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南米の強豪来日はなぜ実現した?“仕掛け人”中村武彦氏が明かすアルディージャのクラブ戦略

2020.02.07

さいたまシティカップ2020#3

2020年2月9日(日)に開催される「さいたまシティカップ2020」。2017年以来3年ぶりとなる今回、11回目にして初となる南米勢が参戦。ウルグアイのクルブ・ナシオナル・デ・フットボールが来日し、大宮アルディージャとNACK5スタジアム大宮で激突する。

昨季のウルグアイ国内王者に輝いた強豪の来日が実現した背景には、アルディージャが進めるフロント戦略が関係していた。マッチメイクを担当した「Blue United Corporation」の社長兼CEOである中村武彦氏にその舞台裏や、アルディージャとの提携と目指すビジョンについて明かしてもらった。

マッチメイクの裏側


――2017年以来、3年ぶりの開催となるさいたまシティカップ。今回は大宮アルディージャ対ウルグアイの名門クルブ・ナシオナル・デ・フットボールとの対戦となります。11回目にして初めて、南米の強豪が招かれることになりました。マッチメイクの経緯について聞かせてください。

 「昨年夏にマドリッドで、欧州を中心に世界のサッカー関係者が集まるカンファレンスがありまして、そこでいろいろなクラブとコネクションができていたんです。それで今回のお話をいただいた時に、予算等の条件に合いそうないくつかのクラブにオファーを出して、最終的にナシオナルに決まりました。

 ただもちろん、簡単ではありませんでした。海外のクラブからすると、日本って日本人が思っている以上に“遠い”んです。これは海外で働いていて一つ発見だったんですけれど、日本から見る海外はすごく近い。テレビでいつも取り上げられていますし、ニュースも常に入ってきますし、一般人のレベルで言っても海外旅行によく行きますし、国内にいても英語をはじめ外国語の看板や標識が目に入ってきます。

 一方で、海外では普段から日本のニュースを見るわけでもないですし、日本語に慣れ親しんでいるわけでもありません。さすがにどこにあるかわからないという人はあまりいませんが、それでも『日本ってどこだっけ』という人がいるというのも事実です。そんな中で日本まで、1試合のために来るというのは大変なことなんです。

 とはいえ、どこのチームでもいいというわけではありません。ファンのみなさんはシーズン開幕前に楽しみにして来てくれるわけですから。クラブの格やストーリー性も考慮したうえで絞り込んでいき、TOYOTAカップ(現FIFAクラブワールドカップ)初代王者で日本と縁があり、かつ名門でもあるナシオナルを呼ぶことができ、誇りをもって仕事をして良かったなと思っています」


――ナシオナルは昨年12月に国内王者に輝きました。南米王者を決めるコパ・リベルタドーレスでも常連の強豪です。

 「もちろん交渉していた時点では優勝争いの真っただ中だったわけですが、ただそれがなくてもルイス・スアレスやアルバロ・レコバといった名手を輩出している名門ですので、タイトル争いの結果いかんにかかわらず、自信を持って呼べるクラブだと考えていました」

始まりはデジタルマーケティング


――中村さんは以前から、最新デジタルマーケティング事例についてのアメリカ視察を手がけるなどアルディージャと関係をお持ちだとうかがいました。アルディージャと繋がるきっかけは何だったのでしょうか?

 「私はもともと、日本のスポーツ関係者の海外進出をお手伝いする業務の一つとして、アメリカへ視察に来る際のマネージメントを行っています。ただ視察に来るだけでは意味がありません。事前のヒアリングから始まり、視察先の担当者との面会やディスカッションのセッティング、重要なポイントをまとめたレポートまで一手に引き受けるんです。

 中でもアルディージャは熱心なクラブの一つで、1年半ほど前にアメリカ視察のお手伝いをさせていただいた後、『視察1回で終わらせるのではなく、継続的にマーケティングの仕事をやりましょう』と言っていただき、事業本部とコンサルティング契約を結びました。視察で得た知見をどうやって自分たちのクラブに導入していくのか、というところまできちんと考えられているところが凄いなと思いますし、私もやりがいを感じています。

アルディージャのアメリカ視察の様子。MLSはもちろん、他競技の事例からも学びクラブのデジタルマーケティングへと生かしている(写真提供:大宮アルディージャ)

 さらにその後、昨年末からは強化部とも話をさせていただいています。そうした中で今回のさいたまシティカップのお話も上がってきて、マッチメイクを担当することにもなったんです」


――そうだったんですね。日本のスポーツ界でもここ数年でスマートスタジアム化など、デジタル分野への関心が高まっています。デジタルマーケティングの最新事情について聞かせてください。

 「デジタルは今、流行りですよね。よく耳にするのが『スポーツテック』や『スポーツデジタル』という言葉です。ただ、これって突き詰めると、『スポーツ』というのはいらないんじゃないか、というのがアメリカでの通説です。

 例えば、ファンの観戦体験を良くする――どこの入り口が込んでいるかやトイレの利用状況が、テクノロジーによって確認できる――ためのテクノロジーというのは、百貨店でも使えます。マーケティングも同じで、ソーシャルメディアを活用するのもスポーツのためだけではありません。一般社会で当たり前になってきている『デジタル』技術を、どうスポーツに活用しようか、というのが今の世界的な流れです。

 ただ、他でも使えるものをスポーツで活用する際、単にそのまま転用すればいいというわけではもちろんありません。スポーツ業界にはスポーツ業界の特異性がありますからね。スポーツに関してはライブ観戦で、その瞬間に起きたことを逃さない方法であったり、あるいはスタジアムでの感動体験を周りの人たちと共有できるかであったり。水を売っている人にお金を払えば水が手に入りますが、スポーツが売っているものは何なのか。それをスポーツビジネスでは深く考えないといけません。そうしたスポーツの特異性を理解したうえでテクノロジーやビジネス手法の導入をする必要があり、それを説明すると言いますか、“翻訳”して伝えるのが私の会社の役割だと考えています」


――なるほど。アルディージャのスマートスタジアム化ではテクノロジーを駆使した取り組みが紹介されていますが、中村さんとの取り組みの成果が表れているわけですね。

 「そうですね。ただ、私たちが一からアイディアを出してそれを採用してもらっているというわけではありません。原理原則や考え方を事例を通して紹介して、そのあとの具体的な施策に関してはアルディージャのみなさんが発想を広げていってくださって形になっています。例えば、アプリを使うとこういうふうに可能性が広がりますよね、という原理原則を私たちが紹介して、じゃあ実際にアプリをどう作ってどう使うかというのはアルディージャの方々の発想です。事例だけを紹介してしまうと発展性がありません。真似をするだけになってしまいますから。

 一番ダメなのは『アメリカではこうだから日本でもこうやるべき』となってしまうことです。そうではなく、『アメリカではこういうことが起きている。これをどう日本流に変えてみようか』というのが一番大切です。日本って、海外のものを取り込んで世界一にするということに関して優れているじゃないですか。自動車や家電などはまさにそうですよね。

 スポーツビジネスに関してもまだ新しいので考え方を取り入れて、それが日本流にアレンジされると、世界トップクラスのスポーツビジネス国家になるんじゃないかと思っています」


――熱心に取り組んでいるアルディージャにはぜひ、そのモデルケースになってもらいたいですね。次に、昨年末から強化部ともやり取りがあるとのことですが、強化部の活動は選手獲得やスカウティング、育成など多岐にわたります。どの分野にどのような形で関わっていくのでしょうか?

 「自分たちの中では『強化部の強化』というふうに位置付けています」

強化部の強化が日本サッカーを変える!?


――強化部の強化、ですか。

 「はい。どういうことかと言いますと、サッカーチームというのは2つの車輪で回ります。1つは事業、マーケティングや営業です。そしてもう一つがトップチームやアカデミーの強化です。どちらか1つが欠けると、チームはうまく回りません。

 私自身、強化部に入って働いたことはありませんが、世界中でけっこうな数の強化部を見てきました。その中で『凄い』と思ったのがバルセロナとレッドブルグループ、そしてMLSのシアトル・サウンダーズです。ただ、一口に凄いと言っても、3つともタイプが違うんです。バルサは歴史と伝統です。自分たちがどんなサッカーをするかという明確なスタイルがあって、ラ・マシアという優秀なアカデミーもあります。

 レッドブルはオーストリアやドイツの下部のチームの経営権を取得して、CLに出場するまでに成長させました。彼らには実際にプレゼンをしてもらったことがあるのですが、オーナーから『(飲料の)レッドブルを体現するサッカーを作れ』と指示されて、それに基づいて強化部が作られているそうなんです。言葉にすると『若者受け』して、『ハラハラドキドキ』があって『エネルギー』がほとばしって『リスキー』というドリンクのイメージに沿うもの。それがああいうふうに若い選手を集めて、ハイプレスを仕掛けてどんどん攻めていくスタイルになっているんです。

 最後にシアトルは、オーナーの意向で投資に対するリターンを求められる、ビジネスライクなチームです。普通、強化部っていうのはお金を使うコストセンターですが、選手やアカデミー、スカウティングにどれだけ使ってどれだけリターンがあるのかを示さなければいけないチームなんです。

 歴史と伝統のバルサ、ブランディングのレッドブルグループ、ビジネスとしてリターンを出しつつ、なおかつ強いシアトル。それぞれ異なるタイプではあるんですけど、共通しているのが自分たちのサッカーというか『自分たちのクラブが何のために存在しているのか』がはっきりしているということ。

 彼らのように、クラブがどういうものかというのがまずあって、どういうサッカーをするのかというのがあり、それに基づいてどういう選手を編成するのかというスカウティングがあり、アカデミーがあってと一貫している。クラブとしての“正解”が定まっている。加えて、その強化方針を貫くための組織が作られています。具体的には、どのクラブも事業部のトップと強化部を統括するGMがそれぞれいるんです。

 ただ繰り返しになりますが、だからといって日本がダメというわけでも、同じような組織を作ればいいというわけでもありません。クラブを強くするために強化部がどうあるべきか、ということを真剣に考えるところから始めて、クラブを本当に強くするには強化部を強くしないとダメですよね、じゃあできることはなんだろう、ということを考えているところです」


――なるほど。バルセロナやレッドブルグループの強化方針は有名ですが、シアトルはどのあたりが凄いのか、詳しく聞かせてもらえますか?

 「シアトルは毎年、世界中から信用しているスカウト15人を招いて、自分たちの強化部のシンポジウムというのを開催しているんですが、これが凄いんです。

 まず、社長が自分たちのクラブが何のために存在しているのかをプレゼンします。

 続いてGMが、社長が示した方針に基づいてこういうチーム作りをしていて、今の予算はこうで現在のメンバーはこうなっていて2年後にはこうなる、ということを発表します。そのあとは監督。チームはこういう戦いをしていてポジションごとに求めている選手はこうで、ということを示します。

 次にテクノロジー部門の担当者。例えば、『過去10年間の得点パターンを分析したところ、必ずゴールが入るポイントがあります。そこにボールを入れるために、また別のここにボールを入れると87%の確率でゴールが決まります、さらに……』といった具合に数字を使って説明します。ただ、数字だけだとわかりづらいので軍事航空写真撮影の専門家を雇っていて、上空から撮影した映像にヒートマップを組み合わせた画像を見せて説明してくれます。さらに、実際にグラウンドに出てそのヒートマップのデータに基づいた練習を見せてくれます。

 さらにアカデミーの責任者が、監督が求めている選手のポジションごとの特徴と数字のほか、例えば今リーグ全体でCBが不足しているのでうちではトップで通用するCBを3人育てていて、1人は自分たちのクラブで起用したい選手で2人は将来的に売れるかもしれない選手で、というところまで踏み込んだ説明をしてくれます。

 ここまでの説明が終わったら、実際の試合映像を見せてくれるんですが、そうしたらチームがどういう狙いをもって試合を進めているか、自然とわかるんです。

 そして最後に、『こういうサッカーに適応できる選手だけを獲ってきてください』というプレゼンで締めくくります。

 純粋に『凄いなこのチーム』と感心するとともに、日本にここまでのことをやっているチームはまだないだろうなと。そこで『日本はダメだ、遅れている』ではなくて、海外ではこういうことをやっているというのを紹介すれば、日本流にアレンジして世界トップレベルになるのはわかっているので、ぜひ伝えていきたいと思い活動をしているところです」

シアトル・サウンダーズの試合前セレモニーとトレーニングの様子


――テクノロジーがマーケティングだけでなく、強化の面でも活用されていくわけですね。

 「数字やデータで客観性を担保するのは非常に大事なことです。もちろんそれだけではなく、人の目とのバランスが重要になります。今まではスカウトの主観が頼りで、そのスカウトがクラブからいなくなると何も残らない状態でした。それでは再現性と継続性がありません。データや数字を用いることで、継続性のある強化が可能になるんです」


――中村さんが紹介するアメリカ発の強化方針や事例が日本サッカーをどう変えていくのか、今後が非常に楽しみになりました。では最後にあらためて、マッチメイクを担当したさいたまシティカップ2020をどう楽しんでもらいたいか、メッセージをお願いします。

 「普段なかなか見られない南米の強豪チームが来てくれることになりました。スタイル的に激しい、スリリングな試合が期待できると思いますので、ぜひ会場に足を運んでいただきたいなと思います」


■第11回さいたまシティカップ 2020  開催概要

大宮アルディージャ vs クラブ・ナシオナル・デ・フットボール

日時
2020年2月9日(日)13時
会場
NACK5スタジアム大宮

※チケットの販売状況等、詳細は大会特設ページをご確認ください

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Profile

久保 佑一郎

1986年生まれ。愛媛県出身。友人の勧めで手に取った週刊footballistaに魅せられ、2010年南アフリカW杯後にアルバイトとして編集部の門を叩く。エディタースクールやライター歴はなく、footballistaで一から編集のイロハを学んだ。現在はweb副編集長を担当。