SPECIAL

ロドリ加入とラフィーニャ覚醒だけでは説明できない。3年目のフリック・バルサが辿り着いた左右非対称の「2グループ戦術」

2026.09.30

今季のバルセロナは、なぜこれほどまでに強いのか。ロドリの加入、ラフィーニャの9番起用、ラミン・ヤマルの大外固定、前線の守備強度、若手DFの成長、そしてコンディショニング。個別に見れば、それぞれが好調の理由として説明できる。しかし、それだけでは現在のハイパフォーマンスの全体像は捉えきれない。重要なのは、これらの要素が互いに作用し、良い影響を次の要素へと連鎖させる「構造」が生まれていることだ。左右非対称の「2グループ戦術」、プレッシングの役割を固定したハイプレス、そしてそれを支える選手の互換性とフィジカルトレーニング。ハンジ・フリック体制3年目のバルセロナを、個々の戦術や選手の足し算ではなく、チーム全体の相互作用から読み解く。

 「今季最も説得力のあるフットボールを見せているチームはどこですか?」

 そう聞かれて即答できるチームがあることは多いわけではないが、今季に限って言えばそれはFCバルセロナであると多くの人が答えるのではないだろうか。ハンジ・フリック監督がバルセロナの監督に就任して3シーズン目、リーガでは7試合を終えて全勝、得点は31点(1試合あたりの得点はなんと4.42)と、結果・内容どちらを見ても圧倒的なパフォーマンスを披露している。

 就任してからの2シーズンもラ・リーガを連覇するなど、十分納得できるだけの結果を出していたと言えるが、それでもCLを獲得できなかったことに加えて、度を超えたハイラインによる守備やトランジション局面における不安定さが拭えず、批判的な声もまた少なくなかった。しかし今季は、これまでの試合を見る限りはそのような不安定さがかなり抑えられ、高いレベルで安定感を持ってゲームをコントロールすることができているように見える。

 では、なぜ今季はこれだけ強いチームたり得ているのか。

 その回答として想定されるのは、「ロドリの加入」、そして「9番に置いたラフィーニャの覚醒」といったところだろう。これは決して間違いではないだろうが、今季の好調の要因を単にこの2つに限定してしまうのは、少し要素還元的な視点というか、やや因果関係を単純化してしまった帰結だと言えるかもしれない。実際、ロドリはリーグ戦としては3試合目にあたる第1節延期分のアスレティック・クルブとの試合の後半にバルセロナの選手としてデビューしたわけだが、その前の2試合でもエルチェに5-0、ラージョ・バジェカーノに5-2と圧勝しているし、アスレティックとの試合でもロドリが出場するまでにすでに2-0のリードを奪っている。

 この2人の活躍は当然重要なファクターではある。しかし、それがなぜ今季のここまでの成功において真に重要なファクターなのかを理解するには、よりホリスティック(全体的)な視点が必要だ。すなわち、これら以外にも他にも色々な要素があり、それらのつながりや相互作用によって、互いにいい影響を与え合っているような「構造」が生まれている、というような見方で分析を行う必要がある。

 今回の分析では、まず事実として出力されている攻撃と守備の物理的な構造を簡潔に明らかにした上で、それがなぜ有効なのかや、その背景にある様々な要因も徐々に考察し、最終的にはそれらがどのようなつながりや構造を持って良い作用をグループにもたらしているのかを考えていこう。

異質な関係性と距離感。左右非対称な「2グループ戦術」

 ここ数シーズン、欧州トップレベルのフットボール界全体で課題となっていたのが、以下のようなテーマだ。

・ローブロックをいかにして崩すか
・流動性は必要だが、再現性やトランジションの安定性とのトレードオフをどう解決するか
・特にカウンターのスピードや精度がますます向上してきている
・再現性を安定して担保するには複雑なルールや構造が必要だが、トレーニング時間が確保できない

 これらは別々の問題というよりは、つながりを持った1つの問題として浮かび上がってくる。

 フリックは3シーズン目にして、この問題を概ね解決する素晴らしい戦術的構造を作り上げた。それが、左右それぞれで異なる関係性の質を軸にグループや戦術構造を構築するということだった。

 まず、フリックのバルサは[4-2-3-1]がホームフォーメーションである。というか、この2シーズンほど[4-2-3-1]はかなりのクラブでホームフォーメーションとして採用されるようになってきていて、これは[4-3-3]に比べて「バランスが悪く、役割が曖昧」という欠点はあるが、一方で「復元は早い」配置であることから、流動性を持ったシステムとして運用しやすいためだと思われる。

 あえて初期の配置に歪みがある[4-2-3-1]でスタートすることで、流動性と柔軟性を生み出しやすく、かつ守備への復元性も確保しやすい構造になっているということであり、逆に言えば[4-3-3]はあらゆる配置において意識される構造ではありつつも、流動性が重視される今後はホームフォーメーションとしては選択されることが少なくなってしまうかもしれない。

 話を戻そう。フリックのシステムにおいて、左SBはフリーマンとしてDFラインから離脱した役割を担うことが多い。右CBのパウ・クバルシが中央に立ち、左CBのジェラール・マルティンが左サイドの入口に立つ。左サイドの構造としては、ジェラール・マルティンが入口に立ち、ペドリが入口側を基本としつつも高い位置などにも流れるフリーマンの役割を担う。左ウイングのアンソニー・ゴードンやカリム・アデイェミは幅を取ることを基本としつつ、ハーフスペースへと侵入して裏抜けを行う役割も担う。左のSBを担うシャビ・エスパルトやジョアン・カンセロはペドリや左ウイングの配置、動きに合わせて動く「従属的なフリーマン」としてバランスを取る役割であり、手前、幅、時にはライン間と様々な役割・タスクをこなすことになり、このような役割を果たせる選手がスカッドに2人いるというのは編成上の強みだろう。

 左サイドの構造としては、これに中央レーンのラフィーニャ、ロドリまで含めた6人構造で、要するに人数が多くその距離感も近いというのが、こちらのサイドの関係性の質におけるポイントになっている。これによって、流動的にタスクやポジションの変化が発生しても構造に穴ができづらく、かつ復元コストも低い。要するに、フリックは流動性が発生するエリアを絞り込むことによって、流動性を担保しつつ復元性や再現性、構造としての堅牢性を確保したということだ。

左右で異なる関係性を持つグループ構造

 このような構造を根幹としたシステムの問題としてよく発生しがちなのが、以下のような問題だ。

・右サイドが過疎化し、有効に使えない
・攻撃の起点が片側サイドに限定されるため、守備側にとっては守りやすい
・攻撃の組織が左右に分断され、中央が使えず侵入するエリアのスイッチにいちいち一拍余計にかかり、守備側に対応される

 よくある左右非対称な攻撃構造の通り、右サイドのグループは広いスペースを守れるし、活かせるタイプの選手が起用されている。ラミン・ヤマルへのサイドチェンジを起点として、エリック・ガルシアとフェルミン・ロペスの3人で作られるシンプルな構造に、時おり中央からラフィーニャが加わるものだ。コンディションの問題もあるとは思うが、今季特にオルモよりもフェルミンが優先的に起用されているのは、この左右で異なる構造をフリックが自覚的に採用していることの1つの証左と言えるのではないだろうか。実際、フェルミンとペドリのポジショニングを見ると、これまでのシーズン以上にペドリが左サイド、フェルミンが右サイドというエリアの重心が明確になっているのが見て取れる。

あえて大外に固定。「ヤマルの最大化」を見切ったフリックの選択

 ただし、異質な関係性と距離感を基準とした2グループを構築する左右非対称なシステムというだけなら、これまでにもたびたび見られた構造である。フリックが今季作り出したシステムにおいて、重要なポイントが2点ある。

 1つは「中央もしっかり1つのユニットとして機能していることで、左右が分断されていないこと」であり、これによってフリックのシステムはユニークなものになっていると言える。中央でユニットが分断されないことにより、先に挙げた問題のうち「攻撃の起点が片側サイドに限定されるため、守備側にとっては守りやすい」、「攻撃の組織が左右に分断され、中央が使えず侵入するエリアのスイッチにいちいち一拍余計にかかり、守備側に対応される」の2つが一気に解決するという効果はわかりやすいが、重要なのはなぜそれが成立しているかだろう。

 もともと中盤の関係性が密なバルセロナだからこそという部分もあるだろうが、これは繰り返し私が必要性を提唱してきた「選手の互換性」と、その背景にある「複数エリアでプレーできる選手」を有しているからというのが最も大きいだろう。そういう意味では、当然ながらロドリの加入、シャビ・エスパルトの成長はファクターとして非常にポジティブに作用したと言える。

 そしてもう1つの重要なポイントが、「ヤマルのパフォーマンスを最大化することにいったん見切りをつけたこと」で、これが戦術的には極めて重要な決断だったように思う。

……

残り:7,340文字/全文:11,135文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd

関連記事

RANKING

関連記事