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「Jクラブはスタジアムを区分所有すべき」元Bリーグチェアマン・大河正明のJリーグへの提言

2020.10.15

大河正明(大阪成蹊大学スポーツイノベーション研究所所長/元Bリーグチェアマン)インタビュー

Jリーグでクラブライセンス制度の設計から運用を担った後、Bリーグのチェアマンとして創設から発展を支えた大河正明氏。異なるプロスポーツの現場を知るファイナンスのスペシャリストに、両リーグの立場から離れた今、あらためてJリーグへの提言を聞いた。

放映権ビジネスの新しい形。Jリーグの「メディアカンパニー化」

――大河さんはJリーグでクラブライセンスマネージャーを務めた後、Bリーグのチェアマンとして最前線で指揮を執っていました。現在は外から見守る立場として、あらためてJリーグへの提言を聞かせてください。

 「JリーグはDAZNさんとの放送配信契約があって、今年10年から12年契約になりましたけれど、年間約200億円の収入があります。そこから映像制作などにかかるコストを差し引いても、年間100億円以上の真水の収入が残るわけです。個人的な意見を言わせてもらうと、優勝賞金のように成績上位のクラブに手厚く配分することも大切ですが、スタジアムやデジタルといった投資に大きく使ったら良いと思います。例えば、地上波放送優位の時代はどこかで終わりがくるでしょう。実際にサッカーも野球も地上波のコンテンツではなくなりつつあります。地上波は広告出稿者を集めて営業案件で番組を作っているケースもあるので、試合の2時間をどう放送するかが重要です。湘南ベルマーレのドキュメンタリーのように選手の24時間、クラブの24時間をコンテンツ化した動画をJリーグが一括で配信できる環境を整えるのはすごく大事になってくると思います。日本でJリーグのコンテンツの権利を持っているのはJリーグしかいないですし、現在は映像制作も自前でやっているので実現できる可能性はあると思います」

――そこはリーグが一括してやるのか、海外クラブのように各クラブが独自にやるのかは1つの選択肢ですよね。

 「クラブが独自でやるとなると2割のクラブがうまくいくものの、8割のクラブがうまくいかない可能性もある。Jリーグは社団法人です。共存共栄が社団法人の原理原則だとすれば、各クラブの日々の練習風景だったりとか、選手のプライベートを個々に流すこともよいですが、もっと一体となって川上から川下まで流せる仕組みを作ることも大切だと考えます。ネットから地方のケーブルテレビまで含めてどんどん提供していく。こういうメディアカンパニー化――Jリーグが映像を作って直接的に顧客と繋げる、さらには課金制にしていくことも考えられます」

――それはヨーロッパのサッカークラブもやってますね。リバプールやマンチェスター・シティもオウンドメディアのサブスクリプションサービスで、試合のアーカイブ映像や選手のドキュメンタリー番組を配信しています。リバプールはYouTubeチャンネルでもメンバーシップを導入しているくらいです。クラブ自身がメディア化する流れは世界的に強まってきています。

 「日本だとパ・リーグがパ・リーグTVを運営しているような話ですね。独占契約で売れないと得られる放送権収入が下がるのかもしれませんが、コンテンツの権利者が本当は一番強くないとおかしいと思っています。今までは『放送をお願いします』と頭を下げに行っていたわけです。もちろんそれも必要ですけど、コンテンツを磨く努力は続けなければいけない。だから、クラブや選手に付随するものを、もっともっと自由度を持って流していくことが問われる時代になってきています」

――リーグがテクノロジーを利用して一括で舵取りしている仕組みとしては、チケット購入システムがありますよね。チケッティングはこちらのやり方の方が明らかに効率的ですよね。

 「規模が大きいプロ野球は個別でやっているようですが、Bリーグも一括してやっていました。数を集めて一括で管理した方が費用対効果が良い。どこのチームの試合のチケットを買いに行くにも同じシステムで買えますよね。一度チケットシステムを登録すれば何度でも購入できるし、売り手としても一度開発すれば何度でも販売できるので、インフラとしては大事です。将来的な話をすると、チケットシステムはマーケティングシステムに変化していくでしょう。一部で試行されていますが、座席で飲食と物販すべての購入を行えるようになれば、買い手も混雑を避けられるし、売り手も行動履歴や満足度を調べられる。スマホひとつで並ばなくてもビールが飲めるサービスは、プレミアリーグのトッテナムが実用化を検討しているようです 。そうしたデータを蓄積してマーケティングに応用する場合に、一つひとつのチームが独自のシステムを使うのは得策ではない気がします。Bリーグも今シーズンからダイナミックプライシングを導入するのですが、アメリカなどと比べるとまだまだ発展の余地がありますね」

2019年に開場した最新の設備が整うトッテナム・ホットスパー・スタジアム。20-21シーズンからシーズンチケットホルダー向けに飲食物の事前注文サービスを開始する予定だったが、コロナ禍による無観客開催が続いている

――需要に合わせて座席の値段を変えていくダイナミックプライシングは合理的ですよね。

 「合理的ですね。同じブロックで指定しても、需要の高い前側、通路側、外側の座席の値段を少し高くして、真ん中の席を少し安くすると、全部売れた時の収入は間違いなくダイナミックプライシングの方が高くなると思います。あとは一般販売。NBAにもヒアリングしたんですけど、75%がシーズンチケットです。NBAは当時41試合ホームゲームがあったのですが、全試合は行けないからリセールで売買する人が多くいます」

「Bリーグのアリーナ」と「Jリーグのスタジアム」の違い

――チケッティングに関連してスタジアムの話もさせてください。欧州クラブのいくつかのスタジアムは、ショッピングモールなどと一体化しています。ああいう複合化スタジアムは日本でも作るべきでしょうか?……

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Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。