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フィル・フォデン。技術が凝縮された、高速ターンの使い手

2019.04.24

phil foden

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 フィル・フォデン。「ストックポートのイニエスタ」の異名で知られる青年は、地元のサポーターを誰よりも熱狂させる存在だ。

 マンチェスター・シティというグローバルに巨大化したクラブにおいて、ユース出身の若手選手が出番をつかむ機会は極端に少ない。アカデミー出身者のレギュラー定着が少ないクラブのファンは、地元出身の若手が活躍するマンチェスター・ユナイテッドやリバプールを羨望の眼差しで見つめることもあるに違いない。

 ペップ・グアルディオラを招へいし、プレミアリーグを席巻する強豪クラブにとって、欠けたピース。期待を一身に集めている18歳は、飛躍の時を待っている。

他を圧倒する、狭いエリアでのターンスキル。

 とはいえ、アンドレス・イニエスタリオネル・メッシと比較された若手の多くは、そのまま消えていったという事実も忘れてはならない。実際、神童の成長を願う指揮官ペップ・グアルディオラも「イニエスタは私が人生で見た中でも、トップのプレーヤー。フィルに余計なプレッシャーを与えることは避けなければならない」とコメントしている。

 しかし、フォデンが別格の存在として評価されていることも確かだ。指揮官は、10代の青年を「マンチェスター・シティの選手たちとプレーするために必要な能力を完備している」と評する。

 イングランドの若手が次々と評価されている今、この世代の筆頭として期待される青年の爆発を待ち望んでいるファンは多い。ドルトムントに移籍し、獅子奮迅の活躍を続けるジェイドン・サンチョ、イングランド代表に選出されたチェルシーのカラム・ハドソン・オドイのように、同世代の選手たちは頭角を現している。

 彼らのような突破力のあるアタッカーと比べると、フォデンは中央寄りでのプレーを得意とする万能型だ。守備が集中する狭いエリアでの打開が求められる局面において、イニエスタと比較される理由であるそのスキルが存分に発揮される。

 小柄なMFを別格視すべき能力、それが「緩急」のスキルだ。トップスピードの状態からでもピタリと止まってみせるだけでなく、瞬間的な動き出しにも優れたMFにとって「鋭いキレ味のターン」は最大の武器。昨年9月のリーグカップ3回戦で対戦したオックスフォード・ユナイテッドの青年監督カール・ロビンソンが「3人でのプレスを狙ったのに、一瞬で突破されてしまった。彼のボールコントロール能力は天才だ」と脱帽したプレーは、印象的だ。

 2010-11シーズンのCLで、バルセロナのプレッシングを切り裂き強烈なインパクトを残したジャック・ウィルシャーにも似た軽いステップと、正確なボールコントロール。「ボールと共に動く」スキルの高さは、既にトップレベルに比肩する。

 視野の外を把握する能力も高い。状況によっては「パスに触らずに、前を向く」という頭脳的な動きで相手を惑わす。相手の状況に応じたターン方向の選択能力と軽さを活かした加速によって、狭いスペースを突破する姿は「ハーフスペースの使い手」としてのポテンシャルを感じさせる。

 同僚のダビド・シルバは柔らかいターンの専門家であり、彼から学ぶことも少なくないだろう。実際にフォデン本人も、マンチェスター・シティの象徴として君臨するスペイン人MFを「憧れ」と語っている。インタビューでは「常にシルバとコンパニは、様々な助言をしてくれる」ともコメントしており、トレーニンググラウンドはチームメイトからトップレベルのプレーを吸収する「学びの場」として機能している。

 大会MVPに選ばれた2017年のU-17 ワールドカップではスペイン代表の守備陣をキックフェイントで翻弄、プレーの幅広さを感じさせた。トランジションの局面で攻撃をスローダウンさせることも少なく、身体を入れ替える技術によって「カウンターの起点」としても機能する。相手が躊躇すれば、ドリブルで一気に局面を打開することも可能だ。

2016年、U-17イングランド代表合宿でエミール・スミス・ロウ(左/RBライプツィヒ)、リアン・ブリュースター(右/リバプール)とともに写真に納まるフォデン

トップスピードからでも狙える、柔らかいスルーパス

 ドリブルに加え、スピードに乗った選手に配給するスルーパスも絶妙だ。

 特に圧倒的なのは、ボールの強さをコントロールする能力。ボールが強くなり過ぎたことで、ラインを割ってしまうような場面は極めて少ない。主にハーフスペースでのプレーを好むので、オーバーラップしてきたサイドバックを使うようなスルーパスは十八番だ。走り込む選手に柔らかく合わせるボールは、受け手としては次のプレーに移行しやすい。スピードに乗ったドリブルからでも正確なパスを供給する姿からは、同僚のケビン・デ・ブルイネをイメージさせる。

 時折狙う逆サイドへの浮き球も、綺麗なバックスピンで「受け手を助ける」質のボールになっている。鋭いパスを狙う際でも、回転は崩れないことが印象的だ。ワンタッチで逃がすようなパスも得意なので、競り合いを避けられない場面では安全にボールを動かす。

 シティのトップチームでの出場時も積極的にボールを要求する精神的な強さに加え、常に相手の守りづらい「間」のスペースに顔を出すポジショニングは、トップレベルでも通用している。もう少し中・長距離のパス技術が高まれば、セントラルハーフでの起用も視野に入ってくるかもしれない。

 また、出足の速いボール奪取は魅力的で、プレッシング時に相手との距離を詰める動きは鋭い。フィジカルでの競り合いは難しいが、高い位置からコースを限定する動きでの貢献も見逃せない。

磨くべき、ゴール前でのシュート能力

 パスとドリブルは、プレミアリーグのレベルでも十分に通用するだろう。特に瞬間的なスピードは、フィジカルに優れた大柄なDF陣を苦しめるに違いない。

 一方で、シュート能力には懸念も残る。シャルケとのCLラウンド16第2レグでは、ゴール前での冷静なフェイクでGKを突破し素晴らしいゴールを沈めたフォデンだが、シュート力とインパクトのセンスは発展途上。特に中距離からのシュートは、上達の余地が残る。

 裏に抜け出しながらボールを引き出す「受け手の動き」は悪くないが、強引にコースがなくてもシュートを狙ってしまう場面が目立つように、フィニッシャーとしてはトップクラスには遠い。イニエスタの唯一の弱点は中距離からのシュートだったが、フォデンには得点能力も期待される。中距離から相手ゴールを脅かせるようになってくると、さらにラストパスを狙うスペースが生まれるはずだ。

 戦術的な柔軟性が求められるマンチェスター・シティにおいて、フォデンの理想形は恐らくダビド・シルバやデ・ブルイネではない。ポルトガル代表で活躍し、クラブでも定位置を掴みつつあるベルナルド・シルバだ。先日のトッテナム戦ではベルナルド・シルバが、試合後のインタビューで「ゴールを決めたフォデンこそ、MVPに相応しい」と自らが選出されたMVPを譲ろうとする場面もあった。

フォデンとベルナルド・シルバの試合後のやり取り

 賢さを武器に様々なエリアに顔を出すことで、身体能力をカバーするポルトガル人アタッカーは、身長173cm。170cmのフォデンにとって、見習うべき部分が多い選手であることは間違いない。ボールをもらいに低い位置まで下がってくることを好むフォデンだが、そこからの組み立てに絡む能力は向上させられる部分が多々ある。攻撃時にもボールを引き出すような左右へのフリーランを習得すれば、受け手としてもさらに成長することになるだろう。トップクラスのアタッカ―と競争する環境は簡単ではないが、指揮官からの期待は大きい。

 ブンデスリーガからの関心をクラブが拒否したという報道が飛び交う中、次世代のエースがさらなる成長を遂げるには十分な出場機会が必要になる。憧れのシティ・オブ・マンチェスター・スタジアムを青年が沸かせる日も、遠くはないのかもしれない。

Photos: Getty Images

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フィル・フォデンマンチェスター・シティ

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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