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エンゲージメント率316%! ASローマのソーシャルメディア戦略に迫る

2019.02.12

Interview with
PAUL ROGERS
ポール・ロジャーズ(ASローマ デジタル&ソーシャルメディア最高責任者)

昨年10月、「ASローマ公式Twitter」の英語版アカウント「ASローマ公式Twitter英語版」が316%という驚異的なエンゲージメント率を記録し、世界中を驚かせた。フットボールクラブの公式アカウントの中で2番目にエンゲージメント率が高かった「アーセナル公式Twitter」(29.4%)の約10倍ものエンゲージメントを生み出したのだ。

仕掛け人は、ASローマのデジタル&ソーシャルメディア最高責任者であり、「ASローマ公式Twitter英語版」の「中の人」でもあるポール・ロジャーズ氏。リバプールで生まれ育ったロジャーズ氏は、2015年1月にASローマに移るまで、リバプールの国際開発部の責任者として、リバプールのウェブサイト構築やクラブの公式テレビの番組製作、そしてソーシャルメディア戦略を担当していた。

そんなロジャーズ氏が、昨年11月に東京で開催されたSport Innovation Summit(SiS)のスピーカーとして来日。レアル・マドリーやバルセロナと比べれば小規模クラブであるASローマが、いかにしてソーシャルメディア界にイノベーションを起こしたのか? その秘密に迫るべく、ロジャーズ氏を独占取材した。

―― まず、ロジャーズさんの経歴を教えてください。ご両親もリバプール出身ですか? みなさんリバプールファンでしょうか?(笑)

 「父はリバプールのディングル(リバプール大聖堂より少し南のエリア)出身、母はアイルランド出身です。家族はみんなリバプールファンですよ。親戚には1人だけエバートンファンがいますけどね(笑)。私が初めてアンフィールドでリバプールの試合を観たのは7、8歳の時、ウェストハム戦でした。それ以来、熱狂的なリバプールファンです」


―― 大学では何を専攻されたのですか?

 「ジャーナリストになりたかったので、ジャーナリズムを専攻しました。音楽が好きで、大学入学前にすでに音楽雑誌に記事を書いていました。大学に入学してジャーナリズムを学び、フットボール雑誌にも寄稿するようになりました。大学はプレストンにあったのですが、よくリバプールまで取材に行きました。ロビー・ファウラーやジェイミー・レドナップにインタビューしましたよ。

 大学卒業後は、『MATCH』というフットボール雑誌の出版社に就職してリバプールの記事を担当したのですが、その後また音楽雑誌に戻り、『Lifestyle』や『GQ』といった雑誌でも編集やライターの仕事をしました。その後インターネット関連の会社に転職し、1年ほどWebエディターをしていたのですが、2001年の1月に新聞でリバプールの求人広告を見たのです。『You’ll Never Work Alone』というキャッチコピーでした、本当ですよ(笑)。リバプールファンでしたから、迷いませんでした」


―― どのような職種の求人だったのですか?

 「リバプールの新しいウェブサイトを構築する仕事でした。当時のリバプールのサイトは酷いものでした(笑)。そこで、私が中心になってサイトをリニューアルしたんです。2004年には『インターナショナル・テレビ・プログラム』という世界中で視聴できる3時間のテレビ番組を製作しました。週に1度、リバプールの試合と関連コンテンツが見られる番組でした。そして、2007年にLFCTVを立ち上げ、コンテンツ製作の責任者になりました」


―― リバプールのソーシャルメディアの運営もされていたのですよね?

 「そうです。ソーシャルメディアが登場したのは2008年でした。新しいものはなんでも試してみたい性分なので、ある朝Twitterの個人アカウントを作って少し遊んでみたんです。そうしたらこれは面白いかもしれないと思い、その日の午後2時にはリバプールの公式Twitterアカウントを立ち上げました。あの頃は、どこのクラブがどのソーシャルメディアのアカウントを最初に立ち上げるか、競争をしているようなところがありましたね。リバプールは、ほとんどのソーシャルメディアで公式アカウントをいち早く立ち上げたクラブでした。あの頃、リバプールは何のタイトルも勝ち獲っていませんでしたが、デジタルレースでは勝っていたのです(笑)。

 とはいえ、実のところTwitterで何をすればいいのかよくわかっていませんでした。リバプールの公式Twitterの最初のツイートは、クラブのスタッフのニーナという女性によるものだったのですが、『今日はインタビューの収録があるからカメラマンを探しているの』というものでした、まるで素人ですよね(笑)。ですが、すぐに100万人のフォロワーがつきました。

 ソーシャルメディアをより有効に活用できるようになったのは、英語以外の言語のアカウントを立ち上げてからです。ある時、ウェブサイトとFacebookのアクセス解析をしていたら、面白いことがわかりました。リバプールのウェブサイトにアクセスしている上位10カ国のうち、7、8カ国は英語を公用語としている国、もしくは英語を理解する人が多い国でした。イギリス、アイルランド、アメリカ、オーストラリア、マレーシア、シンガポール、デンマーク、ノルウェー。それに対して、Facebookにアクセスしている上位10カ国のほとんどは、外国語を話す国だったのです。1位は当然ながらイギリスでしたが、2位以下はインドネシア、タイ、マレーシア、インド、メキシコ、コロンビアといった国でした。

 そこで、2012年11月に、こうした国々のファンに向けてそれぞれの言語で発信するアカウントを立ち上げました。こうして、英語を理解できないファンにもクラブの情報を届けることができるようになったのです。投稿する時間も、それぞれの国が活動している時間帯に合わせました。どんなに素晴らしいコンテンツでも、ジャカルタ時間の午前4時に投稿していたら、インドネシアのファンには届きませんからね」


―― 14年間勤務されたリバプールからASローマに移られたのは、スティーブン・ジェラードがリバプール退団を発表したのと同じ2015年の1月ですね。

 「ASローマのデジタル&ソーシャルメディア部門の最高責任者に就任しました。ASローマの4つの言語のウェブサイト(イタリア語、英語、アラビア語、インドネシア語)を運営しているほか、15の言語のTwitterアカウント、2つの言語のFacebookページとInstagramアカウント、Snapchat、Pinterest、WeChatのアカウントを運営しています。

 ローマで最初に取りかかった仕事は、新しいウェブサイトを立ち上げることでした。ファンがコンテンツ制作に参加できる新しいスタイルのウェブサイトを完成させ、2017年にインタラクティブ・メディア・アウォーズのスポーツ部門で最高賞を受賞しました」

SiSで講演するロジャーズ氏

『個性』を持たせ『人』を出す


―― 本題であるASローマのソーシャルメディア戦略について教えてください。

 「私たちの戦略の中心にあるのは、まずはファンを楽しませること、そしてイタリア国内だけでなく世界中にいる潜在的なファンの関心を引くことです。私がローマに来る前は、ローマのTwitterアカウントは1つしかありませんでした。イタリア語のツイートに英訳をつけてツイートしていたのです。そこで、まずは『英語版』を立ち上げました。さらに、リバプールの時と同じように、インドネシア語、アラビア語、トルコ語、フランス語、スペイン語のアカウントを立ち上げました。

 次に取り組んだのは、各アカウントに『個性』を持たせることでした。ローマは獲得タイトル数もファンの数も、リバプールやマン・ユナイテッドやユベントスやミランには及びませんが、規模の小さいクラブであっても、ソーシャルメディアでビッグクラブ以上のエンゲージメントを生み出すことは可能です。ですが、そのためにはビッグクラブと同じことをやっていてはダメです。インターネット上にあふれている多くのコンテンツの中からローマのコンテンツを選んでもらうためには、『ふつう』ではダメなのです。『個性』がないと」


―― ローマのアカウントにどのような「個性」を持たせたのでしょうか?

 「『ユーモア』です。巷にあふれるフットボールの話題の中にはネガティブなものも多いですよね。ファイナンシャル・フェアプレーとか、組織の腐敗とか、代理人とか。そんな話題に触れても楽しくないでしょう? フットボールというのは本来『楽しい』ものであるはずです。ですから、ローマのアカウントは『ユーモア』にあふれる『楽しい』ものにしようと決めました。

 『楽しい』アカウントであれば、他のクラブのファンにも楽しんでもらえます。今はテレビやインターネットで世界中のフットボールを見ることができる時代です。自分がサポートしているクラブのリーグだけでなく、他のリーグの試合を見て、他のクラブに興味を持つ人も増えています。そんな人が『楽しい』アカウントを見つけたら、たとえサポートしているクラブのアカウントでなくてもフォローしてくれますし、クラブそのものにも興味を持ってくれるようになります。プレミアリーグのクラブをサポートしている人でも、『イタリアのクラブではローマが好き! Twitterが面白いから!』と思ってくれるでしょう。今の時代、デジタルコンテンツは非常に大事なのです」


―― ロジャーズさんが「中の人」を担当されている「ASローマ英語版」のツイートには、「楽しい」だけでなく、「奇妙」なものや「謎めいている」ものもありますよね(笑)。2017年の夏にパトリック・シック選手を獲得したことを発表するビデオには、パソコンのキーボードを叩くサル、歌を歌うライオン、チェスをするヤギ、そしてトッティ選手が登場するだけで、シック選手本人は登場しません(笑)。

 「そうですね。時に『奇妙』なことをやったりもしています。ですが、それも『楽しい』ものにするためなのです。『これは何だろう?』とか『どういう意味だろう?』と考えるのは、楽しいことではないですか?(笑)」


―― 「ASローマ英語版」が他のアカウントと大きく異なるのは、「中の人」の存在をフォロワーに意識させるようにしていることです。「中の人」の嗜好や感情を出したり、パーソナルなことを呟いたり、フォロワーと親しく会話したりもしていますよね。

 「イングランドの多くのクラブのアカウントは退屈です。個性や人間味がないからです。ファンはクラブと話したいと思っています。クラブを身近に感じたいのです。ですが、クラブは『人』ではありませんから話すことができません。クラブがファンと話すためには、クラブを代表する『人』の存在が必要です。ですから、『ASローマ英語版』では、個性を持った『中の人』の存在を前面に出し、ファンがクラブを代表する『人』と話していると感じられるようにしたのです。『アラビア語版』も、『中の人』が個性を出しているユニークなアカウントです。『イタリア語版』は少し慎重にやっているのですが、それでも少しずつ個性を出すようにしています。この方法が有効であることは『英語版』が証明していますからね」


―― 「ASローマ英語版」は、2018年10月にエンゲージメント率316%という驚異的な数字を記録しましたね

 「『ASローマ英語版』に次いでエンゲージメント率が高かったのは、フットボールクラブの公式アカウントの中では『アーセナル公式Twitter』の29.4%でした。316%というのが、いかに桁外れな数字であるかがおわかりいただけると思います。世界中のフットボールクラブのTwitterアカウントの中で最もエンゲージメント率が高いのは、『バルセロナ』でも『レアル・マドリー』でもなく、『ASローマ英語版』なのです」


―― ロジャーズさんがインスピレーションをもらっているアカウントはありますか?

 「主に私がフォローしている普通の人たちのツイートからインスピレーションをもらっています。例えば、100人しかフォロワーがいないアメリカのティーンエイジャーのツイートに、10万以上の『いいね』がつくことがあります。ごく普通の人の中にも、時おりキラリと光る絶妙なウィットやユーモアを見せる人がいるのです。

 企業のアカウント中にも、私のインスピレーションになっているものがあります。例えば、ハンバーガーショップのウェンディーズの公式アカウント。最高に面白いですよ。イギリスのパウンドランド (イギリス版100円均一ショップ)のツイートもユニークです。歌手のジェイムズ・ブラントのツイートも好きですね。フットボールクラブだと、バイエルンのUS版とレバークーゼン英語版が面白いです。

 セビージャとベティスもいいですね。ビッグクラブよりはスモールクラブの方が、面白いツイートをする傾向にあります」


―― 「International football is important but club football is importanter」というツイートについて教えてください(笑)。「ASローマ英語版」でバズったツイートの1つですよね。

 「昨年のワールドカップの頃のツイートですね! イタリアがワールドカップに出場していれば、『ASローマ英語版』は当然ながらイタリア代表応援ツイートをしたのですが、ご存知の通り、イタリア代表はロシアワールドカップに出場できませんでした。そこで、大会に出場した国の中から1つを選んで、その国の代表チームを『ASローマ英語版』で応援することにしたのです。私たちが選んだのはナイジェリア代表でした。

 『ASローマ英語版』がナイジェリア代表の応援ツイートを始めると、大勢のナイジェリア代表ファンが『ASローマ英語版』をフォローしてくれるようになりました。どうもナイジェリアの人たちは私たちと同じ笑いのツボを持っていたようで、私たちのツイートをとても楽しんでくれました。多くの人が『ASローマ英語版』の『中の人』はナイジェリア人だと思っていたほどです(笑)。

 そんなナイジェリア人のフォロワーの中にZamorraという歌手がいました。そして、ナイジェリアでは彼の『Importanter』というタイトルの歌が大人気だということを知りました。『Money is important but love is importanter』とか、『Being rich is important but being happy is importanter』いった歌詞の歌です。そこで、その歌詞をちょっと拝借して、『ASローマ英語版』で『International football is important but club football is importanter』とツイートしたのです。ナイジェリア人のフォロワーたちは、『なぜローマの人がこの歌を知っているの!?』と大騒ぎでした(笑)。また、その歌を知らないナイジェリア人以外のフォロワーたちも、ツイートの内容への共感と、『importanter』という言葉の使い方の面白さから、多くが『いいね』や『リプライ』をしてくれたのです」


―― 「ASローマ英語版」はすでに大きな成功を収めていますが、今後、投稿の仕方や内容、方向性を変えていく必要性は感じていらっしゃいますか?

 「常に変わっていかなければならないと思っています。夏の間は、どのクラブも新しく移籍してきた選手を紹介する投稿をしますが、2017年の夏、ASローマは先ほどのパトリック・シック選手の紹介ビデオのようなクレイジーな映像を作りました。こんなおかしなことをしたクラブはそれまで他にありませんでしたが、私たちのクレイジーなビデオが話題になると、他のクラブもみな真似をしておかしなビデオを作るようになりました。

 翌年、『この夏ASローマはどんなビデオで新加入選手を紹介するんだろう!?』という期待が高まっているのを知っていました。ですが、私たちはその期待を裏切ることをしたのです。ビデオは作りませんでした。6月にブライアン・クリスタンテ選手の獲得を発表したときは、前のクラブでプレーしているブライアンの写真の上に、ローマのユニフォームをわざと雑に貼り付けただけの写真を投稿しました。

 フットボールクラブの公式アカウントが、こんな素人でもやらないようなひどいフォトショップ加工をするとは誰も思いませんよね?(笑) この投稿は、前の年の夏に投稿したクレイジーなビデオの3倍のエンゲージメントを生み出すことに成功しました。

 昨年7月にスウェーデン人のGKロビン・オルセンを獲得した時には、オルセンの写真すら使わず、スウェーデンの家具メーカー、IKEAの取扱説明書を真似たイラストを投稿しました。

 同じことをやっていたらファンは飽きてしまいますし、他のクラブに真似されてしまいます。ですから、常に他のクラブに先駆けて新しいことをやっていく必要があると思っています」

Photo: Yumiko Tamaru

<プロフィール>
Paul ROGERS
ポール・ロジャーズ

(ASローマ デジタル&ソーシャルメディア最高責任者)

イギリス・リバプール出身。2001年1月からリバプールのデジタル&ソーシャルメディア運営の責任者として、ウェブサイト構築やコンテンツ製作、インターナショナル・ファンベースの拡大やファン・エンゲージメントを促進する業務を担当。2015年1月よりASローマのデジタル&ソーシャルメディア部門の最高責任者に就任。自身が「中の人」を務める「ASローマ公式Twitter英語版」は、ゆるく、楽しく、クレイジーな投稿で、世界中のフットボールクラブの公式Twitterアカウントの中で最もエンゲージメント率の高いアカウントとなっている。

Photos: Yumiko Tamaru

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Profile

田丸 由美子

ライター、フォトグラファー、大学講師、リバプール・サポーターズクラブ日本支部代表。年に2、3回のペースでヨーロッパを訪れ、リバプールの試合を中心に観戦するかたわら現地のファンを取材。イングランドのファンカルチャーやファンアクティビストたちの活動を紹介する記事を執筆中。ライフワークとして、ヨーロッパのフットボールスタジアムの写真を撮り続けている。スタジアムでウェディングフォトの撮影をしたことも。

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