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籾木結花が「マジシャン」たる所以。レスターで初ゴール、違いを生み出す“10番”の思考【現地取材】

2024.03.03

2023シーズンのスウェーデン女子1部リーグで24試合15ゴール7アシスト、「年間最優秀MF」の称号を手にし、今年15日、「夢」のイングランド参戦を果たした籾木結花。今季のWSL9人目の日本人選手となった27歳は、レスターの即戦力として早くも期待通りの活躍を披露している。公式戦7試合目で初得点をマークしたホームゲームを、現地で山中忍氏が取材した。

「流れを変える」「喜びが倍」のファーストゴール

 「マジシャン」――レスター・シティ・ウィメンのウィリー・カーク監督は、籾木結花をそう呼ぶ。去る2月18日、ホームで行われたウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)第14節後の発言だった。1ゴール1アシストで勝利(5-2)に貢献した新FWについて尋ねたのは、地元ラジオ局のレポーター。「日本向け」ではない、正直な期待と評価の表れだ。

 同日のキングパワー・スタジアムで披露したレスターでの初ゴールは、その評価に違わぬものだった。この日のポジションは3センターの左。ボックス内に侵入した籾木は、角度のない位置からファーサイドにループシュートを放り込んだ。筆者がいた記者席の前列では、少年ファンが「あれ、狙ったと思う?」と同伴の母親に質問。当の得点者は、試合後に「狙い通りです」と微笑みながら答えてくれた。

 「相手がけっこう引いてクロスが多くなる展開が多かった中、たぶんキーパーもディフェンダーもクロスを予想しているだろうなっていうところで、裏をかけたらと思って」

 この前半33分の1点は、チームにとって重要な同点ゴールでもあった。相手は、12チーム中最下位のブリストル・シティ・ウィメン。7位から上位浮上を目指すレスターとしては、確実に勝ち点3を奪わなければならない一戦だった。ところが試合は、後方でのミスパスに乗じたブリストルがカウンターで先制。当初から5バックの敵が、守る意識をさらに強める展開となった。だが、“スペシャル”なシュートを放った籾木が嫌なムードを一蹴した。本人も言っている。

 「もちろん、自分のファーストゴールとしてもうれしかったですけど、予想していなかったビハインドからのスタートになって、その流れを変えるっていう意味での大きなゴールでもあったというところで、喜びが倍になったかなと思います」

フィジカルが強い環境に自分が呼ばれる意味

 ただし、籾木が「マジシャン」と呼ばれる理由は、単に難しいシュートを決められるからではない。必要とされる時に、必要とされる「違い」を生み出す能力を持っていればこそ、「テクニシャン」の域を超える異名がある。だからこそ、ボールを持てばスタンドもざわめく。

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Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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