移籍記者ロマーノはジャーナリストか、インフルエンサーか?サウジ炎上問題が暴いた「Here we go!」の先にあるジャーナリズム
CALCIOおもてうら#65
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回は、移籍市場の第一報を担う男として絶大な信頼を集めるファブリツィオ・ロマーノが巻き起こしたサウジ炎上問題を入り口に、スポーツウォッシング、利益相反、そして個人ジャーナリズムという新たな潮流が抱える本質的な問題に踏み込む。それは単なる炎上ではなく、ジャーナリズムの構造変化が露呈した事件でもあった。
世界規模で燃え広がった“#ad”
2回前の当連載コラム『サッカーを支える“最後の前提”は「フェアプレー」と「良心」。インテル対ユベントス誤審論争が暴いた本質』で、セリエA第25節のインテル対ユベントスにおけるバストーニのシミュレーションをめぐる炎上騒ぎを取り上げたが、今回のテーマもまた別の炎上案件。しかも今度はイタリア国内だけでなく世界規模での大炎上である。
その主役となったのは、欧州サッカーファンなら誰もが知っている移籍ジャーナリスト、ファブリツィオ・ロマーノ。発端は、今から半月ほど前の3月3日、全世界に2700万人という莫大なフォロワーを持つ自身のXアカウントで、サウジアラビアの人道支援機関「キング・サルマン人道支援救援センター King Salman Humanitarian Aid and Relief Centre(KSRelief)」を宣伝する2分強の広告動画(#adタグがついている)を投稿したことだった。
移籍ニュースの情報量と精度の高さでサッカーファンの間に絶大な人気と信頼を得ている移籍ジャーナリストが、その活動の主なプラットフォームであるXで突然広告動画をポストし、それがよりによって人道問題で国際的な非難を受けているサウジアラビアの、しかも人道支援救援センターの案件——。これに対して、SNS上ではもちろん、マスコミレベルでも「スポーツウォッシングに加担している」という倫理的な観点からの批判が大きく広がった。
「事実の羅列」が孕む政治性
まず、議論の前提として、上記広告動画でロマーノが話している全文を、ここに訳出しておこう。少し長いが、問題を客観的に理解する上では欠かせないと思うからだ。
「キング・サルマン人道支援救援センター。設立から10年以上にわたり、同センターは世界113カ国において4212件のプロジェクトを実施しており、これはサウジアラビアの先導的な人道的役割を反映するものです。
同センターはいくつかの先駆的かつ画期的なプロジェクトを立ち上げており、その最たるものは以下の通りです。イエメンの地雷除去を目的とするマサム・プロジェクトは、現在までに54万個の地雷を除去しました。失明対策のためのサウジ・ノール・ボランティア・プログラム、および負傷者を支援しその移動能力を高めるための義肢装具プログラム。人工内耳と聴覚リハビリテーションのためのサウジ・サマ・ボランティア・プログラム、イエメンにおける少年兵およびその他の武力紛争被害者のリハビリテーションを目的とするカファック・プロジェクト。イエメン共和国においては、同センターのプロジェクトは1199件に達し、保健、食料安全保障、教育、水・衛生・環境衛生(WASH)、住居、保護、その他の重要分野を含む複数のセクターをカバーしています。
国際ボランティア活動として、58カ国において教育・研修・医療分野の1,302件のボランティア・プロジェクトが実施され、270万人以上が恩恵を受けました。サウジ国際ボランティア・ポータルを通じて8万人以上の男女ボランティアが参加しました。サウジ結合双生児プログラム:現在までに67件の分離手術に成功、155例を評価し、5大陸28カ国からの患者を受け入れています。サウジアラビア王国は2025年の人道支援において世界第2位・アラブ世界第1位にランクされ、国連財務追跡サービス(FTS)による最大拠出国リストのトップに立っています」
人道支援救援センターの広告動画とはいえ、その内容は単なる客観的事実の羅列に留まっている。ロマーノがこれを無表情かつ早口で棒読みしているところにも、それ以上のニュアンスを加えないという意図が見て取れる。しかし、だからこそ逆にこの動画は、その背景にある政治的文脈を否応なく意識させるものになっている。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
