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ポジショナルプレーの背景にある脳内(=戦術的)インテンシティ

2017.10.13

 セリエAで最も先進的なテクニカルチームと評価が高いトリノのアシスタントコーチ、レナート・バルディとその同僚ダビデ・ランベルティに、セリエAとヨーロッパの主要チームの分析をしてもらう中で、繰り返し出てきたキーワードが「インテンシティ」だった。日本でもだいぶポピュラーになったこのワードは、もともと「強度」「凝縮度」「激しさ」などを意味するが、サッカー用語として使われる場合には「プレー強度」と訳されることが多い。ざっくりと定義すれば「一定の時間とスペース内におけるプレーの速度、強度、頻度」ということになるだろうか。

ここ数年の戦術進化を象徴する概念

 2008年に「グアルディオラのバルセロナ」が起こした革命以降、高いテクニックとポジショナルな戦術をベースに、ボール支配によって試合の主導権を握って戦うポゼッション志向のスタイルが大きな脚光を浴び一つのトレンドとなってきたことは周知の通り。

 バルディ自身、グアルディオラの戦術に衝撃を受けてその研究に勤しんできた「ペップ・マニア」の1人である。しかしこの2、3年は、そうしたポゼッション志向のテクニカルなスタイルを持ったチームが、テクニックとクオリティで相手を上回り、戦術的にも洗練されているにもかかわらず、高いインテンシティを保ってプレッシングを続け、ボール奪取から鋭くカウンターに転じて一気にゴールを目指すチームの前に苦戦を強いられるケースが目立つようになってきている。

 バルディはこう語る。

 「ここ数年におけるサッカーの変化、進化を象徴するのはインテンシティの高さだと思います。10年前は一つひとつのプレーのタイミング(所要時間)が今より1拍ずつ多かった。それだけプレーのインテンシティが低かったわけです。しかし今はすべてのプレーのタイミングが昔よりも1拍ずつ少なくなり、その分プレーに与えられた時間とスペースも削られてきています。典型的なのは、ゲーゲンプレッシングやカウンターアタックといった、攻守の切り替えに関わるアクション。これをより素早く、より高い強度で行えるチームが結果を残すようになってきています。

 トップレベルのチームが重要なタイトルを勝ち取る上でも、もはや偉大なタレントをそろえ、戦術的にバランスを取るだけでは十分とは言えません。タレントで劣っていても、常に高いインテンシティを保って相手のプレーから時間とスペースを削り取れるチームは、トップレベルの相手ですら困難に陥れるようになってきています。シメオネのアトレティコ・マドリー、クロップのドルトムントとリバプール、ロジャー・シュミット時代のレバークーゼン、そして昨シーズンのRBライプツィヒといったチームがその典型例ですね」

 ポゼッションサッカーの基本的な発想は、ボール保持時間の長さによってゲームを支配するところにある。そのためには、プレーの流れの中でボール保持、つまりポゼッションを確立しなければならない。ボールの周囲に作り出した局地的な数的優位を利用してパスを繋ぎ、相手を後手に回らせて自陣に押し込んでいくわけだ。そこでモノを言うのはテクニックでありポジショニングだ。グアルディオラが、数的優位、位置的優位、質的優位という「3つの優位性」を武器にしていることはバルディも指摘している。

 それに対して、今回彼が名前を挙げたチームは、プレッシングという能動的な守備戦術によって相手からパスを繋ぐための時間とスペースを削り取り、ポゼッションの確立そのものを許さないことを守備の狙いとしている。ポゼッションが確立できなければポジショナルプレーは成立しない。それを妨げることでボールを奪い、そこから先手を取って一気に敵陣にボールを運びフィニッシュまで持ち込んでしまおうというのが、インテンシティを重視したトランジション志向の監督たちの発想である。

 その武器となるのが、プレッシングの強度(寄せの速さ、当たりの強さ)、カウンターの強度(ボールをプレス網の外に持ち出す迅速さ、スペースをアタックするスピード)といったインテンシティの高さだ。そのレベルがここ1、2年、ポゼッションサッカーの基盤となっている「3つの優位性」を押し潰すところまで高まってきつつあるというのが、バルディの現状認識というわけだ。

「認識~解釈~判断~遂行」という脳内プロセス

 興味深かったのは、彼が単にプレーのフィジカルな(物理的な)強度や頻度だけでなく、ピッチ上で目の前の状況を読み取り、解釈し、判断し、遂行するという認知と反応のスピードまでを含めてインテンシティを語っていたこと。彼はこれを「戦術的インテンシティ」と呼んでいた。

 例えばボールロスト直後のゲーゲンプレッシングにおいては、ボールをめぐる自分と周囲の敵味方の状況を瞬時に認識し、ボールに襲いかかかるのかそれとも周囲の受け手をマークしてパスコースを塞ぐのかを判断し、選んだアクションを正しいタイミングで遂行しなければならない。たとえそのプレーヤーの「フィジカルな」反応速度(刺激に対する反応の速さ/物理的なスピードとパワー)がどれだけ高かったとしても、何をすべきかという判断が下せなければ動き出すことすらできない。その意味では純粋にフィジカルなレベルでのインテンシティ(アクションの速度、強度、頻度)と同じかそれ以上に、目の前の状況の認識~解釈~判断~遂行というプロセスをめぐる脳内(=戦術的)インテンシティの高さが重要になってくる。

 彼らトップレベルのプロの現場では、ではどうすればそれを高めることができるのか、という問いがそれに続くことになる。

 バルディは言う。

 「ピッチ上においてボールをめぐる状況は常にダイナミックに変化しています。戦術的インテンシティを高めるというのは、それに対する認識~解釈~判断~遂行というプロセスのスピードを高めるということです。7、8年前まで戦術トレーニングの主流だった11対0の反復トレーニングは、それには役に立ちません。特定の状況に対して特定の反応をするというメカニカルなオートマティズムを作り出そうとするもので、そこには解釈と判断のプロセスが欠落しているからです。

 それに代わって近年主流となってきているのは、プレー原則に基づくシチュエーショントレーニングです。試合と同じ敵味方がいる状態で、ボールロスト直後のプレッシングとか、数的不利での守備といった特定のシチュエーションを再現するミニゲームを行うわけですが、1回1回プレーのディテールは違ってくるので、それを正しく解釈して判断し続けなければならない。それを繰り返すことを通して、認識~解釈~判断~遂行というアクションの精度とスピードを高めていくことがトレーニングの狙いです。11対0というのは、戦術ボードの内容をピッチ上で再現しているようなもので、認識と遂行が直結していて解釈と判断というプロセスが脱落しているので、試合で直面する現実に対応するという点ではベストのアプローチとは言えません」

 もう一度ゲーゲンプレッシングを例に取ろう。たとえすべての選手がプレー原則に従って正しく動いたとしても、そのタイミングがゼロコンマ何秒か遅れればプレスは機能しない。重要なのはそのタイミングであり、状況を解釈し判断するスピードだ。したがって、トレーニングの狙いも、正しい動きをするだけではなくむしろそれを正しいタイミングで行うこと、異なる状況を適切に解釈して素早くそして的確に反応することにフォーカスするようになってきている。「戦術ボードをピッチ上で再現する」反復トレーニングではなく、試合の中で起こる場面をピッチ上でシミュレートするシチュエーショントレーニングが主流になってきているのはそのため、というわけだ。

 シチュエーショントレーニングは、バルディのボスであるミハイロビッチやパウロ・ソウザ(前フィオレンティーナ)、モンテッラ(ミラン)なども採用しているポルトガル発祥の戦術的ピリオダイゼーション理論の柱でもある。テクニックからインテンシティへ、システムからシチュエーションへ、オートマティズムからプレー原則へ、などなど「戦術のパラダイムシフト」が欧州サッカー最先端の現場では着実に進みつつあるようだ。

Photo: Getty Images

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戦術的インテンシティ脳内インテンシティ

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。