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【イタリア代表アナリスト分析】京都サンガの「秩序維持ではなく、密度を高めてデュエルに行く」カオスプレッシングの強みと弱み

2025.08.13

レナート・バルディのJクラブ徹底解析#8
京都サンガF.C.(後編)

『モダンサッカーの教科書』シリーズの共著者としてfootballistaの読者にはおなじみのレナート・バルディ。ボローニャ、ミランなどセリエAクラブの分析担当を歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師を任されている。現在はイタリア代表のマッチアナリストとしてスパレッティ体制に引き続き、ガットゥーゾ監督を支える「分析のプロ」の目で、Jリーグ注目クラブの戦術フレームワークを徹底的に解析してもらおう。

第7&8回は、J1第24節時点で首位から4ポイント差の4位と大きなサプライズになっている京都サンガF.C.。「これまで分析してきた浦和、柏、鹿島とは明らかに異なるタイプのチーム」という曺貴裁監督のスタイルを掘り下げてみたい。後編では、「積極的でアグレッシブだが、非常にリスキーなやり方」という守備全般について分析する(本文中の数字は8月6日の取材時点)。

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「考えずに襲いかかる」ゲーゲンプレッシング

――ボールロストを怖れずアグレッシブかつダイナミックに前線に押し込む京都のゲームモデルにとって、ネガティブトランジション(攻→守の切り替え)はきわめて需要ですよね。

 「もちろんです。ボールロスト時の第一の選択肢は即時奪回です。多少無秩序でもボールに圧力をかけ、相手を窒息させて基準点を奪い、すぐに奪い返そうとします。チーム全体のバランスはあまり考慮せず、深く考えずに襲いかかる。ファウル数が一番多いのがCFのエリアスだというのは象徴的です。

 ただ、このゲーゲンプレッシングには秩序と連携が不足しています。ボールの出口を塞ぐのか、周囲の受け手をマークするのか、そうしたディテールの部分で原則が明確ではない。また、後方のCBやアンカーも予防的マーキングをあまり意識せずに開いたポジションを取っているため、最も危険な中央のスペースが十分にカバーされていないことが多い。即時奪回が成功せずにボールを持ち出されてしまうと、一気に危険なトランジションを許してしまう結果になります。ファーストサードのスプリント数がリーグでダントツ1位というデータも、カウンターを喫して背走を強いられる頻度の高さを反映するものです」

――相手のビルドアップに対してもアグレッシブにハイプレスを仕掛けていきますよね。

 「はい。相手のゴールキックに対しても、後方からのビルドアップに対しても、後方で同数になる状況を許容して、マンツーマンでハイプレスを仕掛けていきます。場合によっては後方でマイナス1、つまり数的不利を受け容れることすらあります。というのも、前線3枚のうちの1人がGKへのバックパスに対してもプレスに行くからです。しかも、多くのチームがやるようにパスを出したDFへの戻しのパスコースを切りながら寄せるのではなく、マークを放して一直線にGKにプレスに行き、そのDFには後方のMFがマークを放して前にスライドする。そのため、時には最終ラインで数的不利が生じ、敵FWがフリーになることすらあります。これは積極的でアグレッシブな姿勢という点では評価に値しますが、非常にリスキーなやり方ではあります。チーム全体の秩序やバランスが損なわれることは明らかだからです。私の考えでは、たとえリスクを取るにしても、後方での数的均衡の維持、あるいはせめてボールから最も遠いゾーンではマークをぼかしてゾーンで守るなど、最低限のバランスは保たれるべきです。

 また、ボールが中央にある時に、一方のサイドに追い込む明確な意図を持たずに正面からプレッシングを行うこともあります。今ではほとんどのチームがビルドアップのクオリティを備えているため、中央からの正面プレッシングは大きなリスクを伴います。どこかに必ず時間とスペースに余裕を持ってパスを受けられる選手がいるからです。実際、正面からやみくもにプレッシャーをかけてかわされ、一気に前進を許す場面が何度か見られました。GKへのバックパスに対してもそうですが、勢いに任せて前に飛び出すだけで、プレッシングに組織的な連携や秩序が不足している印象は否めません。もちろん、うまく行けば相手から時間とスペースを削り取り、ボールを奪って逆襲に転じることができます。しかしうまく行かない時には、広大なスペースを背後に残し、50m、60mの背走を強いられることになる」

――ファーストサードのスプリント数がダントツで多いという話ですね。

 「はい。個人で見ると、エリアスはともかく、トゥーリオのプレッシングには明らかな問題点があります。本来ならばSBへのパスコースをカバーすべき場面でCBに寄せてしまい、フリーにしたSBに簡単に展開されてしまう場面がありました。4バックに対して3トップでプレスをかける時、ボールから遠い方のウイングがCBに寄せるのは、逆サイドのSBにパスが渡った時ですが、彼はもう1枚のCBがボールを持っている時に目の前のCBに寄せてしまったのです。

 敵のビルドアップに対するハイプレスでは、このようなミスからボールを奪えないまま持ち出されてしまう場面も少なくありません。しかしそうなればそうなったで、きわめて迅速にリトリートしてコンパクトなミドルブロックを形成し、相手の前進を食い止める術を持っていることも事実です。受動的なままずるずる押し込まれることはなく、前後左右にコンパクトなブロックを保って相手を押し戻す強さを持っている」

ボールサイドに密度を高めるミドルブロック

――ミドルブロックの配置は[4-4-2]ですか?

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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