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鈴木武蔵の「134字」から考える、人種差別に私たちは何ができる?

2019.10.15

日本代表FW鈴木武蔵

9月の日本代表合宿に選出された北海道コンサドーレ札幌のFW鈴木武蔵に対して、Twitter上で差別要素を伴う心ない言動が投稿された。これを知った鈴木武蔵が引用RTの形で言葉を綴ると、そのツイートは多くの称賛とともに拡散。発言者が「大分サポーター」と自ら定義していたことから、クラブが声明を出す事態に発展し、その経緯はニュースとしても扱われた。話題は過ぎ去り、終息したかに思われる一連の発展を眺めた一人として、今この話題に言及するのはなぜか。ここからできることはなんだろうか。

本当に「サッカーで見返すしかない」のか?

 「僕に報告してくれた方ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。サッカーで見返すしかないですからね。そうやって小さいころからやってきたので。お父さんの血がなかったら日本代表になれていなかったと思いますし、ハーフであること、日本という素晴らしい国で育ったことに感謝しています」

 力強い言葉だった。

 鈴木武蔵はジャマイカ人の父と日本人の母の間に生まれ、高校卒業後はアルビレックス新潟に入団。今季より北海道コンサドーレ札幌でプレーしており、3月には日本代表にも初選出された。そんな選手へ向けて「あの見た目で日本代表なんてインチキじゃない?」「代表から追放しなさい」という投稿が、彼が途中出場した9月10日のW杯のアジア2次予選・ミャンマー代表戦時、Twitter上でなされた。そのツイートに、引用RTの形で鈴木武蔵自身が残したのが上記の134字だ。

コンサドーレ札幌FW鈴木武蔵が投稿したツイート

 代表にまで登り詰めた選手としてのプライドを正面きって文字にしただけでなく、行為を伝えた人への感謝を述べ、ポジティブな締めくくりで自らの出自と、ツイートを読んだ他者に配慮する、精神力の強さを感じさせる言葉だった。

 一方「サッカーで見返すしかない」という言葉は、一人の当事者の決意表明以上に、重要な意味のこもった言葉として読むことができる。つまり、「差別とは、差別されたものが乗り越えるべき苦痛だ」という認識が前提になっているのではないか、ということだ。

 こうした差別行為があった場合、本来問われるべきは差別した側の非であり、被害を受けた側への配慮だ。意図的に向けられた言葉の刃だったかもしれない。それが差別だと知らないで使った、無知からくるものだったかもしれない。だがその区別は、行為によって傷ついた人の前ではなんの留保にもならない。

 鈴木武蔵の言葉からわかるのは、差別はそれを受けた側が、自分の能力で乗り越えるしかないと思わされてしまっている、いわば“逆転現象”が起きていることである。また「そうやって小さいころからやってきた」という言葉にあるように、その認識がこれまでの生活の中で培われた、個人間のやりとりよりもより範囲の広い社会の中で形成されたものであることを感じさせる。SNS上の一つのつぶやきが発端になったとはいえ、この差別的言動は今この瞬間だけの問題ではなく、より長い時間の幅の中で捉えられる。

 発言したものは一瞬でそれを忘れ去ることができるが、されたものは長い時間をかけて、何らかの能力を発揮して乗り越えなければならない、“非対称な関係”ができあがってしまう。それがどんな行為をされたか、言葉をかけられたか、意図的だったか、そうでなかったかにかかわらず。この“非対称な関係性”と“克服をめぐる労力の大きさ”にこそ、差別が差別になり、その人の尊厳を奪う理由が詰まっている。

 現在のサッカー界では明確に、差別に「ノー」をつきつける宣言がされている。FIFAは「Say No To Racism」キャンペーンを打ち出し、あらゆるレベル・世代・地域のサッカーから人種差別をなくすことを公式の方針としている。Jリーグでもつい先日、試合前の「フェアプレー宣言」でフェアプレーの精神を共有し、差別や暴力に断固反対するメッセージを発信している。しかし、こうしたキャンペーンが続いている間にも鈴木武蔵には言葉の刃が向けられ、クリバリルカクは幾度となくモンキーチャントを浴びて自身の態度を表明させられ、イタリアのウルトラスは論理のすり替えでこうした差別を容認するのである。表明することに意味はあるのかもしれない。ただ残念ながらその効力は乏しいし、現時点で方針を実現できているとは言い難い。

2017年のコンフェデレーションズ杯でも試合を行う2チームと審判団が一丸となって 「Say No To Racism」を訴えていた

SNSが生んだ差別の「カジュアル化」

 SNSの隆盛は、サッカーにおいても数々の交流の形を提供したと同時に、差別問題の現場をスタジアムの外にまで開き、可視化してしまった。

 黒人選手を人間より劣った猿に見立てて発するモンキーチャントや、バナナを投げつけるといった直接的な差別行為は、イングランドなどでは40年以上も前から見られた。差別とは今よりも直接的に、精神的よりも身体的に恐ろしいものだった。今でもこれらの行為はなくなってはいないが、公的にも私的にも取り締まりはより強化されている。

 一方でSNSを通した発信の簡便化は、そのまま差別的表現の「カジュアル化」に繋がる。「僕に報告してくれた」と鈴木武蔵が話したように、時にそうした表現が相手のもとに届いたり、ふと目にしたりしてしまうことで知らず知らずのうちに傷ついてしまう。

 批判を免れた無数の言葉が、無言の承認を得て漂う。それは「傷つかない」「気にしない」人から「気になる」「傷ついた」人へ届いてしまう。いつ誰が、どんな形で差別的な行為を向けられるかはまったくわからない。人種肌の色容姿セクシュアリティ……逃れられない性質をロックオンされ、攻撃を受ける可能性は誰にも否定できない。

 だからこそ一度立ち止まって、この問題に向き合う必要がある。時間をかけ、教訓を生かして克服しないといけないのは鈴木武蔵や差別行為を受けた側ではなく、加害者やあのツイートを見た自分たちの方ではないだろうか?

サッカーの正と負の可能性

 鈴木武蔵への称賛はあってしかるべきだ。心ない言葉を置き去りにする、迫力満点の強烈な切り返しだった。それでは、いったいどんな言葉が彼への称賛にふさわしいだろう。

 反論した「から」代表にふさわしい立派なやつなんだ、サッカーがうまい「から」あなたなら大丈夫だという言葉は、残念ながら差別的な発言とコインの裏表のような関係にあるのかもしれない。彼がハーフであり「サッカー日本代表」に選ばれる資格があるという、本来は能力に関係なく認められるべき尊厳の前提を崩してしまうからだ。ピッチ内のプレーへの評価とは別の言葉が必要だ。

 同様に、(ツイートの言葉をそのまま使って)ハーフだ「から」、という言葉にも注意しなければならない。足が速く、しなやかな身のこなしでディフェンダーをかわしてシュートを放つ。そんな鈴木武蔵のプレーは、一度見た人なら誰でも想像できる。だがその理由を「ジャマイカ人とのハーフだから」と決定づけてしまうと、問題が起こってしまう。

 彼自身がこれまで積んできた練習、そのワンプレーの中で仲間が繋いだパス、裏にあるチームの戦略・戦術、対戦相手のとの駆け引き。人種と身体能力とプレーの単純化された結びつけは、これらをすべて切り捨ててしまうような言葉ではないか。たとえそれが選手を褒めたたえる文脈であったとしても。「お父さんの血がなかったら日本代表になれていなかったと思います」と、鈴木武蔵は確かに書いた。しかしそれは「黒人だから足が速い/体使いがしなやか」ということをただちに意味するわけではないということに、敏感であるべきだ。

 差別は誰にも降りかかる可能性があると先ほど書いたが、同時に差別は誰しもがする可能性があるものだ。それが無知からくるものなのか、そうではなく気を払っていたけれども起こってしまうものかはわからない。だがサッカーを入り口にして、またサッカーの中で話すからこそ、その可能性を減らすことはできるのではないだろうか。軽口のつもりの一言の前で立ち止まることから、人種と身体の語彙、「サッカー〇〇代表」とは何か、という価値観の更新まで……。

 サッカーにはこれまであらゆる差別や矛盾が多分に組み込まれてきたし、それは今後もなくなることはない。しかし同時に、そうした関係が組み込まれやすいからこそ、新しいやり方で問題にチャレンジして感覚を更新できる場所にもなりうる。サッカーは日常では経験できない喜びを与えてくれると同時に、日常のあらゆる経験とどこかでリンクしている。ルックアップして周りを見渡し、適切にパスを/言葉を繋いで前進する技術が、ピッチの中だけでなく、ピッチの外でも求められている。

 9月の代表合宿前最後のJリーグの試合後、ミックスゾーンで「代表に呼んでもらえたことはうれしい。でもそこに呼ばれたから何か大きなきっかけになるわけじゃなくて、日々の練習の積み重ねがやっぱり大事なんだと思います」と話した鈴木武蔵。最後に筆者なりの彼のツイートへのメッセージを載せたい。

 「あなたがこれまで続けてきた長い積み重ねの果てにある輝かしいワンプレーを、Jリーグでも日本代表でも見られることを願っています。そして、力強い意味とエネルギーのこもったツイートをありがとうございました」


Photos: Getty Images

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文化鈴木武蔵

Profile

邨田 直人

1994年生まれ。サンケイスポーツで2019年よりサッカー担当。取材領域は主にJリーグ(関西中心)、日本代表。人や組織がサッカーに求める「何か」について考えるため、移動、儀礼、記憶や人種的思考について学習・発信しています。ジャック・ウィルシャーはアイドル。好きなクラブチームはアーセナル、好きな選手はジャック・ウィルシャー。Twitter: @sanspo_wsftbl