今夏20人加入&26人放出は世界最多!暴露も伏線に変えた新CEO、ボバンがディナモに起こす革命
炎ゆるノゴメット#20
ディナモ・ザグレブが燃やす情熱の炎に火をつけられ、銀行を退職して2001年からクロアチアに移住。10年間のザグレブ生活で追った“ノゴメット”(クロアチア語で「サッカー」)の今に長束恭行氏が迫る。
第20回は、今夏の移籍市場で20人加入&26人放出と世界最大のチーム再編成を敢行している、ディナモの革命について。
新鮮な「素材」だけでなく「料理」する時間も確保
「ディナモには新たな選手がたくさん加わった。これはまさに革命だ。残念ながら(革命は)起こるべくして起こったものであり、しばらくは問題が残るだろう。マリオ(・コバチェビッチ監督)ができるだけ早くその問題を解決し、選手たちが全力を尽くしてくれることを私は願っている」
6月1日にディナモ・ザグレブのCEOに正式就任したズボニミール・ボバンは、7月18日にクラブ公式YouTubeで公開されたロングインタビューにおいて、この夏に敢行したリストラを「革命」に例えた。
ボバンのCEO就任承諾が発表されたのは4月14日。その時点でクロアチアリーグでは首位と勝ち点差「8」も引き離されていたが、毎試合のように視察するレジェンドに刺激を受けたチームは調子を取り戻した。しかし、第35節のロコモティーバ戦に引き分けて自力優勝の可能性を失うと、最終節(第36節)バラジディン戦での消極的なプレーに不満を抱いたボバンはハーフタイムで貴賓席から姿を消した。これが革命の合図だった。
最終的に勝ち点で並びながらもリーグ優勝をリエカに奪われたチームに対し、ボバンは大鉈を振るっていく。その「切れ味」の凄まじさは統計にも表れている。『トランスファーマルクト』によれば、ローンバックを除外した2025-26シーズンの加入選手数「20人」は8月14日時点で世界1位。放出選手数「26人」も世界1位だ。
特筆すべきは、あっという間にチームを編成したボバンの実行力だろう。これまでのディナモは7~8月に欧州カップ予選を戦いながら選手売買を重ねることが常だった。国内リーグも始まっている分、選手たちの疲労は蓄積していく。チーム作りがままならず、成績も伴わない監督は早々と更迭されていた。ところが、今季のディナモは大きなアドバンテージを手に入れた。ECL優勝クラブに与えられるEL出場権が空いたことから(チェルシーがプレミアリーグ4位でCL出場権を得たため)、EL予選の参加クラブで最多のUEFA係数を保有するディナモに予選免除の特典を与えられたのだ。
昨シーズンのディナモは4人の監督が率いるほど大迷走したが、ボバンは早々と次期監督の目星をつけた。序盤最下位のスラベン・ベルーポを蘇らせ、カップ戦準優勝を果たしたコバチェビッチだ(ちなみにベルーポがカップ戦で優勝した場合、ディナモはECL予選2回戦からのスタートだった)。ビッグクラブの指導歴はないものの、どのクラブでも攻撃的なサッカーを植えつけ、その純朴な人柄から誰からも愛される指導者だ(詳しくは連載コラム『民族紛争、八百長事件、古巣破産、がん闘病を乗り越えてスラベンと快進撃!マリオ・コバチェビッチ監督の「愛すべきキャリア」』を参照)。そんな彼のためにボバンは早くに新鮮な「素材」をそろえ、「料理」する時間をしっかりと確保した。6月5日の就任会見でコバチェビッチ新監督はこのように述べている。
「新シーズンの始動は6月18日。それまでに新チームのメンバーの90%がそろう予定だ。シーズン開幕までは45日ある(EL開幕までは68日)。これは新たなチームを編成し、ディナモとファンが望むプレーを構築する時間があるということ。まずは選手の実力向上を目標とし、トレーニングの強度を重視していく。そして開幕からのスタートをしっかりと切る。ディナモにとって特別なシーズンになることを全員に示したい」
「独裁的な手法がとられている」?元エースが爆弾を投下
真っ先にチームでリストラ対象になったのは、「上院議員」と呼ばれている代表クラスのベテランたちだ。
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Profile
長束 恭行
1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。
