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GK大国ドイツの現場で教える田口コーチに聞く、現代GKの個人戦術

2018.12.26

Interview with
TETSUO TAGUCHI
田口哲雄(ケルンユース部門GKコーチ)

現代サッカーではGKの「フィールドプレーヤー化」が進んでいるが、GK王国ドイツの育成現場でケルン正守護神のティモ・ホルンらを育て、10年以上このポジションの変化を見てきた田口哲雄氏は何を思うのか? 現代GKの個人戦術、そして新しいムーブメントについて聞いてみた。


求められる「フィールドプレーヤーの感性」

── GKの細かい仕事内容や判断基準は、このポジションの経験者を除いて、理解しているようで理解していない人が圧倒的に多いはずです。現代サッカーにおけるGKの個人戦術と聞き、まず思い当たるのは何でしょうか?

 「現代には該当しないかもしれませんが、GKに求められる役割が大きく変わったのは、やはりバックパスルールの改正以降です。昔はゴールライン上でシュートを防ぐだけで良かった。しかし、今はビルドアップでの貢献や守備範囲の広さなども求められます。大事なのは、サッカー選手としての感性を持ち合わせているかでしょう」


── フィールドプレーヤーと同じような感性とも言えるでしょうか?

 「そうです。ビルドアップ時も守備時も、このあたりにパスが来そうかなと予測できるかが大事です。それができれば、自ずとポジショニングは高くなり、裏へ抜けてきたスルーパスへの対応なども一歩目が早くなりますし、判断が正確になりますから。ここに来るかなと読むことで、判断に余裕が出てくるわけです。パスを出されてから気付いたり、動いたりしていては遅い」


── 攻撃を構築する時に、GKに求められる戦術眼とは何でしょうか?

 「どれだけ視野を持てるかです。例えば、ティモ(・ホルン)はバックパスが入った段階で相手が詰めてきていれば、ターゲットとなるヘディングが強い味方のFWがどこにいるか確認しているはずです。もちろん、ロングパスを繋げるためですね。クロスやFKをキャッチした場合は、カウンターを仕掛ける選手がどこに動き出しているかを見ます。ティモの場合はボールを手で持ったら、真ん中ではなくサイドに動き出します。人が密集している中央部を避けて、正確なフィードを送るためですね。もちろん、カウンターを仕掛ける選手が動く時間を作るためでもあります」


── そのホルンやノイアーは、カウンターの起点になることが非常に多い。一方で、そうした役割をこなせないGKもいます。両者を分ける大きな違いはどこに?

 「大前提にあるのは技術です。ティモは60m級のキックでボールを正確に味方へと届けられます。それからフィールドプレーヤーの認識も重要になります。ウチ(ケルン)はティモが持てばカウンターという共通認識がありますので、走り出す選手が必ず出てくる。もちろん、単純に視野が狭いからカウンターの起点になれない選手もいますよ。キャッチする前の段階で、周囲の状況、味方の位置関係を確認しておかなければなりません。これができない選手たちはボールを手にしてから、ようやく味方がどこにいるか把握しているんです。見ている側はあそこに出せばいいのにと疑問に感じても、残念ながら本人には見えていません。ドイツ人GKの中で攻撃への貢献度が高いのは、やはりノイアー、ティモ、テア・シュテーゲンですね」


── 技術レベルが高くないにもかかわらず、ビルドアップがうまい例外的な選手はいますか?

 「(教え子の1人である)メーゼンヘラーはすごくうまいです。とにかく視野が広くて、戦術理解度が高いので、足下の技術がそれほど高くなくてもビルドアップで貢献できるんです。タイトルを獲るほどのチームでプレーしたユース時代に、ビルドアップに長けた選手たちに引っ張れるように、彼もうまくなっていった部分もありますね」

ケルンからウニオン・ベルリンを経て今季デュイスブルクに加入したダニエル・メーゼンヘラー


守備でも「勇気を持つメンタル」が重要

── 次は、局面別に考察してみましょう。まずマイボール時。敵陣で自分のチームがボールを保持している時に、GKのポジショニングは高めだったり、低めだったりと個人差がありますね。この位置取りを決める基準は?

 「マイボールで相手陣内の深い位置に押し込んでいる時に、どの程度の高さを保つべきか。もちろん、これも個人戦術の1つです。決める基準は、味方CBと自分の位置関係になります。CBがどの高さにいるか。こちらが押し込んでいる時は、相手は1枚しか前線に張らせていない場合が多いので、その選手に対して、2CBのうち1人がしっかりケアしているか、もう1人はボールサイドでパスコースを作っているか。そうしたことを確認すれば、立つべき場所が決まります。基本的にはボールサイド寄りになりますね」


── では、そこからボールロスト後にカウンターを受ける際の対応には、どんなプレー原則がありますか?

 「GKが一気に飛び出すのは、DFライン裏のスペースに出されたボールが長い時です。そのボールが短いようであれば、CBに対応させて、バックパスを受けやすい距離を取る場合もあります。その感覚に優れているのは、やはりノイアーです。テレビ観戦をしていると、画面の外からパッと出てきて対処しているシーンがよく出てきます」


── その際のポジショニングに関して、田口さんの教え子たちには具体的にどんな助言を?

 「例えば、相手陣内にボールがある時は、とりあえず高めに取るように伝えています。ユースの選手、特に中学生くらいの世代までは、ハーフウェイラインからGKの頭上を越す50m級のシュートを打てる選手はいませんので。それを警戒して、自分がゴールエリアの中に立っているのはナンセンス。ボールに対してプレッシャーがかかっていれば、なおさら50m級のシュートは飛んできません。勇気を持って前に立っていて大丈夫です」


── 勇気を持たせるには、個人の意識改革がとても重要になりますよね。メンタル面を指導する際の難しさは?

 「子供の頃から守りを意識するあまり、ゴールから離れられない選手、ゴールラインにへばりついている選手を後々修正するのは難しいですね。もっと勇気を持って前に出ろと、理論的に説明するしかありません。逆に子供の頃に勇気を持って前に出られるようになった選手に、大人になってから慎重なポジショニングを学ばせる方がいいように思います。もちろん、大人は視野が広いですし、先ほど話した50m級のシュートを飛ばしてきますから」

ノイアーのように前に出る勇気を持つには「育成時代から(この年代では50m級のシュートはないなど)理論的に説明するしかない。慎重なポジショニングは大人になってから学べばいい」


── 次に1対1の対応です。いわゆるピンチを防ぐための準備を教えてください。

 「1対1は基本的に相手との距離が狭まれば狭まるほど、GKが有利になります。その優位性を得るために、スルーパス(ラストパス)が出た瞬間、相手がまだコントロールしていない時に間合いを詰めます。特に外側から中へ向かってきた時ですね。逆に相手が真ん中からコーナーフラッグの方向に抜けてきた場合で、しかも味方のCBやSBが後ろから付いてきているようでしたら、無理に間合いを詰める必要はありません。GKが早めに飛び出してしまうと、追いかけてくるDFがスピードやプレッシャーを緩める場合が多いので」


── 確かにブンデスリーガでもそうしたシーンは見ます。

 「それからDFがしっかりとくっついて来て、スプリント勝負をしている時は、往々にして相手のファーストタッチがブレます。DFがくっついている時は間合いを詰めずに、むしろブレる瞬間を待っているべきですね。コントロールが乱れたところで突っ込むと言いますか、対処するのがいいですね」


── この1対1の対応に優れる選手と言えば、ノイアーや田口さんの教え子であるホルンでしょう。

 「ノイアーに関しては、完全に相手が恐れを抱いていますね。たしかいつかのフランクフルト戦だったと思いますが、ハーフウェイラインからゴールに向かって独走してきた選手がいました。そこでノイアーはそれほど飛び出さずに、仁王立ちで構えていたんです。相手からすれば、ノイアーに待たれるのは嫌だったでしょうね。結局、ペナルティエリアに入るかどうかという位置から狙ったシュートは枠を捉えませんでした」


── あえて動かなかったわけですね。

 「そうです。変に動かない。あの状況では動かずに構えていることが一番良かったと思います。相手は時間的余裕があれば、顔を上げてシュートコースを探します。しかし、仁王立ちするノイアーの迫力で打ち抜く場所を見つけられなくなる。そのままドリブルして、それほどゴールから離れていない位置でノイアーを抜いても、ゴールに流し込むには角度が悪過ぎます。ティモについては、1対1について言えば、最初の段階で飛び出すのが早いです。そして体を開いて、ボールに当てに行く。そのパターンで止めることが多い。もちろん、技術的な弱点もありますが」


── 次はクロスへの対応も具体的に掘り下げてみましょう。クロスが出される前に、ペナルティエリア内の状況を確認しなければなりませんよね。

 「もちろんです。まずはクロスが入る直前、首を振ってゴール前の状況を確認します。極端な話、ゴール前に相手FWがいなければ、DFに胸なり頭でバックパスさせてもいい。背の低いFWしかいなければ、グラウンダーのボールが来ると想定できますので、それに応じた準備ができますよね」


── クロスが入ってくる時のポジショニングに原則はありますか?

 「クロスが上げられる位置で変わってきます。仮にゴールラインから16、17mの高さとします。ここでDFとGKの間にグラウンダーで入れられたら、GKは真ん中よりもボールサイドに寄っている方が対応しやすい。逆に、ほぼコーナーフラッグの付近から上げられる時は、CK時と同じようなポジションになります。1つの目安を挙げるなら、クロサーの位置がニアポストから近ければ近いほど、GKのポジションもニアポストに近くなければなりません。遠ければ遠いほど、ニアポストからセンター寄りになります」


── 高低はいかがでしょうか?

 「これも同様で、クロスが上がる位置がゴールラインに近いほど、GKはゴールから離れます。こちらから見て左サイドのコーナーフラッグ付近から右足で上げられる場合、アウトサイドキックで逆回転にならない限り、直接ゴールを割られる恐れはないので、ゴールライン上に立っている理由はありません。CKも同じですね。例えば、CKの時にゴールから遠ざかるボールが上がるようなら、ゴールエリアのギリギリまで前に出た方がいい」

最近の流行は「横パスを消すポジショニング」

── 各ポジションのタスクが多様化している中で、GKも例外ではないはずです。最近、主流になっているような新たな守り方はありますか?

 「ここ最近のドイツのGKコーチたちの間で話題になっているのは、ゴールエリアを横切るような横パスが予想される状況でのポジショニングですね。例を1つ挙げます。昨季のバイエルン対シャルケ戦(ブンデスリーガ第22節)で、ミュラーがニアポストから7、8m離れたほぼ角度のない位置から、ニアポストとGKフェアマンの間を抜くゴールを決めました。この時にニアを抜かれたポジショニングについて、一般のファンはミスと捉えています。しかし、ポジション自体はミスではありません」

17-18ブンデスリーガ第22節バイエルン対シャルケの該当シーン


── 確かに「ニアを抜かれるのはダメだ」という一般認識があります。ただ、角度がなかったので、シュートはないと考えたのでしょうね。

 「そうです。フェアマンはグラウンダーの横パスが来ると想定していました。距離的にチップキックで頭上を越されるとも考えにくい。したがって、ニアポストに立って体の角度をオープンにしたまま構えるのではなく、ニアポストから縦に伸びる仮想のラインを横切らせないように、ゴールから離れた位置に構えました。この守り方が、ここ最近の流行りになっています。フェアマンの唯一のミスを挙げるとすれば、シュートが来ないと山をかけて、(ゴールとは逆側にある)右足に重心を乗せたことですね」


── ポジショニング自体は間違っていないが、山をかけたことが悪いと。プレーの傾向などによる相手のイメージ、またはシチュエーションに応じて、GKが山をかけるようなことは他にも少なくない印象がありますが……。

 「そうですね。ただ、絶対に山をかけてはいけません。例えば、ロッベンはカットインしてからファーサイドを狙うイメージが強いですよね。GKがそれを読み過ぎると、逆に対峙するDFの股下を抜いて、ニアサイドに突き刺してくる。ファーサイドをケアしたいなら、DFに股を開くなとコーチングするか、約束事として事前に決めておくのが大事です。そして自分はファーに集中すると。こうしたDFとの分業は他の場面でも大切になっています」


── 最後の質問です。GKの個人戦術を磨く上で、普段のトレーニングでどんな工夫を施されていますか?

 「GK練習の際に様々な角度からシュートを打つので、自然とポジショニングは細かくなります。それから、わざと他のGKを5m手前に立たせて視野を悪くさせた状況で、ポジションや判断を促します。1対1やスルーパスへの対応などは、チーム練習時にアドバイスするのが効果的ですね」

Tetsuo TAGUCHI
田口哲雄

1976年、埼玉県生まれ。2006年からケルンのユース部門でGKコーチとして手腕を振るう育成のエキスパート。ユース各年代のドイツ代表でプレーし、12-13からケルンの正GKを務めるホルンをはじめ、現デュイスブルクのメーゼンヘラー、一昨季ケルンでリーグ初出場を果たしたスベン・ミュラーらを育て上げた。現在はU-21チームのコーチングスタッフおよびU-15からU-21までのGK育成を担当。

Photos: Getty Images

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Profile

遠藤 孝輔

1984年3月17日、東京都生まれ。2005年より海外サッカー専門誌の編集者を務め、14年ブラジルW杯後からフリーランスとして活動を開始。ドイツを中心に海外サッカー事情に明るく、『footballista』をはじめ『ブンデスリーガ公式サイト』『ワールドサッカーダイジェスト』など各種媒体に寄稿している。過去には『DAZN』や『ニコニコ生放送』のブンデスリーガ配信で解説者も務めた。