SPECIAL

ネーム&ナンバー統一の担当者を直撃。「視認性」に秘められたJリーグの理念

2020.10.14

川﨑濃(Jリーグ・ブランドマネジメントリーダー)&橋場貴宏(Jリーグ・ブランドマネジメントクリエイティブオフィサー)インタビュー前編

9月15日、Jリーグはオフィシャルネーム&ナンバーの導入を発表。これまで選手の背負う番号と名前の色とフォントは各クラブが独自に用意してきたが、2021シーズンからリーグ全体で統一される運びとなった。

親しみのあるデザインから突如、別れを告げることになったファン・サポーターの間では様々な議論が巻き起こっているが、なぜJリーグは導入に踏み切ったのか。担当者であるブランドマネジメントリーダーの川﨑濃氏、ブランドマネジメントクリエイティブオフィサーの橋場貴宏氏を直撃した。

一番の理由は「視認性」


――2021シーズンからJリーグは、Jリーグ公式戦(J1~3、J1参入プレーオフ、リーグカップ、スーパーカップ)でオフィシャルネーム・ナンバーを導入します。この決定にはファン・サポーターの間でも様々な意見が飛び交っていますが、まずは目的について教えてください。

川﨑「目的は『選手が背負っているネームとナンバーを少しでも見やすく・わかりやすくすること』です。特に背番号は新しいお客さんに興味・関心を持ってもらうきっかけのひとつになりますが、見づらくなってしまっていることがわかったんです」


――どのように気づかれたのでしょうか?

川﨑「気づいたきっかけはDAZNさんとの契約以降、僕たちJリーグが中継制作を行うようになったんですけど、試合映像を見返していく中で『そもそも背番号が見にくくないか?』という問題意識が芽生え始めたんです。スタジアムやテレビの前で試合を観戦しているファン・サポーターのみなさんの立場で考えても、選手がいいプレーを見せた時はその選手の背番号を見るじゃないですか。せっかく選手に興味を持ってもらうチャンスを自らないがしろにしていたということで、2年前にプロジェクトをスタートさせました。2018年頃から、村井(満)チェアマンもインタビューの中で触れていますね」

橋場「さらに、現在では様々な視聴環境が整えられてきています。従来の観戦方法はスタジアムかテレビの2択だったのですが、スマートフォンやタブレット上でサッカーを楽しむ機会も増えてきている。そうしたデバイスの小さな画面上でも背番号を視認できることが必要になりました。時代の潮流も一因ですね」


――具体的に、今はどれくらいの方がスマートフォンでサッカーを見ているのでしょう?

橋場「複数回答でアンケートを取ったところ、7割ものファン・サポーターがスマートフォンでサッカーを見ていることがわかりました。さらに現在は、同じスマートフォン上でも様々な形で試合映像が見られますよね。例えば、YouTubeでハイライトを見たり、SNSでワンプレーを見たり……。試合を通して見ていれば、試合前の選手紹介やリプレー映像で選手の背番号を確認することができますが、そうした数分、数十秒のダイジェストシーンのみでは情報量が少ない。ゴールを決めた選手は名前と背番号のテロップが表示されることもありますけど、懸命にシュートをブロックしたり、絶妙なパスを出した選手までは紹介されないですよね。そんな印象的なプレーを見せた選手の背番号も一目で何番かわかるようにしたいんです。その時に見えた背番号は、気になった選手を後で調べるための『キーワード』になってくれます。必ずしも90分の試合を見ていただけるわけではない環境の中でも、1人でも多くの方にJリーグ・選手への興味を持ってもらうには、ネームとナンバーの視認性を高めることが重要なんじゃないかと」


――ファン・サポーター以外、例えばピッチに立つ選手や審判の立場からも視認性について調査したのでしょうか?

橋場「ファン・サポーターにとって『見やすく・わかりやすく』という想いがこの企画の始まりですけど、Jリーグ関係者にも調査していくと競技面にも影響が出ていることがわかりました」

川﨑「例えば、『特定の色は日の光や照明の光に反射して視認性が低い』という審判の意見もありましたね。あと、ネームが見えるのと見えないのでは審判が選手と良いコミュニケーションを取れるかどうかも変わってくるんです。ネームが見えれば名前で選手が呼べるんですけど、22人全員の名前を頭に入れておくのは難しいので、見えないと背番号で選手を呼ぶことになってしまう。でも、番号で呼ばれて喜ぶ人はいないでしょうし、審判からしてもそれは本意じゃないんですよね。こうしたご意見を家本(政明)審判からいただいて、なるほどなと」

橋場「試合会場の大型ビジョンで確認しようとしても、名前と背番号が常に表示されているわけではないですからね。マッチコミッショナーからも、年間で4~5クラブのネームとナンバーについて視認性不良に関する報告が寄せられています。それらの5クラブが同じカテゴリーにいたとしても、計100試合程度で視認性に影響があることになります。カテゴリーが散らばっているともっと数は多くなりますよね。選手同士でも、例えばセットプレーで相手選手をマークする時にも背番号を確認するでしょうから、それが視認できないとプレーにも影響が出てしまいます」


――私たち記者の立場からすると、記者席はピッチから一番遠い席なので、背番号の視認性が高いと誰がどんなプレーをしたのか書きやすいです。解説者なども含め、メディア関係者からは今回の決定についてポジティブな声も上がっています。

川﨑「僕らも長い期間で検討をしてきたので、スタジアムで直接記者さんからお話をうかがったりしました。やっぱり『気になるよ』『こういう時に見にくいね』というコメントをもらいましたし、中には『視認性の低さは死活問題だ』とおっしゃる方もいらっしゃいました。もちろん、一番の理由はファン・サポーターから見やすく・わかりやすくすることでしたが、サッカーに関わるすべての人にとって、視認性を高めたいと考えるようになりました」

「統一」以外の方法はなかったのか?


――でも、「視認性を高める」という目的は、各クラブのネーム・ナンバーをJリーグで個別に確認して視認性を検証する方法でも達成できますよね。なぜいきなりオフィシャルネーム&ナンバーを導入することになったのでしょう?

橋場「オフィシャルネーム&ナンバー導入を検討するにあたり、実際にそのカラー・フォントのネームとナンバーがプリントされたユニフォームを着用している人をピッチに並べ、実地テストを行いました。そこでピッチ上から見た場合、スタンドから見た場合、中継カメラ位置から見た場合と、様々な視点での見え方を調べたんです。もちろん、日光や照明の光、距離によっても見え方は変わってくるので、そうした変数も考慮しながら検証していました。『50m離れた場所からでも視認できるか』というUEFAの基準も参考にしつつ、50~100m離れた地点からの見え方も調べ、視認できることを確認しています。さらに、ピッチ上に立っている人に実際の試合のように動いてもらい、斜めを向いた時や前にかがんだ時でも『動きに合わせてネームとナンバーが視認できるか』を確かめているんです」

UEFA主催大会で適用される備品規定『UEFA Equipment Regulations』には、「背番号は、日光と照明の下で審判、実況・解説者、観戦者および視聴者が最低でも50m離れた地点から明確に読み取れるものでなければならない」と明記されている

川﨑「オフィシャルネーム&ナンバーはそうした厳しい基準を満たしています。でも、それをすべてのクラブで検証するのは、あまり現実的ではないというのが理由の一つです」


――なぜ現実的ではないのでしょうか?

橋場「フィールドプレーヤーとゴールキーパーでユニフォームが2パターンに分かれ、それぞれファースト、セカンド、サードの3パターンがあるとして、各クラブで計6パターンのユニフォームを用意するわけですよね。それをJリーグ全56クラブ分、336パターン検証しようとすると(クラブ・サプライヤーに)大変な時間と労力がかかってしまう。ユニフォームの制作がシーズン開幕までに間に合わなくなってしまいます」

川﨑「別々のネームやナンバーを使っていると、あるナンバーでは照明の光が強くて見えにくくなっているかもしれないけど、あるナンバーではその色に光沢があるせいで見づらくなっているかもしれない。条件がそれぞれ異なるので無数の原因が考えられてしまうんですよね。でも、同じネーム・フォントを使用すれば条件がそろってくるので、見えづらいとしたら原因を特定しやすい。原因がわかれば改善もしやすいですよね」

橋場「そうやって原因をあぶり出して改善するまでのプロセスがJリーグ全体で早くなるのはメリットの一つになりますね。こうやってメリット、デメリットを精査してきたという経緯があります」


――様々な方法を検討した結果だということですね。最初からオフィシャルネーム&ナンバー導入ありきだったわけではないと。

川﨑「目的はあくまで『視認性の改善』で、もちろん現時点で見やすいネーム・ナンバーもありますから、僕たちも改善方法を一つひとつ検証するところから始めています。ただ、新しくJリーグを見に来た人も含め、すべての人々にとって見やすくすることを考えると、リーグ全体で視認性の平均点を上げていかないといけない。だから、本当にいろんな葛藤がありました。当然ファン・サポーターのみなさんからのご意見も理解できますし、クラブとの議論でもそうした声はもちろんありました」


――実際にクラブとはどのようにコミュニケーションを取っていたのでしょうか?

川﨑「クラブの責任者が集まる実行委員会でも意見交換を重ねてきましたし、個別のコミュニケーションでも各クラブの担当者と何度も何度も話し合ってきました。『視認性を高める』という目標についてはみなさんが共感してくださいましたが、改善方法に関しては最後の最後までご意見をくださるクラブもありました」

橋場「歴史や伝統のある書体や、世界的に有名なデザイナーさんが作り上げたフォントを奪ってしまうことが、ファン・サポーターのみなさんにとってどれだけ大きなことか。それは計り知れないことだと思います。ただ、リーグとしてはすべてのクラブが視認性を上げて1人でも多くの方にとって見やすくなる手段を取らなければならない。そうしたお互いの立場を理解するための意見交換を重ね、オフィシャルネーム・ナンバー導入に至りました。でも、ファン・サポーターのみなさんのことを考えると、クラブ側にとっては葛藤の上での決断だったと思います」

2020シーズン開幕前に行われた『2020Jリーグキックオフカンファレンス』での集合写真

「誰もが楽しめる環境」を目指して


――そこからオフィシャルネーム&ナンバーの制作に移られたわけですが、まずどのような基準でカラーを選ばれたのでしょうか?

橋場「『カラーユニバーサルデザイン思想』と『クラブカラーとのマッチング』という2つの基準から選んだ結果、5色となりました。まずは視認性の高い色を選ぶために、カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)さんに相談させていただいたところ、『どの色と組み合わせても見やすい色』があるとわかりました。また、その時にCUDOさんからは色覚に特性を持った人が非常に多いというお話もうかがったんです。色覚特性の中にもいろいろな型があるのですが、一番多い型の特性を持っている方は男性で20人に1人、日本だけで300万人以上にも上る。世界だと2億人以上で、血液型がAB型の男性の数に匹敵する割合だそうです。そうして色の識別に苦しんでいる人にも、不自由なくサッカーを楽しんでいただきたいという想いもあります。それも導入の経緯の一つです」

川﨑「それはスポーツ選手も同じで、色を見分けられなくて苦しんでいる選手もいます。実際に、『実は色が識別できなくて試合中に背番号が見えていない時があった』と告白した元選手がいたという話も聞きました。でも、そういう特性を現役生活の中で打ち明けるのはなかなか難しい。『このチームのユニフォーム色と背番号色が見分けづらいんです』なんて、試合前に言えないですよね。声にできない不安や悩みを抱えている選手が1人でもいるなら、絶対にリーグとして力にならないといけない。その話を聞いて、決意が固まりましたね。そこで橋場のほうで、色覚に特性がある人でも見分けられる色を、同じ青や赤でも違ってくるので緻密に選んでいく作業を進めました」

橋場「さらに色を絞るために、過去3年間のうちに全Jクラブのフィールドプレーヤー、ゴールキーパー、それぞれのファースト、セカンド、サードのユニフォームで使われていたネーム・ナンバー色をランキング形式でまとめ、どの色が多く使われているのかを算出したんです。すると、大半が白と黒で合計で全体の76.7 %を占めていました。その次が青系、そして赤、黄色と続きました。こうしてCUDOさんの推奨色とJリーグで実際に多く使用される色、この2つの条件に合致する白、黒、青、赤、黄の5色に決まりました」


――白と黒が一番多いのは意外ですね。

川﨑「僕らにとっても意外でしたね」

橋場「やはり各クラブのイメージ・アイデンティティは、まずユニフォームの生地色に込められていて、そのチームカラーと相反する補色をネームとナンバーに使う傾向があることがわかりました。赤、青、黄に関しては、その色を使っているチームのチームカラー、サブカラーの中間色を選んでいます」


――それが2つ目の基準 「クラブカラーとのマッチング」 なんですね。具体的にどうやって中間色を選んだのでしょうか?

橋場「例えば同じ赤をメインカラーにするチームでも、鹿島アントラーズさん、浦和レッズさん、名古屋グランパスさんでは違う赤を使っています。そこで単純な赤を使ってしまうと、それぞれのクラブカラーを想起できる色味にならないんですね。多くのクラブにとって使用しやすい赤色になるように、赤をメインカラーとサブカラーに持つ各チームの色を検出し、それらの中間色を選んでいきました。さらに、赤は色覚特性のある方にとっては黒に見間違えやすいので、識別しやすい赤になるよう調整しています」


――5色に限定したのはなぜでしょう?

川﨑「オフィシャルネーム&ナンバーを製造する時に、グッズもそうですが、色番の数が増えるとコストが上がってしまう。逆に色数が少なく一度に作れる量が多ければコストは安くなる。そうした生産背景も考慮して決定しました。ネームとナンバーを統一することによって、ファン・サポーターのみなさんがユニフォームを手にする時の金額が高くなったりしてはいけないことを考えると、今回は5色が精いっぱいだったんです」


――「色数を増やしてほしい」という声も上がっていますが、将来的に増えることも期待できるのでしょうか?

川﨑「そうしたお声もいただいていて、本当にその通りだと思いますので、将来的に増やしていけるように努力していきます。未来永劫5色にするつもりはありません。橋場が話した2つの基準以外にも見やすさの基準はありますし、生地色とのコントラスト比が視認性を担保するので、そこを大事にしながら今後も視認性を追求していきます」


――それらの5色からクラブはどのようにカラーを決めるのでしょう?

橋場「白、黒、赤、青、黄の全5色のオフィシャルネーム&ナンバーのデータを各クラブに展開しています。それらの中から、チームカラーやユニフォームデザインに合う色をご選択いただいて、ユニフォームデザイン画としてご提出いただいております」

川﨑「まずは色を選んでもらっているということですね」

橋場「その後に我われで、ご選択いただいた色が生地色とのコントラストで見づらくなっていないかを検証させていただいております。検証方法としては、CUDOさんからご紹介いただいたアプリでコントラスト比を数値化しているんです。そこで最低でも3:1のコントラスト比を保つという基準に達していなければいけません。ただ、状況によっても当然見え方は変わってきますので、その数値を満たさなかったら使用できないというわけではありません。例えば、グラデーションの色が濃い部分は3:1に届かない。ただ、生地色の中間色で計測すると4:1になっていれば使用できる場合もあります」

川﨑「その中でもなるべくクラブの意向を尊重しています。ただ、著しく見づらい色だと選び直さなくてはいけません」

橋場「生地色とのコントラスト比は視認性に大きく影響してしまう。赤いユニフォームにピンクのネームとナンバーをプリントしたら見づらいですよね。それを白にすればコントラストの比率が非常に高まる。だから、コントラスト比を確認するプロセスを念入りに行っています。今まではデザインを目視だけで判断しており、数値のような明確な判断基準がなかったんですけど、今回からアプリの力も借りながら数値検証して判断していますね」


――まさにカラーを検討されたプロセスにも表れていますけど、このオフィシャルネーム・ナンバー導入は「誰もが気軽にスポーツを楽しめるような環境を整える」ためで、Jリーグ百年構想の一文にある通りですね。

川﨑「そこはJリーグの理念と繋がっていますね。人数が多いか少ないかは関係ありません。スマートフォンを使って視聴してくれるファン、スタジアムに来てくれるサポーター、試合をマネージメントする審判、懸命に走っている選手……。極端な話、そのうちの1人でも見づらいと感じるならダメだと思うんです。そういう人たちが少数だから改善しないとは考えていません。そういう意味で数字は関係ないので、とにかくどうやったら見づらさを改善できるかを追求していきます」


――マジョリティ、マイノリティに関係なく、誰1人取り残すつもりはないと世界で広がりつつあるSDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)の取り組みにも通じていると感じました。 次はフォントについて、うかがえればと思います。

後編へ→

Atsushi KAWASAKI
川﨑 濃
(写真右/Jリーグ・ブランドマネジメントリーダー)

2003年にJリーグ入社。事業/マーケティング担当や競技・運営、商品化などの業務を担当し、現在はブランドマネジメントリーダーと経営企画部長を兼務している。

Takahiro HASHIBA
橋場貴宏
(写真左/Jリーグ・ブランドマネジメントクリエイティブオフィサー)

武蔵野美術大学卒。1994年よりソニーCP、博報堂SM、Jリーグエンタープライズにて、Jリーグ/日本代表/W杯のグッズ・マーク・ユニフォーム・マスコット等、サッカー関連のデザインワークに関わる。2020年より現職。


Photos: J.LEAGUE, Getty Images, Pool via Getty Images, Takahiro Fujii

プレミア会員になってもっとfootballistaを楽しもう!

プレミア会員 3つの特典

有料記事が読める

動画が観られる

雑誌最新号が届く

「footballista」最新号

フットボリスタ 2021年5月号 Issue084

試合の見方が変わる!プロの現場で行われている最先端の「分析」手法を公開。【特集】プロ目線のサッカー観戦術。最先端の「分析」とは何か。

10日間無料キャンペーン実施中

TAG

Jリーグ文化

Profile

足立 真俊

1996年生まれ。ウィスコンシン州立大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、フットボリスタを中心としたメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より、footballista編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista