モンテディオ山形、「シャレン!」3年連続受賞の背景(前編)。ボイトレでシニア顧客を開拓する「O-60モンテディオやまびこ」とは?
創設時から「地域密着」を掲げて年間2万5000回を超えるホームタウン活動を行っているJリーグでは、各クラブが地域の人・企業・団体・自治体・学校等と連携して社会課題に取り組む活動を「シャレン!」と名づけ、表彰していく「シャレン!アウォーズ」を毎年開催している。そこでモンテディオ山形がクラブ選考賞として3年連続受賞を果たしたのはなぜか?担当者である運営部サブマネージャーの荒井薫さんと、広報・マーケティング部所属の茂木佳祐さんに直撃した。
前編は、山形が展開するシニア世代向けの健康・交流プロジェクト「O-60モンテディオやまびこ」について。自治体を納得させる「あくまでも“声”はきっかけであって、我われの一番の目的は“外に出るきっかけづくり”」という言葉の真意に迫る。
<プロフィール>

荒井薫
運営部サブマネージャー。試合運営や地域貢献活動などを担当。高校卒業後、天童市の旅館に勤務して3年経った2019年、現在の相田健太郎社長の就任会見の様子をテレビで観て、「この人の下で働いたら面白そうだな」との直感で入社した。

茂木佳祐
広報・マーケティング部所属。山形県外の大学在学中に「U-23マーケティング部」に1期生として参加。卒業した今春、Uターンで入社した。
3年連続受賞の秘密は「横展開」への評価にあった!
――モンテディオ山形は今年、Jリーグの社会連携活動を表彰する「シャレン!アウォーズ」で「クラブ選考賞」を受賞しました。これで「シャレン!アウォーズ」は3年連続の受賞となります。2023年が「高校生が本気で挑戦できる場として『高校生マーケティング探求』を実施」、24年が「10ヶ月300時間!40人の学生と築いた世代のはしご『U-23マーケティング部』の奇跡」、25年が「『 “声”のチカラを起点に高齢者が輝き活躍する地域へ』O-60 モンテディオやまびこ」。3年ともクラブ選考賞での受賞となりました。この受賞についてはどんな感想ですか?
荒井「このクラブ選考賞という賞自体が、Jリーグの全クラブが『自分のクラブでこう真似したい』だとか、他のクラブでも横展開できるところで評価いただいている賞です。1年目は『高校生マーケティング』という、まだ小さい立ち上げの部分を評価していただきました。そこから派生して2年目が『U-23マーケティング部』。ここに同席している茂木がその1期生です。その時は学生目線から、新たなマーケティングの視野を我われクラブとしても広げていきたいというのと、地方ならではの若年層の県外流出であったり、県外に出て行ってから地元に戻ってきて仕事をすることへのネガティブな印象というものを払しょくするために、クラブとして、『山形県でも高齢になっても働ける場があるんだよ』ということであったり、関東圏や都市圏に負けないようなものが山形にもあるというのを学生と一緒に考えて1つ作品にしていく、といったところがありました。人口流出というのは、年を重ねるごとにどの地域でも、山形県以外の都道府県でもあり得ることだと思うので、それも横展開できるというところで評価をいただいたと思っています。
今年のクラブ選考賞の内容としては『O-60モンテディオやまびこ』というところで、若年層とはまた真逆のところだったのかなと思っています。そこも完全に、山形県の高齢化というネガティブな印象をポジティブに変えていくというきっかけづくりを、『O-60モンテディオやまびこ』という内容で実施しました。ボイストレーニングを起点としながら高齢者の方々を集めて、新たなコミュニティをつくって活躍できる場をつくっていくというところが、『U-23マーケティング部』と一緒になってしまいますが、今の山形もそうですし、それこそ東北であったり、中国・四国など地方都市の多いところに関しては今後もそういった課題は絶対挙がってくるかなと思うので、我われもこの企画自体を横展開していきたいなあというところで、そういったところを評価していただけたのはうれしく思います」
――毎回クラブ選考賞に選ばれるというのは、何か響くものがあるんでしょうね。
荒井「僕も今年、初めて『シャレン!アウォーズ』当日に参加させていただいて、どのクラブさんからもそうですし、Jリーグの役員の方とお話をさせていただいても、『山形さんの取り組みはいつも注目させていただいています』というお話はうかがいました。決算の方法であったり、年々業績が上がっているというところは注目されやすいのですが、地元の山形県の中で、地方創生をするためのきっかけづくりとして、『O-60モンテディオやまびこ』であったり、『U-23マーケティング部』であったり、選手を使ったプロモーションであったり、そういったところは他のチームにはないところを率先して続けているというところが、他のクラブさんからも評価をいただいているのかなと思います」
――24年は前年の「U-23マーケティング部」がエントリーされましたが、同じ年に実施された「エデュケーショナルデー」という企画も大きなインパクトのある取り組みでした。週中の平日のゲームをあえてデーゲームにして県内の小中高生を無料招待し、試合前にはその子どもたちを対象にした知育・体育イベントも実施しました。約3000人を無料招待したそうですが、こちらはエントリー外だったんですね?
荒井「どちらをエントリーするか、すごく迷いました。『エデュケーショナルデー』か『U-23マーケティング部』か。でも、『エデュケーショナルデー』は毎年実施できるか不透明でした。Jリーグのスケジュールの都合上、平日の日程がそこに当てはまってこないとなかなか実施できなかったり、J2だと3月上旬の平日開催を狙っても、学校がまだ休みだったりします。23年はたまたま5月17日が平日で、うまく日程が当てはまりました。一方で『U-23マーケティング部』は、クラブとして継続可能な取り組みだと考えました。前年に『高校生マーケティング』が受賞していた流れから、その発展形というストーリー性もあり、いろいろと考えて『U-23マーケティング部』をエントリーしました。でも、『エデュケーショナルデー』も反響が大きかったです。最近ではヴァンラーレ八戸さんも実施していましたし、バスケットボールのチームでもよく見かけるようになっていて、ヒアリングを受けたりもしました。そういう意味では、それもやってよかったなと思っています」
――茂木さんは、「U-23マーケティング部」の1期生ですが、自身が学生として参加した「U-23マーケティング部」が受賞したと聞いてどんな心境でしたか?
茂木「率直に言えば、自分たちが1期生で右も左もわからない状況でやっていて、クラブスタッフも初めてのことでした。いろんなものが初めての状態でつくり上げたものが、こうやってJリーグから表彰を受けたことが、当時はすごくうれしかったです」
「体を動かす」ではなく「声を出す」理由は新規開拓
――では、まずは今年受賞した「O-60モンテディオやまびこ」からもう少し詳しくお聞きします。どんなきっかけで始まったのでしょうか?
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Profile
佐藤 円
1968年、山形県鶴岡市生まれ。山形のタウン情報誌編集部に在籍中の95年、旧JFLのNEC山形を初取材。その後、チームはモンテディオ山形に改称し、法人設立、J2参入、2度のJ1昇格J2降格と歴史を重ねていくが、その様子を一歩引いたり、踏み込んだりしながら取材を続けている。公式戦のスタジアムより練習場のほうが好きかも。現在はエルゴラッソ山形担当。タグマ「Dio-maga(ディオマガ)」、「月刊山形ZERO☆23」等でも執筆中。
