パリSG戦で決勝弾&ビティーニャ潰し!「自分は試合から消えてもいい」南野拓実の覚悟と献身
今季4ゴール目は王者撃破の決勝点。ヒュッターからポコニョーリへ、10月に監督交代を断行したモナコで、南野拓実は変わらずチームのために走り続けている。フランス挑戦4年目を迎えた30歳の現状を、現地スタッド・ルイⅡでパリ・サンジェルマン戦を取材した小川由紀子さんがレポート。
「僕らにとって勝ち点3以上のものがあった」
11月29日に行われたリーグ1第14節で、ASモナコはパリ・サンジェルマンを1-0で下した。この敗戦が響いて、パリSGは首位から陥落。RCランスにその座を明け渡すことになってしまった。
そんな重要な一戦で決勝弾を決めたのが、南野拓実だ。
68分、アレクサンドル・ゴロビンの左からのパスを右腿でトラップすると、左足で前を塞いだ相手CBウィリアン・パテョの股下を抜く見事なシュート。決まった瞬間、胸のエンブレムをつかんで「イエス!」と雄叫びを上げた背番号18は、この試合のマン・オブ・ザ・マッチにも選出された。
モナコにとってパリSGは、昨シーズンはトロフェ・デ・シャンピオン(スーパーカップ)を含めて3回対戦して全敗した相手。一昨シーズンも、敵地での対戦では南野が同点ゴールを決めるも5-2で大敗。ホームでの再戦も0-0で勝ち点3を奪えていなかったから、2022-23シーズンの2月以来となる勝利に、試合後の南野の表情にも充実感があふれた。
「長年パリに勝ててなくて……長年ってこともないかな、2、3年。今チームも苦しい状況だったので、今日の勝ち点3は僕らにとって勝ち点3以上のものがあった。そういう意味でうれしかったです」
“勝ち点3以上のもの”で重要な一つは、連敗をストップしたことだ。
第11節パリFC戦(●0-1)を皮切りに、第12節RCランス戦(●1-4)、第13節レンヌ戦(●4-1)とモナコはリーグ戦で3連敗。その間のチャンピオンズリーグでは、ボデ/グリムト戦(○0-1)、パフォス戦(△2-2)と敗戦は免れていたけれど、リーグ1では8位まで順位を下げていた。そんな悪い流れを食い止めた上に、相手がパリSGとくれば選手たちの士気も上がる。
とはいえ南野は冷静だった。
「僕らが今、難しい状況にいる中でパリに勝てたのは大きいし、 これで弾みをつけたい。でもただの1勝なんで、リーグ戦で上位に食らいついていくためにまたやっていきたいなと思います。(連敗を止めたのは大きいが)まだこの状況を抜け出せたかどうかはわからないので、ここから5試合くらい経ってみないと……」
ポコニョーリ新監督の色、今のモナコが抱える課題
モナコは10月上旬の第7節ニース戦(△2-2)に引き分けた後、アディ・ヒュッター監督の更迭に踏み切った。昨シーズンから噂は流れていて、サポーターから解任を求めるチャントを聞くこともあったので、遅かれ早かれ、とは思っていた。それでも開幕から4勝1分2敗で5位とそれほど壊滅的な状況ではなかったから、代表ウィーク中の交代劇は驚きだった。
新指揮官に迎えられたのは、38歳の元ベルギー代表DFセバスティアン・ポコニョーリ。2024-25シーズンにユニオン・サン・ジロワーズを90年ぶりのベルギーリーグ優勝に導いたことで脚光を浴びた若き指導者だ。
シーズン途中に着任した場合、それまでのシステムを引き継ぎながら徐々に自分色を出していく監督もいれば、即座に変更を加える監督もいる。ポコニョーリ監督は後者だったようで、デビュー戦からさっそくフォーメーションを3バックに変更。中盤にアフリカにルーツを持つフィジカル自慢の4人を固定したことで、南野はベンチスタートとなった。
その第8節アンジェ戦(△1-1)は、70分に投入された南野のアシストからフォラリン・バログンが決めて先制したものの、終了間際に同点とされて指揮官の初戦を勝利で飾れず。翌戦以降も同じシステムを継続し、そこから2連勝して一時は3位まで浮上したが、その後は先述の通り3連敗して8位まで順位を下げたところでの、パリSG戦だった。
この試合でも“なんとかこのまま1点を守って逃げ切りたい!”と、ファンが祈るように時計を見つめていた80分に、キャプテンのティロ・ケーラーが一発レッドで退場するというアクシデントが発生。“またいつもの終盤追いつかれパターンか……”と嫌な空気も漂ったが、86分に南野がポール・ポグバと交代して退いた後も7分という長いアディショナルタイムを必死にしのぎ切り、モナコは勝ち点3をゲットした。
南野も「悪いことが頭をよぎりましたけど……」と苦笑しつつ、
「そこのメンタリティが今の僕らには一つの課題だなと思っていて。困難なことがあった時に跳ね返す力というか、チームとして一つにまとまって戦い続けるというのが。 前の試合でもレッドカードをもらってからそういうふうに崩れたし(注:レンヌ戦の66分にデニス・ザカリアが退場)。でも今日はそこを全員でしっかり食い止めることができたので、 それは良かったかなと思います」
と全員が一丸となって集中力を持続した手ごたえを口にした。


「2人と一緒に何かを残さないといけないなと思っていた」
……
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。
