【イタリア代表アナリスト分析】柏レイソルの中盤ラインに数的優位を作るミドルプレスは「非常に面白い試み」
レナート・バルディのJクラブ徹底解析#4
柏レイソル(後編)
『モダンサッカーの教科書』シリーズの共著者としてfootballistaの読者にはおなじみのレナート・バルディ。ボローニャ、ミランなどセリエAクラブの分析担当を歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師を任されている。現在はイタリア代表のマッチアナリストとしてスパレッティ監督を支える「分析のプロ」の目で、Jリーグ注目クラブの戦術フレームワークを徹底的に解析してもらおう。
第3&4回は、新たに監督に迎えたリカルド・ロドリゲスが志向するポジショナルなスタイルと新戦力ががっちり噛み合い、再現性の高いサッカーを見せている柏レイソル。後編では前進守備、ハイ・ミドル・ロープレス、ブロック守備など、ネガティブトランジション(攻→守の切り替え)+守備パート全般を分析する(本文中の数字は4月18日の取材時点)。
前進守備からブロック守備への移行で1つの弱点
――後編ではボール非保持の局面を見ていくことにしましょう。戦術としてはボールロスト時にはゲーゲンプレッシング、相手のビルドアップに対してもハイプレスと「前に出る守備」を志向しているけれど、データ的にはデュエル勝利数がリーグで最下位という、やや矛盾した側面を持っているという話がありました。
「ええ。ボール保持局面ではコンパクトな陣形を高く押し上げているので、ボールロスト時にはゲーゲンプレッシングに自然な形で移行できます。その切り替えの意識も全員に浸透しています。ただ、ボールホルダーに『飛びかかる』(これはレッドブルグループでよく使われる言い方です)ような激しさ、フィジカルコンタクトを挑んでボールを奪い切る球際のアグレッシブさに欠けているため、高い位置で即時奪回することはごく稀で、ほとんどの場合は奪いきれずにボールを持ち出され、ミドルブロック、ローブロックでの守備を強いられることになっています。
このネガティブトランジションにおける前進守備からブロック守備への移行は、現時点における柏の弱点の1つかもしれません。敵陣に押し込んだ状態では3バックと2ボランチの5人、そうでなくともCBの古賀、田中とボランチの原川の最低3人はボールのラインより後方に留まって予防的カバーリングを行っているので、最も危険な中央3レーンはカバーされています。ただウイングバック(WB)の久保、小屋松が高い位置まで進出していることが多いため、相手がゲーゲンプレッシングを回避してボールを持ち出し、最終ラインをはじめチームが背走を強いられた時には、WBの戻り遅れが起こりがちです。3バックだけではピッチの幅をカバーすることはできませんから、その脇というか、戻りきらないWB背後にスペースを許してしまい、そこを衝かれると困難に陥ることになります。実際にそういう場面が一度ならず見られました。
ただ、前編でも触れた通り、守備そのものには明確な秩序があり、総じて安定しています。失点はリーグで少ない方から2番目、被枠内シュートが7番目というのは悪くない数字です」
――敵のゴールキックに対しては、高い位置からプレスに行くのでしょうか。
「原則的にはそうだと思います。前線から人に基準点を置いてマンツーマンでプレッシャーをかけて行きます。ただ、それほど深追いすることはなく、守備の構造を大きく崩さない形でプレッシャーをかけ、相手を追い込んでロングボールを蹴らせることができればよし、そうでなければパスが数本つながる間に通常のプレッシングに移行する格好です」
――通常の、敵のビルドアップに対するプレッシングも、最終ラインに対してハイプレスを仕掛けて行くのでしょうか。
「はい。完全なマンツーマンではなく、例えば[5-2-3]のようなコンパクトなブロックを形成して、そこから基準点に対して前に出てプレッシャーをかけて行きます。『ゾーン内で人を見る』やり方ですね。前後左右ともコンパクトな距離感を保って、ボールサイドの密度をぎゅっと高めていく。ブロックの配置には流動性があり、相手の配置に応じて[5-2-3]、[5-2-2-1]、[3-4-2-1]といった構造を取ります。左右のWBは必ずしも最終ラインまで下がるわけではなく、一方が下がってもう一方は中盤ラインにつながる、あるいは前に出て敵SBにプレッシャーをかけることもあります。ボールに対しては継続的にプレッシャーをかけ続ける、ボールがオープンな状態はできる限り作らせない、という原則が窺われます」

前線ラインは同数以下、DFラインは同数で、中盤ラインが数的優位
――柏のプレッシングで特徴的な部分は何でしょう。
「中盤ラインの人数バランスですね。敵のビルドアップ第1列に対しては同数でプレスに行くこともありますが、マイナス1、つまり1対2や2対3になる配置を取る場合も多いです。そこで興味深かったのは、通常なら前線で浮いた1人は最終ラインで数的優位を確保するために使うものですが、柏の場合は中盤ラインに1人多く配して、最終ラインは敵FWとの同数を受け入れる配置を取っているのです。ボールサイドのボランチが基準点を持たない形で浮いて、前線へのパスコースを消すポジションを取る場面が、繰り返し見られました。もしこれが意図的かつ戦略的な選択であれば、非常に面白い試みだと思います。
……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
