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ゾーンプレスを脅威に昇華した “オランダトリオ”の破壊力

2020.02.26

戦術で読み解くレジェンドの凄み#7

過去から現在に至るまで、サッカーの歴史を作り上げてきたレジェンドたち。観る者の想像を凌駕するプレーで記憶に刻まれる名手の凄みを、日々アップデートされる戦術の観点からあらためて読み解く。

第7回は、ゾーンプレスで守備戦術に革命をもたらし「ストーミング」への礎を築いたアリーゴ・サッキと、彼のチームを引き継いだファビオ・カペッロの下で欧州とイタリアの頂に立ち“グランデ・ミラン”と称されたミランの中心選手だった“オランダトリオ”マルコ・ファン・バステン、フランク・ライカールト、ルート・フリットの役割とスペシャリティを回顧する。

「ボール狩り」の進化バージョン

 アリーゴ・サッキ監督は世界を席巻したプレッシング戦法について、「私の発明ではない」と話している。

 「1950年代のホンブド、70年代のアヤックス、80年代のリバプールを参考にした」

 ホンブドはマジック・マジャールと呼ばれたハンガリー代表の母体となったクラブ。アヤックスはトータルフットボール発祥のクラブとして有名だ。こちらもオランダ代表のベースだった。リバプールは[4-4-2]のゾーンで成果を出したクラブで、ミランは形の上ではリバプールを踏襲していた。

 ホンブドとの関連性はよくわからないが、アヤックスに関してサッキが参考にしたのは「ボール狩り」である。

 リヌス・ミケルス監督がアヤックスで始めた「ボール狩り」の目的は、最短時間でのボール奪回だった。相手の攻撃を遅らせつつ後退するのが当時の守備戦術のセオリーだったが、ミケルスはより早くボールを奪うために、後退するのではなく前進してボールへのプレッシャーを強める守備戦術を導入したのだ。ボールホルダーへのプレッシャー、周囲の相手選手へのマーク、オフサイドトラップの3点セットがポイントだった。

 ただ、90分間ずっと「ボール狩り」をしていたわけではなく、回数としてはセットプレー並だ。サッキは「ボール狩り」を復元するにあたってゾーンディフェンスと組み合わせている。ここが秀逸だったところで、DFラインを緻密にコントロールして10人をコンパクトにまとめ、プレスの効果を上げるとともに、効率化して90分間の使用に耐え得るものに近づけた。

ミランではサッキが就任する前シーズンにニリス・リードホルム監督がすでにゾーンを導入している。リベロ+マンツーマンが支配的だったセリエAでは珍しかったのだが、ある程度の下地もあった。とはいえ、それまでとは守備の作法がまるで違うため、フランコ・バレージのような経験のあるDFほど適応が難しかったそうだ。

「オランダの3人もプレッシングの国から来たというのに……」

サッキ監督はオランダトリオも再教育しなければならなかったと語っていた。ただ、マルコ・ファン・バステンとルート・フリットはFWだったので、プレッシングへの関わりはそれほど大きくはない。従来のFWよりも献身的に守備はしたかもしれないが、それ用のFWというわけではなかった。彼らの価値は、それよりもボールを奪ってから相手ゴールを直撃する威力にあった。

 フランク・ライカールトはプレッシングの戦術的な核と言っていい。サッキは3人まとめて話してしまっているがライカールトは別だ。1対1のボール奪取力に優れ、奪ったボールを攻撃に直結させる技術も持っていた。その点で、この戦術を象徴する選手だったと言える。

後方を確認するフリット(左から2番目)の横でファン・バステン(9番)に指示を出すライカールト。サッキ・ミランのプレッシングのカギを握る選手だった(左はデメトリオ・アルベルティーニ)

 サッキはアヤックスあるいは1974年W杯のオランダをモデルにしたと言うが、その直系は同時期にバルセロナで指揮を執り始めたヨハン・クライフ監督の方で、サッキがやったのは「ボール狩り」の進化である。敵陣でボールを奪えるので、攻撃力に直結させることができた。攻撃的な戦術ではあったが、それは攻撃的守備による効果であり、攻撃力そのものを革新したわけではない。そこは後年にサッキ自身が、「オランダの3人がいたのは大きかった」と認めている。ミケルスが最短時間のボール奪回を目指したのは、ボールを持てば良いプレーができる確信があったからだが、サッキの場合は逆で、ボールの奪い方が良ければ良い攻撃を生むという考えである。

万能の3

 オランダ人に聞くと、ファン・バステンは「技術の選手」だという。一方、フリットは「体力の選手」。

 ファン・バステンはエレガントなCFだった。ドリブル、ポストプレー、ヘディングなど、何をやっても巧い万能のFW。長身のわりにパワフルではないが、ボールを止めるスキルとシュート技術は芸術的でさえあった。

 フリットは走力、ジャンプ力、パワーに恵まれ、テクニックもファン・バステンに引けを取らない。ファン・バステンは万能のストライカーだが、フリットは文字通りの万能選手である。もともとリベロとしてプレーしていてミランではファン・バステンと2トップを組み、後に右サイドMFに定着。チェルシーに移籍した時はMFの中央でプレーメイカーとして君臨していた。

トレードマークのドレッドヘアをなびかせ、あらゆるポジションで違いを生み出したフリット

 オランダ人で日本代表やJリーグで監督を務めたハンス・オフトによると、フリットの適性ポジションは「リベロ」なのだそうだ。空中戦の強さやスピード、ビジョンを買っていた。ファン・バステンは「CF」。そしてフリットと同じく万能のフィジカル・モンスターだったライカールトは「サポーティングプレーヤー」。ポジションとしてはインサイドMFで、FWとDFを助ける役割になる。

 ミランでライカールトはボランチまたはトップ下でプレーしていた。味方をリンクする、ボールを奪う、奪ったボールをゴールへ直結させる、その能力はサッキのチームで不可欠だった。

 ファン・バステンとフリットは2トップを組み、ショートカウンターを得点に変換した。敵陣でボールを奪えば相手の守備は半壊している。どう崩すかより、手数をかけずにダイレクトにフィニッシュへ結びつければいい。そこでは2人の個の力が大いにモノをいった。2人とも独力でシュートへ持っていくスキルとスピードがあり、シンプルなハイクロスでもねじ込んでしまう空中戦の威力もあった。巧いだけでなく速い、大きいというスケール感のある身体能力で敵を圧倒した。

 トータルフットボール直系のクライフがパスワークでの崩しを引き継いでいたのに対し、サッキはそこに特別なアイディアがあったわけではない。ただ、進化版を作っただけあってプレッシングの威力はバルセロナの比ではなかった。プレッシングからのショートカウンターにおけるオランダトリオの貢献度は抜群で、そこは3人の個の力に負うところが大きかったというわけだ。

選手大型化のはしり

 サッキがイタリア代表監督に就任し、ファビオ・カペッロがミランの監督になると、初期のプレッシング戦法にマイナーチェンジが施された。カペッロはサッキ時代のハイラインを少し後方へ移動させ、プレッシングの強度も下げている。よりリスクを少なくした戦い方にシフトし、セリエAの戦績はサッキ時代をはるかに上回った。

 フリットは右サイドにポジションを変えている。このころに負傷したこともあり、全盛時ほどダイナミックなプレーはなくなっている。右サイドからの正確なロングクロスでチャンスメイカーとして安定したプレーを見せ、後のデイビッド・ベッカムに繋がるようなスタイルだったが、以前の迫力は失われた。サンプドリアを経てチェルシーではプレーイングマネジャーとしてFAカップをもたらした後に現役引退。

 ファン・バステンはバロンドールを3度受賞するなど、ゴールゲッターとして無類の働きをするのだが、相次ぐ後方からのタックルが原因で負傷が慢性化し、92-93シーズンのCL決勝を最後に実質的に引退してしまった(最終的に引退したのは95年)。クライフはかつて自分がそうだったように、1つ下がった位置でプレーメイカーとして第2のピークを迎えると予言していたが、ファン・バステンはその姿を見せることはないままに終わっている。

ミラン在籍6シーズンで100を超えるゴールをマークしたファン・バステン。事実上30歳を待たずスパイクを脱ぐことになってしまったことが惜しまれる天才だった

 ライカールトはアヤックスで[3-4-3]の中盤の底として卓越したプレーを見せ、94-95シーズンのCL決勝では古巣のミランを破ってアヤックス優勝に貢献。平均年齢23歳の若いチームを33歳のライカールトがコントロールしていた。CL優勝の3日後に引退を表明している。

 3人の台頭は、選手の大型化のはしりだった。それまで名選手といえば170cmそこそこで180cmを超える身長はむしろ珍しかったが、オランダトリオから大きくて速くて巧い選手が活躍する時代に変わっていく。ただ、フリットとライカールトは強烈な印象を残した身体能力がピークを過ぎた後も、ハイレベルの戦術眼と技術で素晴らしいプレーを披露していた。ファン・バステンにその機会がなかったのは残念だが、彼はもともと「技術の選手」である。パワーとフィジカルが重視される時代の象徴だった3人だが、土台には確かな技術があった。

◯ ◯ ◯

卓越したボール奪取力とそこからの展開力でゾーンプレスの要を担ったライカールト、チームの要請に応える形で前線にポジションを移し輝いたフリット、そしてプレスで回収したボールを確実にゴールへと変えたファン・バステン。サッカー史に残る名コンビ“オランダトリオ”が、大人気スポーツ育成シミュレーションゲーム「プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド」(サカつくRTW)で蘇る!

「サカつく」未経験の方もこの機会にぜひ、ゲームにトライしてみてほしい。

<商品情報>

商品名 :プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド
ジャンル:スポーツ育成シミュレーションゲーム
配信機種:iOS / Android
価 格 :基本無料(一部アイテム課金あり)
メーカー:セガゲームス

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Photos: Bob Thomas Sports Photography via Getty Images, Getty Images

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サカつくRTWフランク・ライカールトマルコ・ファン・バステンルート・フリット

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。