北中米W杯で日本代表は再び世界との差を突きつけられた。その差は戦術でも、技術でもないのかもしれない。ニュージーランドで育成年代の指導者となった元日本代表の高橋秀人と異文化からサッカーを考え続けてきた山口遼がたどり着いた答えは、「責任感と自由のバランス」という、日本社会そのものにも通じるテーマだった。日本サッカーは何を変えるべきなのか。文化、身体操作、育成まで議論は広がっていく。
日本代表に足りないのは「個」か、「勇気」か
――ここからは北中米W杯について聞かせてください。まず、お二人は今回の日本代表の戦いぶりをどう振り返りますか?
高橋「三笘、南野、遠藤選手らがいなかったというのは前提ですが、いち指導者としては世界と戦える個の部分をもっと育てていかなといけないなと感じました。特に、今回のように5バックで引いて守るという展開では、なおさらそうですね。例えば、前田大然選手や伊東純也選手は個で前に運ぶことができる。育成年代のチームを指導していると、彼らのように一芸に秀でている選手は未完成の若い時は他の能力が足りないことが多いんです。そういう選手を長い目で見守る覚悟が必要だなというのが、個人的な課題としては感じました。
もう1つ、今回の日本代表はウイングバックに攻撃的な選手を置いて戦うサッカーを志向していたので、押し込まれた時の対角クロスに対する守備は対世界での次の課題だと感じました。僕が今いるニュージーランドやオーストラリアは日本ほど緻密な守り方はしませんが、クロスに対してはバチンと弾ける。今度オークランドFCのCB(ダニエル・ホール)が千葉に行きますし、オーストラリア人のスティーブ・コリカが横浜F・マリノスの指揮を執りますが、オセアニアサッカーからも学べる部分はあると思います」
山口「大前提の感想として、チームとしても個としても強くなったなと感じました。単純に質の高い選手が増えましたし、三笘、南野、久保がいなくてもW杯で堂々と戦えたことは誇っていいと思います。それだけにもう少しやれたのではという意見もありますが、先ほどのヒデさんの話とも重なりますが、日本がここからさらに先に行くにはパーソナリティや文化の問題も大きいと思います。
強豪国の選手と比べて足りないことの1つは、パーソナリティやリーダーシップかなと。海外でプレーする選手はすごく増えましたが、今度はリバプールのファン・ダイクのような絶対的なリーダーとして認められる選手が出てきてほしいです。人間的な魅力、コミュニケーション能力、あとは自信ですよね。欧州のビッグクラブでプレーする選手にはそれがありますし、今の日本代表には純粋なサッカー選手としてのポテンシャル的にはそのレベルまで行けるだけの選手がけっこういるように感じます。
選手だけでなく、日本サッカー全体が自信を持ってチャレンジしていく環境を作っていくことが大事。これは自分も含めてですけど。フットボールというスポーツでリスクをゼロにすることはそもそも不可能ですし、ミスは必ず起きます。ミスが起きても何とかなることはあるし、ならない時もある。それも踏まえて、自分たちの良さを出すために、どこまでリスクを負うかを考えないといけません。ピッチ上もそうですし、ピッチ外のチャレンジも大事です」
高橋「ピッチ外のチャレンジというのは具体的にチーム編成として、もっと若い選手を使えということ?」
山口「それもそうですし、スタイルの選択もそうですね。強豪相手にももう少し主導権を取れるやり方にも挑戦してみる。例えば、モロッコはブラジルやオランダ相手にもボールを持って戦った上で、守備もソリッドで攻守のバランスがいいサッカーをしていました。モロッコはレベルの高いチームですが、今の日本と比べて個の能力に大きな違いがあるかと言えば、個人的にはそこまではないという意見です」
――なるほど、個の能力以前の問題であると。
山口「個のレベルアップももちろん必要なんですが、同じくらい大事なのが『勇気』や『自信』だと思うんです。それは選手個々の問題というより、日本という国、社会全体の価値観だったり、選択の仕方に根差したものだと感じています。0か100かではなく、適切にリスクを負うと同時に、ミスが起きた時の補償も考えておく」
高橋「指導者としては、単純に主導権を握る攻撃サッカーで行くという話ではないからね」
山口「はい。今のサッカーはどれか1つに特化するということはできませんし、全部できないと駄目です。レアル・マドリーも当然、押し込まれる時はあります。ただ、彼らは一人ひとりが守れる範囲が広いので、押し込まれてもボール保持者に詰めて行ける」
――ビニシウスにシャドーとウイングバックのダブルチームで行くと、バックパスを戻された先にプレッシャーがかかりにくくなるのは構造上、避けられない。[5-2-3]ブロックが自陣まで押し込まれた時に、どうパスの出どころに対処するのか。単純に個の能力だけではなく、選択の問題もあるかもしれません。
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Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。
