく、左右両足から繰り出す長短のフィードでもプレミアリーグ序盤戦に驚きをもたらしているが、その配球力がさっそくプレー集を作られるほど目立っているのは、単にキックや足下が上手いからではない。日本代表GKを早くも「戦術ザイオン」と呼ばれるまでビルドアップに組み込んでいる、ウナイ・エメリ監督のマンツーマン破壊&疑似カウンター設計論を読み解いてみよう。

「配球の多彩さ」が生きる新天地アストンビラでの役割

 今夏にアストンビラへ加入した鈴木彩艶が、試合に出場するたびに見せるディストリビューション(配球)を集めたクリップが、SNSで話題を集めている。

 2025-26シーズンまで所属したパルマでも、ロングキックの飛距離と精度が注目されることはあった。ただ、その多くは相手陣内深くへ送り込んで陣地を回復するためのキックだった。

 日本代表でも、GKがビルドアップに深く関与する機会は決して多くない。

 2025年10月以降の直近10試合における鈴木の1試合平均タッチ数は32回。なかでもパラグアイ戦(△1-1)では14回にとどまり、先発出場した選手の中で最少だった。次に少なかった南野拓実でも27回だったことを考えれば、鈴木が日本代表でビルドアップに関与する機会が限られていたことがわかる(データは『Sofascore』を参照)。

 ところが、アストンビラではその役割が大きく変わっている。

 プレミアリーグ第5節までに出場したリーグ戦4試合で、1試合平均51回のタッチを記録。数字からも、ビルドアップへの関与が増えていることがわかる。

 そして特徴的なのが、その配球の多彩さだ。

 状況に応じてキックを使い分け、ファイナルサード付近まで届くロングキックだけではない。長めにボールを持って相手を引きつけた上で、フリーになったライン間の選手へ浮き球を送り込んだり、グラウンダーのパスを差し込んだりする。

 これは前任のエミリアーノ・マルティネスも実践していた、GKを起点とした「疑似カウンター」につながる配球だ。

 その代表例が、コベントリー・シティとのカラバオ・カップ3回戦の76分にエミリアーノ・ブエンディアにグラウンダーの縦パスを通したシーンだ。

 これを可能にしたのが、相手のプレスを意図的に誘引したことである。相手の2トップが鈴木からCBへのパスコースを切ろうとプレッシャーを掛けようと狙う一方、味方のダブルボランチはあえて後方へ下がる。これによって相手のボランチ2枚も自陣の低い位置まで引き出され、最終ラインとの間にスペースが生まれた。

 縦と横に大きく空いたそのスペースへ、左サイドから内側へ絞っていたブエンディアが入り込む。鈴木から見れば、相手の2トップと中盤を一度引きつけたことで、ブエンディアへの縦のパスコースが開いた格好だ。

 これは2024-25シーズンのプレミアリーグ第17節のマンチェスター・シティ戦(〇2-1)の先制点のシーンに似ている。

 この場面でも自軍のダブルボランチに相手の2枚が食いついたところで真ん中にエミ・マルティネスがグラウンダーの縦パスを通し、収めたトップ下のユーリ・ティーレマンス(今夏にマンチェスター・ユナイテッドへ移籍)が背後に抜け出した左サイドハーフのモーガン・ロジャーズに背後へのパスを出した。

 これこそウナイ・エメリ監督がGKに求める「フィールドプレーヤーの1人としてビルドアップに参加する」という役割だ。

 鈴木はプレミアリーグ開幕直前に加入したため、プレシーズンに実戦でチームメイトと調整する機会は一度もなかった。それでも第2節アーセナル戦から、高いレベルでビルドアップに貢献している。

単に「足下が上手い」だけではない鈴木はエメリと好相性

 エメリ監督も、第5節トッテナム・ホットスパー戦を前にした記者会見で、「選手によっては我われのやり方に適応するのに時間が必要な者もいる。一方で、早く適応できている選手もいる。その1人がスズキだ」と語り、早い段階でチームにフィットしていることを明かした。

 鈴木自身もデビュー戦となったアーセナル戦後のインタビューで、「彼(エメリ)の下でプレーするのは楽しい。彼が求めているものは本当に興味深い。それが自分のスタイルだ。アーセナル戦では足でチャンスを作ろうとした。ゴールにはつながらなかったけど、これからもそれを続けていきたい」と語っている。

 加入直後からこの役割を実践できている背景には、鈴木自身の適応力に加えて、彼が持つ身体的な能力が大きいだろう。

 ノーステップでも飛距離を出せるキック力と精度に加え、両足を使ってボールを扱えることは、GKからの前進を重視するエメリとの相性がいい。単に「足下が上手いGK」というだけではない。相手のプレスを引きつけた上で、その背後へ一気にボールを送り込める選択肢を持っているからだ。

 ただ、ここまで鈴木のディストリビューションに注目が集まっているのは、彼一人が突然成長したからではない。

 エメリがプレミアリーグのトレンドを踏まえた上で「何を狙うのか」を明確にし、それを実現するための「設計」を用意しているからこそ、鈴木の能力が生きている。

 今季のアストンビラは、プレミアリーグでも特に大きな選手の入れ替わりがあった。その上で、新加入選手の合流が遅れたことに加え、唯一プレシーズンをフルで参加した新加入のジョアン・ゴメスも、開幕戦での退場によって3試合を欠場。本稿執筆時点で8人が負傷離脱するなど、スカッドの状況は決して万全ではない。

 それでもリーグ戦初勝利を挙げたスパーズ戦では、今季初めて最低限のスタメンをそろえることができた。

 そして、この試合の後半には、鈴木を含めた各ポジションの選手が、エメリの狙うビルドアップをより明確に表現していた。彼がチーム全体に施した「設計」の中で、鈴木というGKの能力が最大限に引き出され始めている。

 この「設計」こそ、今季のアストンビラを見る上での1つのポイントになる。

対マンツーマンを見据えた「背後を突く」ための補強戦略

 まずは、鈴木を獲得するに至った理由を整理したい。

……

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Profile

安 洋一郎

1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。中学生の頃よりアストン・ヴィラを応援しており、クラブ公式サポーターズクラブ『AVFC Japan』を複数名で運営。プレミアリーグからEFLまでイングランドのフットボールを幅広く追っている。

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