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インフォグラフィックで徹底考察。J1で最もパスを繋ぐ「CBデュオ」

2019.11.08

第30節時点で上位3チームが勝ち点1差でひしめき、例年にないほど優勝争いに熱が帯びているJ1。その一角である横浜F・マリノスは思想家アンジェ・ポステコグルーの下、結果だけでなく魅力的なパスサッカーで注目を集め、Jリーグに新たな風を吹かせている。昨季12位に沈んだ名門の復活を後方から支えるCBデュオを、データ・情報を「可視化」させるインフォグラフィックの達人“GIUBILOMARIO”こと河野大地がデータから読み解く。

世界でも突出したパス成功本数を誇る畠中&チアゴ

 今季の横浜F・マリノスを語る上で欠かせないのは、最終ラインでコンビを組む日本代表DF畠中槙之輔とブラジル人DFチアゴ・マルチンスの2人だろう。アンジェ・ポステコグルー体制1年目となった昨季は人員の出入りが多かったこともあり、指揮官は彼らに加え中澤佑二、ミロシュ・デゲネク、金井貢史、ドゥシャン、栗原勇蔵ら計7人のCBをリーグ戦で起用。しかし今季は試行錯誤から一転し、第30節時点で畠中とチアゴの2人を29試合で先発起用している。

 ポステコグルーが彼らを重宝する理由の1つとして、2人のパス精度の高さが挙げられる。今季平均66%のボール保持率を誇り「アタッキングフットボール」を掲げるマリノスでは、CBにもパスを正確に繋いで攻撃を組み立てる役割が求められるからだ。昨季のCB陣のパス成功本数(1試合平均)を見てみると、デゲネクは67本、ドゥシャンは58.5本、昨季限りで現役引退した中澤は54.68本(いずれもリーグ戦に10試合以上出場した選手のみを抽出)だったが、今季畠中は彼らを大きく上回る80.57本を記録。昨季途中に加わった24歳は、相手をおびき出しながら前線へ正確なパスを供給する振りの速い左足のインサイドキックが持ち味で、攻撃の起点として大きく機能している。チアゴも昨季こそパス成功本数は54.92本にとどまっていたが、今季は66.24本と大きく成長。リーグ全体で見ても、昨季からCB陣のパス成功本数は高い水準にあったが、畠中とチアゴはさらに大きく数字を伸ばしている。

 総パス成功本数は畠中が2417本、チアゴは1921本。シーズン終了後には2人で合計5000本に到達してもおかしくない勢いだ。このコンビのペースは今季(19-20シーズン)欧州5大リーグにおいて最もパスを成功させているCBペア、バルセロナのクレマン・ラングレとジェラール・ピケ(それぞれ1試合平均68本と66.1本)を上回っており、世界でも驚異的。もちろんリーグのレベルやシーズンの経過状況に違いはあるものの、マリノスのCBデュオのパス精度の高さを示すデータとなっている。

パスソナーで読み解く「アタッキングフットボール」

 では、この世界屈指のCBコンビはどの方向に、どのような頻度でパスを供給しているのだろうか。一例として今季のリーグ戦1試合をピックアップし、集計したパスデータを可視化したインフォグラフィック「パスソナー」(下図)を用いて考察を続けよう。

 8月24日に行われたJ1リーグ第24節の名古屋グランパス戦、この試合でマリノスは442本のパスを成功。パスソナーに表れているように、マリノスは自陣内で後方へパスをする回数が極端に少なく、積極的に前方へ縦や斜めのショートパスを供給している。とりわけ畠中が陣取ることが多い左ハーフスペース付近のボリュームは大きく、彼を経由してゲームを組み立てていることがわかる。

 昨季は横パスや後方へのパスの頻度が高く、ビルドアップに苦戦。そこを相手に狙われる場面も多く見受けられたが、今季はその点が改善されている。最初のボールの供給口となるGKにパク・イルギュが定着したことも少なからず影響しているだろう。起用され始めた当初こそ少し不慣れな一面も見せたが、パクは初挑戦となるJ1の舞台ですぐに適応しビルドアップに参加。新守護神は攻撃だけでなく守備でも大きく貢献しており、ペナルティエリア外へのランアウト回数はリーグトップの26回を記録するなど、「ライン裏の番人」としても安定したパフォーマンスを維持している。CBの2人が勇敢にDFラインを高く上げ、相手を押し込むことができるのも、最後尾に彼がいるおかげだろう。

 ポステコグルー体制2年目のマリノスで屋台骨となったCBデュオだが、来季のことを考えると安泰というわけではない。チアゴはパルメイラスからレンタル中であり、海外志向の強い畠中もいつまでチームに留まるか不透明だからだ。仮に契約交渉が上手くいかなかったとしても、マリノスはシティ・フットボール・グループのスカウト網を生かして国内外から優秀な人材をリクルートしてくるに違いないが、今季限りでコンビ解散となる可能性も小さくない。彼らの活躍を目に焼きつけておくためにも、残り4試合、優勝を争うマリノスの戦いから目が離せない。

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 今回はこちらの記事を執筆するにあたり、マリノスのサポーターであるお市さん、akiraさん、ヒロさんにアドバイザーとしてご協力いただきました。改めてありがとうございました。

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文化横浜F・マリノス

Profile

河野 大地

宮崎県出身。約10年の広告制作会社勤務ののち、長年趣味で行なっていた映像編集技術・データ分析・インフォグラフィックに関するスキルを買われ、スポーツテック業界へ2018年に転籍。現在は株式会社SPLYZAにて試合映像分析アプリの開発・運用にUI設計&デザイナーとして携わる。「スポーツのデータ分析×クリエイティブの融合」を目指し日々修行中。4児の父。