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経済効果は10年間で6.8兆円の試算も。世界的な台湾の半導体メーカー『TSMC』進出でロアッソはどう変わるか?

2024.03.26

世界的な台湾の半導体メーカー『TSMC』が熊本に進出したことを受けて、街は半導体バブル真っ只中にある。各メディアでも取り上げられる機会が増えているが、地元クラブのロアッソ熊本にはどのような影響があるのか、あるいは、今後どれほどの影響が見込めそうなのか。

現地の変貌ぶりや今後の展望について、ロアッソ熊本に密着するライター井芹貴志がクラブ担当者の声を交えながらレポートする。

不動産価格や家賃が大都市並みに高騰

 2月24日、熊本市の北東に隣接する菊池郡菊陽町で、世界的な台湾の半導体メーカー『TSMC(台湾積体電路製造)』がソニーグループの子会社『ソニーセミコンダクターソリューションズ』などと出資して設立した、『Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(JASM)』熊本第1工場の開所式が行われた。同工場は今年12月からの稼働を予定しているほか、2027年までに熊本第2工場を建設することも正式に発表され、全国からの注目が集まっている。

 同社の熊本進出に伴って、多数の関連企業の進出も見込まれる中、菊陽町だけでなく隣接する大津町など周辺自治体では不動産価格や賃貸物件の家賃が大都市圏並みに高騰、アルバイトの時給も上昇し、マンションやホテルの建設ラッシュが続く。10年間で6.8兆円にも及ぶという試算もあるとおり、その絶大な経済効果に焦点を当て、ネットニュースでも「熊本で半導体バブル」といった記事を目にすることが増えた。

 だが、熊本県全域のあらゆる分野にその恩恵が及ぶかは未知数で、水資源をはじめとした環境保全のほか、通勤時間帯の交通渋滞と人材確保、工場周辺で農業や畜産業を営む人たちへの影響も懸念されており、3月24日に投開票が行われた熊本県知事選挙でも、そうした問題について各候補者が掲げる公約は主要な争点のひとつとなっていた。

先方から問い合わせがありスポンサー契約

 世界的な企業の進出は、地方のJクラブにとってまたとないチャンスと言えそうだが、実際の効果はどうなのか。ロアッソ熊本を運営する株式会社アスリートクラブ熊本で営業部長を務める片山良二氏によれば、「現段階では、TSMC進出の影響と言い切れる明確な動きはない」のが実情だ。

 とは言え、まったくの無関係かと言えばそういうわけでもない。

 たとえば、2022年9月からユニフォームパートナー(右鎖骨部分)となっている株式会社アウトソーシングテクノロジーは、IT・機械・電子・電気・ソフトウェアの技術者派遣や開発請負、専門職の職業紹介を主たる事業としている企業。本社は東京都千代田区にあり、クラブから営業をかけたのではなく、「先方から電話でお問い合わせいただいた」(片山氏)ことで契約に至ったという。TSMCの熊本進出が発表されたのが2021年10月ということを考えると、ひとつのきっかけになったことは間違いないだろう。

Photo: Takashi Iseri

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ロアッソ熊本

Profile

井芹 貴志

1971年、熊本県生まれ。大学卒業後、地元タウン誌の編集に携わったのち、2005年よりフリーとなり、同年発足したロアッソ熊本(当時はロッソ熊本)の取材を開始。以降、継続的にチームを取材し、専門誌・紙およびwebメディアに寄稿。2017年、母校でもある熊本県立大津高校サッカー部の歴史や総監督を務める平岡和徳氏の指導哲学をまとめた『凡事徹底〜九州の小さな町の公立高校からJリーガーが生まれ続ける理由』(内外出版社)を出版。

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