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【THIS IS MY CLUB】大谷秀和、担うべき役割と18年目への決意

2020.06.30

DAZN  Jリーグ推進委員会」では「THIS IS MY CLUB – FOR RESTART WITH LOVE – 」と称し、スポーツ・サッカー専門の18メディアによる共同企画として、Jリーグ全56クラブ、総勢100人以上への取材を実施。J1再開を目前にした選手やスタッフにマイクラブへの想いを紹介する。

今回話を伺ったのは2003年から柏レイソルに所属し、350試合以上のJ1出場数を記録する大谷秀和選手。SNSを通じたサポーターとの交流や、2014年以来の再会となったネルシーニョ監督、今シーズンのレギュラー争いなどについて語ってもらった。

中断期間に行った交流

――リーグ再開が近づいてきました。心身ともに準備は万全ですか?

 「みんなとボールを蹴れる幸せを噛み締めながら、準備しています。ただ、みんな気持ちがちょっと高ぶってしまって(笑)。張り切り過ぎてケガをしてしまうのが一番もったいないですから、はやる気持ちを抑えながら。でも、チームメイトの表情を見ても、みんなポジティブで、楽しくトレーニングができています」

――ボールを蹴れなかった約2か月間は、大谷選手にとってどんな時間でしたか?

 「若くない分、ブランクが空けば空くだけ、取り戻すのに時間がかかるのは間違いないと思います。それでもドシッと構えていられたのは、年齢を重ねて経験を積んだからだと思いますね。世界中で明らかにサッカーができる状況ではなかったので、焦ってもしょうがない。日常にサッカーがない状況で、サッカー選手である自分に何ができるか。それについて考える機会になったので、すごく良い時間でしたね」

――具体的には、どんなことを考えたんですか?

 「家族と過ごす時間がたくさんあったので、家族のことを考えましたし、まだ小さい下の子の成長を見られたのは良かったですね。それに、自分はレイソルに育ててもらったので、クラブに何か恩返ししたいなって。今、1つ年下の菅沼実がアカデミーのスタッフにいるので、実と話して、Zoomを使ってアカデミーの選手たちの質問に答えたり、サポーターとも交流したかったのでTwitterで質問を募集したり。Instagramのアカウントを持ってなかったので、これを機に作ったりもしましたね」

――インスタには、工藤壮人さんや増嶋竜也さん、田中順也さんなど懐かしい方々が登場して。

 「Twitterで『誰との対談が見たいですか』と呼びかけたら、レイソルに以前所属していた選手たちが見たいという声が多かったので、懐かしい人シリーズになっちゃったという(笑)。でも、サポーターに向けて何か発信できたらなと思いましたし、こういう交流の仕方もあるんだなって、すごくいい勉強になりました』

――Twitterやサポーターとの繋がりに関して言うと、先日『footballista』に掲載された、柏レイソルのフリーペーパー『柏でよりみち アディショナルタイムズ』に関する記事をリツイートされていましたよね。

 「はい、読みました。あのフリーペーパーの存在自体は知っていたんですけど、成り立ちとか、想いの部分は初めて知ったので。ああいう活動は、僕たちレイソルの人間にとっても凄くありがたいことです。レイソルサポーターにとって、あのフリーペーパーは身近なものかもしれないですけど、選手だと知らない部分も多いし、日立台を訪れるアウェイサポーターの方々にも知ってもらえたらいいなと思って。そもそもレイソル自体、この数年で選手がけっこう入れ替わった。『柏から世界へ』ってなんですか、って聞いてくる選手もいるくらいで」

――え、そうなんですか?

 「でも、たしかに新しく来た選手たちが知らないのも当然なので、そういう歴史や文化を伝えていくのも長くいる選手の役目かなと。今回のサポーターの、あのフリーペーパーへの想いは自分にもすごく響いたので、リツイートさせてもらいました」

ポジションを争いながら、互いにレベルアップできればいい

――待ちに待ったリーグ再開初戦の相手はFC東京です。昨年対戦していないので難しいかもしれませんが、FC東京の印象は?

 「J1で2位のチームですし、最後まで優勝の可能性を残していたわけですから、力のあるチームというのは確か。昔から素晴らしい日本人選手がそろっていますし、長谷川健太監督がしっかり組織を植えつけているという印象があります。今年の開幕戦も見ましたけど、新しいシステムにチャレンジしていて、その中で前線の3人のブラジル人選手たちは脅威だなと。特にディエゴ(オリヴェイラ)とは一緒にやっていたので、彼の凄さは十分理解しています。やられないようにしないと」

――レイソルも2月の開幕戦では北海道コンサドーレ札幌に対して、相手のストロングポイントをうまく消しながら、ショートカウンターを炸裂させて快勝しました。今季のレイソルの魅力や強みはどこになりますか?

 「前線には強烈な選手たちがいますけど、彼らをどう生かしていくか、チームとしてしっかり取り組んでいます。去年はネルシーニョ監督とやるのが初めての選手が多かったので、戦い方をつかむまで時間がかかってしまったんですけど、今年はやらなきゃいけないことをみんなが無意識にできるようになっている。継続の強みが出てきたと思いますね。それに、新しく入ってきた選手たちが競争力を高めてくれているんですよね」

――今季の補強を見ると、J1復帰即優勝した2011年の再現を狙っているんじゃないか、というくらい貪欲に選手を獲得しています。

 「補強に関しては、僕もみなさんと同じようにニュースで知るんですけど、なんか今年はたくさん入ってくるなって(笑)。入ってくるぶん、出て行く選手もいるんだな、と寂しい気持ちにもなりましたけど、2チーム分作れる戦力があると思います。紅白戦をやっても、AチームとBチームに差がないんですよね。オルンガやクリス(クリスティアーノ)、江坂(任)や瀬川(祐輔)を相手にするのは、どのチームも難しいと思うんですけど、今年に関して言えば、紅白戦でBチームが封じ込んだりする。すごく底上げされていると感じますね」

――ただ、選手層が厚くなったぶん、ポジション争いも熾烈です。開幕戦では大谷選手も悔しい思いをされたんじゃないでしょうか。

 「ピッチ脇にいましたからね(笑)」

――開幕スタメンを外れたのは2009年以来。そのときもリハビリ中だったから、本当の意味で開幕スタメンを逃したのは若手の頃以来でした。冗談じゃねぇぞ、と?

 「いや、そういう思いはあまりないんですよね。決めるのは監督ですし、今の監督はフラットに見てくれる人だとわかっている。普段から自分が圧倒的なパフォーマンスを出していれば、起用されるはずですから。もともとライバル心をメラメラと燃やすタイプではないんですよね。『負けたくない』とか、『試合に出たい』という気持ちは誰もが持っているものだし、ポジションを争いながら、互いにレベルアップできればいい。それに、出ていないからこそやれることも多いんですよ。例えば、プレーの選択でも、普段なら選ばないような、思い切ったプレーを試せたりする。だから、自分が成長できるチャンスだと思って、ヒシャルジソン、三原雅俊、戸嶋祥郎や小林祐介と切磋琢磨しながら取り組んでいます」

今シーズン積極的な補強を行った柏レイソル

ネルシーニョ監督の変化

――それにしても、ネルシーニョ監督と再び一緒に戦うことになるなんて、思っていなかったんじゃないですか。

 「思ってなかったですね(笑)」

――再就任した昨季も散々聞かれたと思いますが、改めて、前回と今回とでネルシーニョ監督の変化、違いは感じますか?

 「若干、柔らかくなったと思います。若干ですけどね(笑)。でも、勝利への情熱は本当に変わらないです。あの年齢で凄いと思いますね。選手以上に勝ちたい気持ちをたぎらせているんじゃないかと(笑)。そこは選手だけじゃなく、スタッフやレイソルに関わる人みんなに求めますし、規律や責任もすごく求める人。改めて凄い監督だなと。選手のこともよく見ていますしね」

――09〜14年にネルシーニョ監督がもたらした勝利への情熱と、その後の5年間で試行錯誤したボールを握るスタイルが、第2期ネルシーニョ体制で融合するといいですね。ボールを握るときは握り、ショートカウンターを繰り出せるときは速攻で仕留める、というような臨機応変に、変幻自在に戦えるチームが理想でしょうか?

 「もともと「繋ぐな」なんて言う人でもないですし、ポゼッションができるなら、したいというタイプの監督なので。ミーティングでは(マンチェスター・)シティの映像なんかも見せたりしますから。ちょっとびっくりしましたけど(笑)」

――前回にはなかったことですよね? ヴィッセル神戸時代に感化されたんですかね。

 「ただ、強調していたのは、ボールの握り方ではなく、切り替えの部分でしたけどね(笑)。シティの前線の選手の、ボールを失ったあとの切り替えだったり、ランニングしていくスペースだったり。そういう意味では、変わってなくて安心しました(笑)」

――大谷選手自身はレイソルひと筋でプロ18年目を迎えました。大谷選手にとって思い出深いシーズンはいつですか?

 「最初にJ2に降格した2005年と1年でJ1に復帰した2006年は、レイソルにとってすごく大きな2年間だったと思いますね。2005年に降格したときは、「いい選手がたくさんいるのになぜ」と言われましたけど、サポーターと選手の関係性も良くなかったですし、練習の雰囲気とか、冷静に振り返れば、落ちるべくして落ちたと思います。2006年は選手が大きく入れ替わったなかで石崎(信弘)さんが来てくれて、前年とは雰囲気がガラッと変わったんですよね。サポーターとの関係性もそうだし、トレーニングの雰囲気もそう。こういうチームが勝っていくんだろうなって若いながらに感じたし、チームの雰囲気がこれだけ変わるんだ、選手のやる気や能力がこれだけ引き出されるんだ、ということをすごく実感しました。その後、自分がいろんなことを考えていくうえで、あの2年の経験はすごく大きかったと思います」

――2006年以降、サポーターと選手の関係性を表すように、日立台(三協フロンテア柏スタジアム)の雰囲気は素晴らしいものですが、日立台で行われる再開後の2試合はリモートマッチとなります。スタンドに誰もいない日立台。想像できますか?

 「日立台で練習試合をすることがあるので、それに近い雰囲気になるのかなと思いますけど、公式戦は初めてですから、ちょっと想像がつかないですね。両チームの選手の声がよく響くのかなと。ヨーロッパの試合中継を見ていても、寂しいなと思います」

――特に日立台のゴール裏なんて、“密の中の密”というか。

 「迫力ありますもんね。本当に心強いですし、相手チームにとって日立台はやりづらいと思うので、早くサポーターの後押しを受けられるような状況になればいいなと思います」

――では最後に、レイソルのファン、サポーターに向けてメッセージをお願いします。

 「再開してしばらくはスタジアムで皆さんと会うことはできないですけど、今年、レイソルはこういうサッカーをしていくんだという決意が画面を通して伝わるようなゲームをしたいと思います。また、サッカーができる喜びや、多くの人のおかげでサッカーができるんだという感謝の気持ちをプレーで表現しながら、サポートしてくれている人に恩返しをしていきたいと思います。スタジアムに入れるようになったときには、一緒に喜び合いましょう!」

Photos: Getty Images

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大谷秀和柏レイソル

Profile

飯尾 篤史

大学卒業後、編集プロダクションを経て、『週刊サッカーダイジェスト』の編集記者に。2012年からフリーランスに転身し、W杯やオリンピックをはじめ、国内外のサッカーシーンを中心に精力的な取材活動を続けている。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』などがある。