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キャプテン肌ではないが、唯一無二のリーダー。渡大生は、徳島で仲間とともに「上」を目指す

2025.08.27

J1昇格を狙える位置につけている増田功作監督体制2年目の徳島ヴォルティス。今シーズンのチームをけん引している1人が、渡大生だ。堅守を支える前線からの献身的な守備はもちろん、言動やプレースタイルそのものでチーム全体を向上させている。仲間とともに「上」を目指すリーダーの肖像を伝えたい

キャプテンマークに込められた意味

 キャプテン×ト×リーダー。

 プレシーズンからずっと最前線にいる。今シーズンの徳島をけん引しているのは間違いなく渡大生。彼が中心にいて、チームが血を巡らせて呼吸をしている。

Photo: ©TOKUSHIMA VORTIS

 徳島の在籍はキャリアにおいて2度目。

 1度目は2016から2017シーズン。23歳になるシーズンにやってきた。初年度は途中出場の多いシーズンだったが短時間でも得点を量産した。41試合12得点。2021分の出場時間は90分換算で言えば約22.5試合。単純計算で2試合出場すれば1得点以上になる。印象深い得点は第15節・北九州戦(1-0)。古巣戦でゴールネットを揺らした直後の興奮した立ち姿は言葉では形容できないものだった。2年目の2017シーズンは主力中の主力として先発出場を中心に42試合23得点。その記録は徳島の1シーズン最多得点としてクラブ史に現在も刻まれている。そして、その結果を認められて個人昇格する格好で地元の広島県へ旅だった。

Photo: Getty Images

 2度目は2023シーズンから現在に至る。30歳になるシーズンに再びやってきた。久々に見た彼は何かと戦っているように見えるが、その相手が何なのか筆者にはわからなかった。チーム最多9得点を記録した昨シーズンも背中で語ってはいたが、今シーズンのそれとは別に見えた。ただ、今は自分自身と戦うその背中にチームメイト全員が導かれているように見える。

 一坪の海岸線。

 その景色を眺めるためのイベント発生条件はアカンパニーのスペルカードを使って15人以上でソウフラビへ行くことだった。一坪の海岸線を眺めるためには単独で辿りつけなかった。それは漫画『HUNTER×HUNTER』の話ながら、Jリーグの昇格争いも似ている。チームを束ね始めた渡に増田功作監督は開幕から多くの試合でキャプテンマークを託してきた。

Photo: ©TOKUSHIMA VORTIS

 このキャプテンマークにはエピソードがある。

 そのエピソードを知るきっかけになったのは第6節・山形戦(△0-0)。キャプテンの岩尾憲が負傷による長期離脱を強いられてメンバー外という状況で、誰がどういう理由でキャプテンマークを巻いているか知らなかった。そのことを取材するきっかけになったのは開幕から先発出場していた渡がベンチスタートだった同試合で、田中颯がキャプテンマークを巻いた経緯に興味が沸いたことだった。

 「誰が巻くかは監督が決めます。ロッカールームに監督がキャプテンマークを置いています。それを見て初めて自分が巻くことを知ります。第6節・山形戦の前日に“明日は誰が巻くのか?”という話は選手間でも話題になっていて、俺か、鹿沼(直生)か、みたいな予想になっていましたが俺でした。主審と会話をする役割以外にもキャプテンマークには重要な役割があると思っていて、一番影響力のある人が巻くものだと思います。そういう意味では今、大生くんがリーダーです。その姿勢を若い選手が吸収していくべきだと感じています」(田中)

山形戦のスターティングイレブン。後列右から1番目が田中

 昨シーズンはキャプテンとしてキャプテンマークを巻いた永木亮太。彼も、その意味を言葉にした日がある。岩尾が負傷した同時期に、副キャプテンの1人である永木の長期離脱も重なった。

 「俺も憲も抜けてしまって、大生や、(児玉)駿斗や、青木(駿人)が引っ張ってくれたことは話としても聞いています。彼らも自ずと責任感が増したと思いますし、キャプテンマークを初めて巻いた選手もいたと思います。キャプテンマークを巻くと気持ちも精神的にも絶対に変わるものなので、それも経験できたことはチームにとって良かったことだと思います」(永木)

 増田監督が洒落た託し方をしていることも興味深かったが、それらの質問は機が熟すのを待った。そして、後半戦に入ったところで前半戦総括も含めて渡がキャプテンマークを巻いた回数が最も多かった理由を尋ねた。

……

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Profile

柏原 敏

徳島県松茂町出身。徳島ヴォルティスの記者。表現関係全般が好きなおじさん。発想のバックグラウンドは映画とお笑い。座右の銘は「正しいことをしたければ偉くなれ」(和久平八郎/踊る大捜査線)。プライベートでは『白飯をタレでよごす会』の会長を務め、タレ的なものを纏った料理を白飯にバウンドさせて完成する美と美味を語り合う有意義な暇を楽しんでいる。

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