5月から6月にかけて開催されたFIFA U-20W杯は、その舞台へと参戦した日本の若武者たちに、さまざまな感情を突き付けた。結果は無念のグループステージ敗退。ただ、立ち止まってはいられない。ある者は欧州へと旅立ち、ある者は今の場所でさらなる飛躍を誓い、またある者は新天地での勝負を選択する。もちろんすべてはさらなる成長のため、再び世界と対峙するためだ。松田隼風、春名竜聖、永長鷹虎。水戸ホーリーホックと縁の深い3人が、ここから踏み出していく新たな道への期待を、デイリーホーリーホックでおなじみの佐藤拓也が綴ってくれた。
ハノーファーへと旅立った松田隼風が抱いた危機感
7月7日、ブンデスリーガ2部のハノーファー96が始動後初めてトレーニングマッチを行ったが、そのピッチには2人の日本人選手が立っていた。1人は元日本代表DFの室屋成。2020年からハノーファーに在籍し、昨季まで主力としてプレーしてきた室屋は右ウイングバックとして先発起用されていた。
そして、もう1人はU-20日本代表DF松田隼風だった。今年6月に水戸ホーリーホックからハノーファー96 U-23に期限付き移籍。この試合に向けて、トップチームに招集され、左ウイングバックとして先発起用されたのだった。
ほぼぶっつけ本番のプレーとなったものの、松田は左サイドで幅を作る役割をこなしつつ、再三ボールを受けて攻撃の起点となっていた。自慢の正確なクロスを上げる場面はほとんどなかったものの、高い技術とスピードなどトップの選手たちとそん色のないプレーを見せていた。その後に行われたオーストリアキャンプへの帯同はかなわなかったとはいえ、海外での挑戦において、大きな第一歩を踏み出したと言えるだろう。
「両クラブの発展と人材育成を主目的とした育成業務提携」を目的に、水戸とハノーファーが契約の締結を発表したのは4月末。契約の内容は多岐にわたり、その中の一つとして「2023年7月1日から3年間、水戸に所属する若手選手が毎年1名、ドイツ・ブンデスリーガ2部所属のハノーファー96のU23チーム(レギオナルリーガ所属:ドイツ4部リーグ相当)へレンタル移籍し、そこでトレーニングや試合を通じてトップレベルへのステップアップを目指す」とあり、その第一号として選ばれたのがU-20日本代表の松田だった。

「前から海外でプレーしたい思いがあったので、素直に嬉しかったです。そこでまた違う覚悟が湧きました」
クラブから移籍の打診をされた時の思いをそう振り返る。
松田の中で明確に海外に出てプレーしたいという思いを抱いたきっかけとなった試合があった。それは昨年、フランスで開催されたモーリスレベロトーナメント(旧トゥーロン国際大会)にU-19日本代表として参加した時のこと。同大会でアルゼンチン代表と対戦した際、現在マンチェスター・ユナイテッドに所属して、フル代表にも選出されるようになったアレハンドロ・ガルナチョとピッチ内で対峙して、世界との差を痛感したという。
「本当にこれが日常の基準が高いチームでプレーしている選手なのだと思いました。自分も早くそのレベルでプレーしたいというきっかけとなりました。このままでは差を広げられてしまう」
そんな危機感を抱かされたのだった。
強い覚悟を持ってドイツの地で勝負に挑む
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Profile
佐藤 拓也
1977年生まれ。神奈川県出身茨城県在住のフリーライター。04年から水戸ホーリーホックを取材し続けている。『エル・ゴラッソ』で水戸を担当し、有料webサイト『デイリーホーリーホック』でメインライターを務める。
