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“アジア最強”イラン。王座奪還期待するファン、ケイロスの不安

2019.01.10

アジアカップ2019特集 現地メディアが伝える変革するアジア列強の今 #5】イラン代表

 アジアカップ最多タイの出場回数(14回目)を誇るイランが、アジア王座の奪還を目指す。1968年の本大会初出場から3連覇。以降も参戦し続けているが、しかし決勝にはたどり着けていない。過去6大会は、ベスト4が2回、ベスト8が4回。そのうち3度はPK戦によって涙を呑んでいる。今回こそ、勝負運を引き寄せて、43年ぶりのファイナル進出を果たしたいところだ。

 ここ3年ほど、FIFAランキングでアジアのトップを維持しているように、その実力に疑いはない。延べ7年半にわたって指揮を執るカルロス・ケイロス監督の下、チームは組織力を高め、昨夏のロシアW杯ではスペインやポルトガルと同居するグループで、突破にあと一歩のところまで近づいた。規律ある守備から繰り出す鋭いカウンターを、覚えている人も多いのではないだろうか。

 檜舞台で欧州の強豪と接戦を繰り広げ、その後のフレンドリーマッチで無敗を続ける“チーム・メッリ”(イラン代表の愛称)なら、アジアカップ優勝も夢ではない。そう考えたいところだが、この大会には複数の主力を欠いて臨むことになるため、不安もある。

 まず、アジア屈指のセントラルMFとも評されるサイード・エザトラヒ(レディング)が、太腿の負傷で今大会を回避。ベルギーで活躍する若き技巧派ウインガー、アリ・ゴリザデ(シャルルロワ)も足の状態が万全ではなく、スタンバイリストに名を連ねることになった。

 そしてザルダル・アズムン(ルビン・カザン)と並ぶエースの一人、アリレザ・ジャハンバクシュも状態に不安を抱えている。ロシアW杯で輝き、ブライトンへの移籍を勝ち取ったウインガーは11月にハムストリングを痛め、以降は公式戦に出場していない。最終メンバーには入ったが、トップコンディションに近づけられるかは不透明だ。

プレミアリーグで今季10試合に出場しているアリレザ・ジャハンバクシュ。5-0で快勝した7日のイエメン戦では90分間ベンチから戦況を見守ったが、悲願の大会制覇へ向けては彼の復活が不可欠だ


安心の守備陣と問題のMF陣

 グループDには永遠の宿敵イラク、スズキカップを制したベトナム、不気味なイエメンがそろい、ケイロス監督は厳しい戦いを覚悟している。12月24日のパレスチナとの強化試合を1-1で引き分けた後、指揮官は次のように話した。

 「この試合を見て、選手たちだけでなくイラン国民も、アジア制覇が簡単ではないとわかったはずだ」

 監督の見立てによると、イランは日本、韓国、オーストラリアに次ぐグループを構成する一つだが、この国に多くいる熱狂的なファンや有識者はベスト4を最低限のノルマと捉えている。そのうちの一人、元代表FWのコダダド・アジジは監督の発言にこう反論した。

 「ケイロス監督は4強入りを夢と捉えているようだが、それは我われの夢ではない。彼は7年以上もチーム・メッリを率い、世界屈指の高給を取っている。我われにはタイトルをもたらしてくれる指揮官が必要だ」

 このように65歳のポルトガル人監督は重圧を感じているはずだが、やり方は変えないだろう。これまで通り、システムは[4-2-3-1]と[4-1-4-1]を併用し、コンパクトな陣形から練度の高いコンビネーションで攻撃に転じる。

 守護神アリレザ・ベイランバンド(ペルセポリス)やCBマジード・ホセイニ(トラブゾンスポル)、SBエフサン・ハジサフィ(トラークトゥール・サーズィ)ら、域内トップレベルのタレントがそろうディフェンス陣に不安は少ないが、中盤と前線には問題を抱えている。MFエザトラヒの代役と目されていたアリ・カリミ(エステグラル)も故障中で、オミド・エブラヒミ(アル・アハリ)をアンカーに下げるか、新鋭アフマド・ヌロハニ(ペルセポリス)の起用が予想される。

 ジャハンバクシュの状態が戻ってこなければ、スウェーデン出身のウインガー、サマン・ゴッドス(アミアン)に出番があるかもしれない。これまではジョーカーとしての起用が多かったが、高精度のキックを武器にチーム内の序列を覆せるか。

 最前線ではエースストライカーのアズムンが存在感を放つ。ロシアW杯で世界にデビューした点取り屋は、ここまで代表40試合で24得点を記録している。同郷のレジェンド、アリ・ダエイとも比較される24歳は、W杯中にSNS上でファンから批判されたことを理由に一時は代表から離れていたが、その後に翻意。空中戦に強く、前線で攻撃の起点となり、決定力も高いこの大型FWが、イランの攻撃の生命線となる。

 堅実なケイロス監督に率いられるイランが大崩れすることはないはずだが、得点の少ない慎重なチームを多くの国民は好まない。彼らを納得させるには、11大会ぶりの頂点に立つしかないのだ。

29位につけるFIFAランキング上はアジア最強ながら、慎重な姿勢を崩さないカルロス・ケイロス監督。大会制覇への期待を膨らませる人々へと朗報を届けられるか

AFCアジアカップUAE2019 テレビ放送予定

地上波放送:テレビ朝日系列にて生中継!
https://www.tv-asahi.co.jp/soccer/asiancup2019/

BS放送:NHK BS1にて生中継!
https://www1.nhk.or.jp/sports2/daihyo/index.html


Photos: Getty Images
Translation: Yoichi Igawa

Profile

マニ ジャズミ

1980年生まれ、テヘラン出身のスポーツジャーナリスト。取材活動歴は16年に及び、『BBC World Service』や『BBC Radio 4』などで中東のサッカー事情を伝えている。過去にはAFC公式サイトなどにも寄稿。