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なにしたマルケス!?メキシコ麻薬戦争とサッカー界

2017.10.24

 「麻薬組織」と聞くと、コロンビアをイメージする人が多いのではないだろうか。しかし1990年代に同国のそれらが壊滅状態に陥って以来、メキシコの麻薬カルテルが勢力を伸ばしている。彼らは国内で生産、あるいは中南米諸国から密輸入した薬物をアメリカで売りさばき、巨万の富を得てきた。メキシコ政府はこの動きを黙認してきたが、2006年12月に就任したフェリペ・カルデロン大統領はカルテルの撲滅を目指して軍や警察組織を動員。麻薬カルテルに対抗すべく自ら武装した市民自警団も加わって“メキシコ麻薬戦争”と呼ばれる紛争に突入し、これに絡む死者は累計12万人を超えると言われている。

 特に多くの武力衝突が起こっているのは、バハ・カリフォルニア州やチワワ州、ヌエボ・レオン州、タマウリパス州といったアメリカ国境に近い地域だ。筆者は2011年と12年に、クラブW杯に出場するモンテレイ(本拠地モンテレイはヌエボ・レオン州の州都)を取材するため現地に数日間ずつ滞在したが、当時は「メキシコシティより北には行くな」と言われていたほど治安が悪化していた時期で、実際に12年の滞在時には市内で麻薬組織と警官隊の銃撃戦があり、10人以上が射殺される事件が発生したと聞いた。“麻薬戦争”は今も収束しておらず、16年には2万3000件もの殺人事件が発生している。

知らずに協力? 4年前にボルヘッティも

 麻薬カルテルは政府や警察の関係者とも裏で繋がっていると言われている。そもそも犯罪組織なのだから、その構成員は素性を隠して生活しているだろうし、知らずに交流していた相手が実は麻薬カルテルの関係者だった、というケースも多々ある。今年8月に麻薬組織との関係が発覚したラファエル・マルケス(アトラス)も、それに近いケースだと考えられる。

 8月9日、アメリカ財務省に所属する外務資産管理室(OFAC)が、複数の麻薬カルテルでマネーロンダリングを行っているラウール・フローレス・エルナンデスという人物に関する調査報告書を公開。マルケスが主宰するサッカースクールや貧困者救済組織などが関与していることが明らかになり、マルケス自身もアメリカ滞在ビザの失効やアメリカにある資産の凍結などの処分が下された。OFAC側は、マルケスがフロントマンの役割を担っていたと断定している。

 マルケスは捜査に協力する姿勢を示しつつ、麻薬組織への関与を否定した。現地の報道によると、マルケスはエルナンデスの息子であるラウール・フローレス・カストロとは親しい間柄であるという。おそらくそれは真実だろうが、彼はこの知り合いが麻薬組織の関係者だと認識していなかった可能性もある。

 2013年10月には、「ティフアナ・カルテル」のボスであるフランシスコ・アレジャノ・フェリックスという人物が自身の誕生パーティーで暗殺される事件が発生したが、この会には元メキシコ代表FWハレ・ボルヘッティが、元ボクサーのオマール・チャベスらとともに出席していた。クラブ・ティフアナのオーナーで、ティフアナ市長を務めたこともあるホルヘ・ハンク・ロン氏は、やはりティフアナ・カルテルとの関与を疑われ、FBIの捜査を受けたことがある。

元メキシコ代表FWハレ・ボルヘッティ

 メキシコサッカー界は非常に華やかで、巨額のカネが動く世界だ。マルケスやボルヘッティのようなスター選手になると、その富と名声を利用しようと様々な人物がすり寄ってくる。そこに麻薬組織の関係者が紛れ込んでいても何ら不思議ではなく、知らず知らずのうちに組織に“協力”する形になっているケースもあるのではないだろうか。

Photo: Getty Images

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Profile

池田 敏明

長野県生まれ、埼玉県育ち。大学院でインカ帝国史を研究し、博士前期課程修了後に海外サッカー専門誌の編集者に。その後、独立してフリーランスのライター、エディター、スペイン語の翻訳家等として活動し、現在に至る。