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PSGが担う、カタールという国家ブランディングと“2022年問題”

2019.04.04

カタール資本となって7年。ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)の監視下に置かれながらも、パリSGは西・英・独のメガクラブに追随する売上高を、昨季もその58%(『フットボール・マネーリーグ』20傑クラブ平均は40%)を占めたコマーシャル収入を軸に記録してきた。

 今でこそ世界中からセレブ気分を味わいたい観光客が訪れるカタールも、ほんの10数年前はお隣UAEのドバイの賑わいに憧れる魅力に乏しい小国だった。そこで、人々の注目を集めるべく国家的プロジェクトとして推進することになったのが「スポーツイベントの開催」だった。テニス、自転車、ゴルフ、ヨットなどの競技には『カタール・オープン』があり、年間を通してほぼ毎週なにかしらの国際大会が秋田県ほどの国土内で行われている。そんな「スポーツ国家」を売りにするカタールが世界で最も人気のあるスポーツ、サッカーを見逃すはずはなく、国際的に知名度のあるサッカークラブを国のブランドイメージにすることは、いわばカタールの国家戦略だったと言える。

 経営不振で売却を考えていたパリSGの前オーナー、米国資本の投資会社「コロニー・キャピタル」との交渉が始まったのは2010年。当初はカタール側も慎重だったというが、同年12月、交渉を加速させる出来事が起きる。2022年のW杯開催決定だ。ホストになったからには自国チームが恥ずかしい戦いをするわけにはいかないと、サッカーのレベルアップを優先事項に考えたカタール側に、前オーナーの交渉人は「クラブオーナーになれば、育成部門に選手や指導者を相互派遣するなど、国のサッカー発展に直接的に繋がる」と強く訴え、合意に至った。PSGの名義上のオーナーは「QSI(カタール・スポーツ・インベストメント)」という投資会社で、同社チェアマンのナセル・アル・ケライフィがPSG会長に就任した。QSIは「QIA(カタール・インベストメント・オーソリティ)」というカタール国の投資部門のスポーツ分野に特化した子会社であり、QIAは2013年にカタール首長となる前までタミーム・ビン・ハマド・アル・サーニーが最高責任者だったことでも明白なように、カタール国そのもの。会長のビッグボスは首長一族というわけだ。

カタール観光局から年間で約270億円

 アル・ケライフィ会長は古くからアル・サーニー首長と近しい人物で、元テニス選手という肩書きを持ち、『アル・ジャジーラ』放送のスポーツ部門『beINスポーツ』の会長やアジアテニス連盟の副会長など要職を歴任するやり手である。しかしフランス現地での業務こそ彼が取り仕切っているが、実質的なビジネス面を司るのはフランス人ゼネラルディレクターのジャン・クロード・ブランだ。ハーバードのビジネススクールでMBAを取得した切れ者で、フランス国内のスポーツイベント運営に多数携わった他、ユベントスのフロントで6年間サッカービジネスを経験。カタール勢がオーナーとなった直後の2011年10月に引き抜かれ、以降ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)問題の処理やブランディング戦略などで手腕を発揮している、現PSGの陰のリーダーだ。

PSGのゼネラルディレクターを務めるジャン・クロード・ブラン

 そんな中、クラブが直面した最大の問題が、FFP違反を回避できるかである。2017年夏にはネイマールとムバッペの獲得に約4億ユーロを費やした。移籍金への支出は契約年数で割って算出されるから、5年契約である彼らの移籍金支出分は年間8000万ユーロほどで、これ自体はそれほど財政を圧迫しない。だが肝心なのは、月に約1億円を稼ぐネイマールを筆頭にスター軍団の高額サラリーである。収容人員5万人に満たないパルク・デ・プランスからの収益金はたかが知れている。メインの収入はスポンサーからになるが、彼らの4大スポンサー、ユニフォームサプライヤーのナイキ、胸ロゴスポンサーのエミレーツ航空、カタール国立銀行QNB、カタール情報通信会社Ooredooの4社を合わせても年間7500万ユーロほどだ。

 そこでUEFAの調査対象となったのが、カタール観光局(QTA)からの出資金の額だ。彼らは年間、なんと2億1500万ユーロをスポンサー料としてPSGに出資し、これを純粋な収入源とすることで赤字回避に寄与している。第三者の調査会社の調べでは、PSGによるカタール観光局PRの正当な対価は280万ユーロほどだという。ましてやカタール観光局はオーナー一族と同じ財布であるから、「これは純粋な出資とは言えない」、いわば水増しであると、数々のスキャンダルをスクープしているフランスのネットメディア『メディアパート』は報じ、一度はOKの判断を下したUEFAも再調査に乗り出した。

 確かに、パリのシャルルドゴール空港でPSG選手を使った「カタールへいらっしゃい!」的なポスターを見かけたことはあるが、表立った観光局のPR活動は見られない。これに関してPSG側は、「カタール観光局との契約は単なる観光PRではなく国家の“ブランディング”である」、つまり「PSGの価値を高めることでカタール国のイメージを向上させるもの」だとし、金額は正当であると反論。もしFFP違反と見なされていればCL出場権が剥奪される可能性もあり、CL優勝をイメージ戦略上の最大の目標としているカタールにとっては大問題だった。

 最終的には3月、スポーツ仲裁裁判所(CAS)がPSG側の主張を支持し、再調査を無効とすることを発表。処分は免れた。とはいえ、現状のような金満運営がいつまで続くかについてはフランス国内でも懐疑的で、大方は「2022年のW杯がボーダーライン」と見ている。そこまでは“サッカー&カタール”のイメージ戦略を盛り上げていく必要があり、ベッカムやイブラヒモビッチ、ネイマール、ムバッペらとはその時に「PR大使」となる使命も込みで特別待遇で契約したのだ。

 カタール勢によるPSGのギャラクティコ化が、リーグ1の一時代を創ったのは事実。約10年間のおとぎ話で終わってしまうのか、その後も続くのか。今後の動向を見守りたい。

Photos: Getty Images

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FFPパリ・サンジェルマン

Profile

小川 由紀子

1992年より欧州在住。96年から英国でサッカー取材を始め、F1、自転車、バスケなど他競技にも手を染める。99年以来パリに住まうが実は南米贔屓で、リーグ1のラテンアメリカ化を密かに歓迎しつつ、ブラジル音楽とカポエイラのレッスンにまい進中。