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エメリの戦術調整役ジョン・マッギン。破格の4.5億円で加入して6年目、アストンビラ主将の成長物語

2023.12.26

プレミアリーグ第15節では前回王者マンチェスター・シティを1-0という結果以上に内容で圧倒して3位へ浮上。翌節には首位アーセナルも下して、昨季から続くホーム連勝記録をクラブ史上最多となる15に伸ばしていたアストンビラ。快進撃に導く智将ウナイ・エメリの戦術調整役として古豪を支えているジョン・マッギンの成長物語を、アストンビラサポーターの安洋一郎氏に伝えてもらおう。

 2023-24シーズンのプレミアリーグを最もかき乱している台風の目は、アストンビラと言ってよいだろう。

 昨季終盤の時点でウナイ・エメリが率いるチームはベストな11人をそろえることができていたが、夏の移籍市場でユーリ・ティーレマンスやパウ・トーレス、ムサ・ディアビら即戦力の補強に成功するとさらにパワーアップ。クリスマス(12月25日)時点で首位と勝ち点1差の3位につけ、2023年に限定をすると、マンチェスター・シティに次ぐ勝ち点82を獲得している。

 特に話題となったのが、第15節マンチェスター・シティ戦と第16節アーセナル戦の2連戦だ。昨季のトップ2相手と中2日で対戦をするというハードなスケジュールだったが、これを2連勝という最高の結果で乗り越えてみせた。

 これで彼らの強さを“本物”と確信した人も多いのではないだろうか。この躍進に欠かせないのが、プレミアリーグでも屈指のMF陣である。世界を驚かせた2連戦でも先発に抜擢されたティーレマンス、ジョン・マッギン、ドウグラス・ルイス、ブバカル・カマラの活躍は凄まじかった。

 驚くべきことに、アストンビラはこの4人を獲得するにあたって「1750万ポンド(約31.5億円)」の移籍金しか支払っていない。

 最近ではデクラン・ライス(アーセナル)やモイセス・カイセド(チェルシー)ら中盤の選手に対しても1億ポンド(約180億円)以上の破格の移籍金が支払われる中、中盤の実力者たちをこの額で獲得できたのは優秀なフロントの努力の賜物だろう。

 この「1750万ポンド」の内訳を見ると、ティーレマンスとカマラがフリートランスファーでドウグラス・ルイスが1500万ポンド(約27億円)、そしてこの記事の主役であるマッギンはたったの250万ポンド(約4.5億円)の移籍金でアストンビラに加入している。

加入直後から“スーパー”な存在が残す伝説と歴史

 「We’ve got McGinn. Super John McGinn(俺たちにはマッギンがいる。スーパーなジョン・マッギンが)」

 アストンビラのサポーターたちが試合中に最も歌うチャントは、この歌い出しから始まるマッギンのものだ。

 2022-23シーズンからキャプテンに就任したスコットランド代表MFは、チームメイトやエメリ監督をはじめとするスタッフ陣からも絶大な信頼と人気を得ており、サポーターとも強い結びつきがある。

 マッギンが母国のハイバーニアンからアストンビラに加入したのは、現オーナーがクラブを買収してから数週間後の2018年8月8日。チャンピオンシップの開幕戦直後で、新体制となってから2人目の補強だった。

 彼はサポーターが歌うように、加入直後からすぐに“スーパー”な存在となった。

 アストンビラの選手になってから3日後に行われた2018-19チャンピオンシップ第2節、ウィガン戦で先発出場を飾ると、いきなりセットプレーのキッカーを任されて、デビューから13分で移籍後初アシストを記録。当時から左足のキック精度は抜群で、移籍後初ゴールとなった第9節シェフィールド・ウェンズデイ戦でのロングボレーシュートは“伝説”となっている。

 そして同シーズンに5位から進出した昇格プレーオフ決勝では、勝利を決定づける決勝点を叩き込み、彼は生え抜きのジャック・グリーリッシュとともにヒーローとなった。

 迎えたプレミアリーグ復帰初年度の2019-20シーズンは開幕戦でチーム初ゴールを記録。先述した今季の第16節アーセナル戦では、クラブ史上初のホーム15連勝達成の決勝ゴールを決めるなど、そこまで得点を量産するタイプの選手ではないながら、チームの歴史に名を残すようなメモリアルな場面でゴールを決める勝負強さを発揮している。

ヤヤ・トゥーレも絶賛。「闘う万能型MF」の秘密はお尻にあり!

 彼のプレースタイルを一言で表すのであれば「闘う万能型MF」というのが一番しっくりくるのではないだろうか。……

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Profile

安 洋一郎

1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。中学生の頃よりアストン・ヴィラを応援しており、クラブ公式サポーターズクラブ『AVFC Japan』を複数名で運営。プレミアリーグからEFLまでイングランドのフットボールを幅広く追っている。

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