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リバプール対アーセナル分析(後編):「リスク回避」優先で中央ライン間に置けるのは1人。ユニットの互換性を生む“もう1枚”をどう用意する?

2025.09.04

筆者が「モダンフットボールの流行の最前線に立つ2チーム」と評価するリバプールとアーセナルが激突したプレミアリーグ第3節。注目の大一番から見えてきた最新戦術トレンドを山口遼氏に分析してもらった。後編では、ファイナルサード攻略の局面でもボールを奪われた際のリスクを考慮し、前線中央のライン間に「1人」しか置けなくなっている現状=膠着状態の多発を打破するために何が必要なのかを考察してみたい。

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 前編で考察したビルドアップの最新傾向、分析していてもあまり胸が躍るような感じはしないが、それは基本的にビルドアップ単体の完成度を上げるような意図がお互いにあまりないからだろう。むしろビルドアップ単体で言えばかなり雑になり、あまり上手くいかずにボールを失ってしまうような場合もよく見られるようになってきている。やはりビルドアップに局面を閉じて完成度を高めようとすれば、細かいポジショニングの調整がもっと必要になるし、ライン間や中央のスペース、選択肢をもっと使った方が良いということだ。

 しかし、今日のフットボールではむしろビルドアップから他の局面に移った時、特にボールを失った時の接続性が最も重要視されるようになってきていて、その結果が後ろに6人をかけて前線、特に中央のバイタルエリアには最悪人がいなくても良いという発想なのだろう。もしかしたら過密日程によって十分にトレーニングする時間が取れないことも踏まえて、「完成度が低くても大崩れしない」という点で導入コストも低いこともこの傾向を助長しているかもしれない。

 個人的な感想を言えば、局面間の相互作用を気にするようになったという意味では視点はよりメタ的になっていて「進化」と捉えられる気もするが、一方でボールプレーを雑にしている点や、「導入コストは低く抑えたい、局面としての完成度はそこそこのものは作りたいが大ケガもしたくない」というのは何ともインダストリアルな発想に思えてあまり好きにはなれない方向性だと感じた。何らかのブレイクスルーが必要で、それはそのまま両チームの課題になっているとも言える。

エゼとマドゥエケに求められる多様な役割

 2チームともに世界最高レベルのインテンシティを誇る中で、攻撃の完成度はそこそことなるとゲームが膠着するのも必然と言える。

 攻守のバランスで言えば、リバプールの方がやや攻撃に良さがある反面、守備はスペースを与えてしまう瞬間も見られ、逆にアーセナルは世界でも有数の完成度を誇る[4-4-2]の守備にこそ強みがあり、特に負傷者の影響もあり攻撃で違いを作れるような状態ではないように見えた。そのため、五分五分で膠着した展開と言いつつも厳密に言えばリバプールがやや攻勢で、時折プレスラインを切って危険なスペースに侵入して決定機につながりそうなところをアーセナルが素早い1stDFの決定でしのぐという現象を繰り返し、決定機という決定機は生まれないままゲームは進んだ。

 アーセナルの守備は特別なアイディアや目新しい要素はほとんどなく、とにかく基本に忠実で全員の守備意識が高いことによって堅守を獲得していて(もう少し自分たちが主導権を持って振る舞えるような守備の工夫をしても良いのではと思う瞬間がないわけではないが)、世界中の指導者はこれを守備の基本として学ぶべきという完成度を今シーズンも引き継いでいる。

 膠着したままの試合展開に終止符を打ったのはやはりセットプレーで、とんでもないクオリティのキックがソボスライから飛び出してゲームセットとなった。

 とはいえ、開幕した現段階でセットプレー、それも直接FKによる1点差のゲームを良かった/悪かったというのもあまり意味があるものとは思えない。どちらも戦術的には途上、特に新戦力がチームにどのような可能性をもたらすかが今後のポイントとなってくるだろう。

 アーセナルで言えば、継続性のある戦い方にどう新しいピースが戦術の幅や進化をもたらすのか。

……

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Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd

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