SPECIAL

監督6人誕生の迷走劇で英3部降格…なのにお祭り騒ぎ!?(後編)クラブ年間最優秀サポーターの日本人がバーミンガムで深めた愛

2024.05.23

レスターの優勝でレギュラーシーズンを終え、2位イプスウィッチに続く昇格枠1つを3位リーズと4位サウサンプトンがプレーオフ決勝で争うチャンピオンシップ。そんな上位勢の陰で涙を呑んだのが、6人もの監督に率いられながらも残留に一歩及ばなかった22位バーミンガム・シティだ。サポーターは3部降格にさぞ打ちひしがれているであろう……と思いきや最終節後に即パーティーへ繰り出すほど希望に満ちあふれている理由を、現地で同クラブを応援してきたEFLから見るフットボール氏に前後編に分けて教えてもらおう。

←前編へ

新オーナーの投資対象は「バーミンガム」という都市そのもの

 過去の記事内においても新オーナーが実行してきた変革の数々については書いてきたが、その野心を示す最大の計画がこの4月に発表された。セント・アンドリュースからほど近くにある元サーキット場の48エーカーの空き地を市議会から購入し、5年以内を目途に6万人収容の新ホームスタジアムを建設する計画を打ち出したのだ。

 この計画は真に目を見張るものだ。第一にバーミンガムにおけるスポーツ文化の失敗の象徴として長年放置されてきた土地の買収に成功したことから始まり、第二にマンチェスター・シティのエティハド・キャンパスをロールモデルとしたスポーツクォーターの構想(総工費は20億~30億ポンドに上るとされる)があまりにも具体的であったこと、そして第三にクォーター内への地元企業の入居計画や3000人以上もの雇用が発生するという点を通してバーミンガムという市そのものへの貢献が前面に打ち出されたこと。表面的な理解のみでの批判を試みるライバルクラブのサポーターからの雑音とは裏腹に、発表を読み込めば読み込むほど、そしてディテールを突き詰めれば突き詰めるほど、ビジネスプランとして実に非の打ちどころのない発表だった。

 この翌日、今シーズンから始まったサポーター向けの大型定期コミュニケーションイベント “Blues Open House” の中でワグナーが初めて語ったところによれば、実はこの新スタジアム計画こそがアメリカ資本のヘッジファンドであるKnightheadがバーミンガム買収に関心を示した最大の理由だったという。

 勘違いされやすいのは、現在イングランドのフットボール界で一大勢力を占めるようになった他のアメリカ人オーナーと同様に、Knightheadがバーミンガム・シティ単体からその投資額を回収しようとしているとみなす向きだ。これは完全に間違っている。彼らが真の投資対象としているのは、イギリス第2の都市ながら昨夏に財政破綻が宣言され、そのポテンシャルを大きく下回る現状に終始しているバーミンガムという都市そのものなのだ。

 「バーミンガム」という名前を背負ったクラブが強くなり世界的なブランドになれば、引いては街自体のブランドが成長していく。6万人収容の世界的なスタジアムができればサッカーに限らない様々な巨大イベントの招致(実際にNFLの公式戦開催が1つの大きな目標に置かれている)が可能になり、その他に著名なエンターテインメント施設なども併設されれば、街自体に多大な経済効果がもたらされる。それがヘッジファンドKnightheadにとっての巨大なベンチマークとなる。

 そのための広大な再開発可能エリアが街の中心駅の至近に存在する大都市など、世界中を見渡してもそうは存在しない。加えて現在計画は不透明になってしまっているが、国が推し進めるロンドン-バーミンガム-マンチェスター間の高速鉄道計画 “HS2” の存在もある(昨年9月に政府がバーミンガム-マンチェスター間の工事中止を発表した際、ワグナーはリシ・スーナク首相あてに公開書簡を送っている)。これがワグナーにバーミンガム・シティへの投資を踏み切らせた理由だった。

 彼らがビジネスグループ、そしてコミュニケイターとして何にも増して優れているのは、どんな発表を行う時であっても必ず具体的な目標や目的、数字を提示し、プロセスの透明化を念頭に置いている点だ。それまですべてが密室の中で行われていた前オーナーなどとは比べるまでもなく、あるいは他のクラブの大多数のオーナーと比較してもなお、その透明性は群を抜いている。

「必ずや大きな学びを得て未来への糧にする」の約束を信じて

 “Open House” の中で語られた内容はこれに留まらなかった。現在行われているスタジアムや練習場の改修内容に始まり、常々言及されている構造的な収益増進に向けた取り組みの途中経過、共同オーナーの1人として参画している元NFLスーパースター、トム・ブレイディが選手のフィットネス寿命延伸を目指すプログラムにおいて重要な役割を担っていること、そしてあのルーニーの任命について。質疑応答で話が及ぶと、ワグナーは彼自身が主導した人事ではなかったのにもかかわらず自身に100%の責任があると話し、こう続けた。……

残り:2,340文字/全文:4,530文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

EFLから見るフットボール

1996年生まれ。高校時代にEFL(英2、3、4部)についての発信活動を開始し、社会学的な視点やUnderlying Dataを用いた独自の角度を意識しながら、「世界最高の下部リーグ」と信じるEFLの幅広い魅力を伝えるべく執筆を行う。小学5年生からのバーミンガムファンで、2023-24シーズンには1年間現地に移住しカップ戦も含めた全試合観戦を達成し、クラブが選ぶ同季の年間最優秀サポーター賞を受賞した。X:@Japanesethe72

関連記事

RANKING

関連記事