松本山雅のアカデミーからトップチームに昇格して3年目の田中想来が今季、ゴールを量産するなどブレイク中だ。J3の23節終了時点で9ゴールはリーグ3位、月間ベストヤングプレーヤー賞も3カ月連続受賞。松本山雅がJ1を戦っていた時代をアカデミー生として体感してきた俊英が今、思うことは何か。
琉球戦の痛恨のプレーに垣間見える向上心の強さ
ミックスゾーンで、結果の責任を一身にかぶった。
「俺のせいで負けた」
「仕組みがあっても自分のところでミスしていたらサッカーにならないし、今日言えることは、もっと質を上げなければいけないということ。それ以上でも以下でもない」
明治安田J3リーグ第22節・FC琉球戦。実際には負けてはおらず1-1のドロー。ただ、9位という置かれた立場を考えれば、負けたに等しい結果だったのは確かだ。
この試合、田中想来は両チーム最多となる4本のシュートを放っていた。しかし、いずれもネットを揺らすには至らず。とりわけラストプレーのシュートで期待感が嘆息に変わったのは、後味も良くなかった。
94分59秒。
GK大内一生のゴールキックを、180cmの新加入・FW林誠道が競り勝って裏へ落とす。そこに走り込んだのは田中だった。
千載一遇のチャンス。加えて、ゴール前にはMF前田陸王も走り込んでいた。その中で田中は迷わずシュートを選択。しかし振り抜いた左足はミートせず、大きく枠を外れて試合終了のホイッスルが鳴った。
頭を抱えてピッチにうずくまる。もちろん、90分+アディショナルタイムを走り切った最後のプレーだ。その疲労度は察しても余りある。それでも「チームを勝たせる選手になる」という以上は、どのような選択肢であれゴールに至る必要があった。
そもそも自身としても、「走り切る」身体を備える必要性を強く感じていた。8月2日。中断期間に伴うオフが明けた直後の取材に対し、田中は走力強化の課題を口にした。
「しっかり走るところ。スプリントだったり連続して動くことだったりを上げていかなければいけないし、それを90分できる身体にしたい。あとはもう最後の質を上げることに尽きると思う」
その課題がすべて、リーグ再開戦のラストプレーに凝縮されてしまっていた。
「試合の後はめちゃくちゃキツい。次の週に疲労が残るのもあまり良くない」と田中。松本山雅ではトレーニングや試合の後に、疲労度を10段階で自己評価する。田中の試合後はいつも10。それを、「めちゃくちゃ走っていても8〜9にできるくらいにしたい」という。
ただし、この日は3週間の中断期間が明けた一試合目。蓄積した疲労が――というエクスキューズも成り立たないし、そもそも自らも「言い訳無用」のスタンスだ。
ビッグチャンスを逃した。
勝利をつかめなかった。
ゴールを決められなかった。
厳然たる事実がそこにあるだけだった。
最後尾からスタートし、現在得点数はリーグ3位に
試合ごとに蓄積する疲労――。
そこに目を向けられるようになったのは継続的に出場しているからこそでもある。
「サッカー選手になりました。やっと」
苦笑交じりにそう語る言葉に、重みが帯びる。
巻き戻せば今季当初まで、公式戦のピッチからはほど遠いチーム内の立ち位置だった。蜘蛛の糸のような細い可能性を手繰り寄せて今がある。
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Profile
大枝 令
1978年、東京都出身。早大卒。2005年から長野県の新聞社で勤務し、09年の全国地域リーグ決勝大会で松本山雅FCと出会う。15年に独立し、以降は長野県内のスポーツ全般をフィールドとしてきた。クラブ公式有料サイト「ヤマガプレミアム」編集長。
