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なぜアズーリは変われなかったのか?(後編):“痛みなき改革”が縛る再建の条件

2026.04.06

CALCIOおもてうら#66

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。 

今回は、3大会連続でW杯出場を逃したイタリア代表敗退直後の混乱を起点に、なぜこの国のサッカーが変われないのかを考える。責任論の先にあるのは、会長や監督を替えても解決しない構造的な問題、そして利害対立に阻まれてきた改革の停滞である。「誰を選ぶべきか」ではなく「何を変えるべきか」――。アズーリ再建のために不可欠な条件とは何かを、制度と現実の両面から考察する。

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トップ交代では何も変わらないという現実

 イタリア代表がボスニアに敗れて3大会連続でW杯出場を逃した翌日、ローマのFIGC(イタリアサッカー連盟)本部に緊急の理事会を招集したガブリエーレ・グラビーナ会長は、その席上で辞意を表明し、6月22日に新会長選挙を行う手続きを取った。

 敗退当夜、試合後の記者会見で辞任の意思を問われた時には、会長としての責任を認めた上で、「私を会長に選んだ理事会に諮るべきこと」として当面は留任する意向を示していた。しかし一夜明けた後、世論の風当たりに加えて、スポーツ大臣のアンドレア・アボーディが「辞任するか、そうでなければCONI(イタリアオリンピック連盟。FIGCの上部団体)による暫定管理措置を取るべき」とコメントし、事実上政府から辞任勧告を受けた形になったこともあり、続投を断念した格好だった。

 この日の理事会に集まったのは、FIGCを構成する各セクター、具体的にはセリエA、セリエB、レーガ・プロ(セリエC)、LND(セリエD以下のアマチュア全カテゴリー)、プロサッカー選手会、監督協会という6団体のトップたち。会の席上では6団体全てがグラビーナの続投を支持したが、本人の辞意が固く最終的に辞任が受け入れられた、と発表された。

 3大会連続でW杯出場を逃すという衝撃的かつ恥辱的な事態に対して、トップの責任を問う声が大きく高まったのは当然のことであり、FIGCの内部はともかく、世論や政府当局という外部の支持が得られなくなった以上、グラビーナが身を引くのは当然と言えるかもしれない。しかしもちろん、責任者の首をすげ替えたからといって、それでイタリア代表が強くなるわけではない。

利害が改革を止める――6つのセクターという構造

 2006年には世界の頂点に立っていたイタリア代表が、それからの20年間ずるずると凋落してきた原因については、本誌の特集『イタリア代表はなぜ、弱くなったのか』で掘り下げてきた通り。現状と課題はとっくに明らかになっており、それを克服するために何をすべきかも、基本的な方向性はもちろん具体的な施策のレベルまで、かなりはっきりと見えてきている。問題は、それがいつまでたっても実現しないままで、その間にもイタリア代表(とイタリアサッカー)はずぶずぶと泥沼に沈んでいっているということだ。スタジアム問題などとまったく同じ構図である。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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