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なぜ隣接していないイタリア・トルコの共催?EURO2032開催地決定の裏側

2023.10.14

さる10月10日、UEFAはニヨン(スイス)の本部で行われた理事会で、EURO2028をイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド、アイルランドの5カ国、EURO2032はイタリアとトルコの2カ国による共同開催とすることを決定した。2028年は、5カ国共催とはいえ実質的には英国4協会+アイルランド、地理的にも隣接する2島での開催であり、2000年のオランダ・ベルギー、2008年のスイス・オーストリアによる共催と似たケースだと言うことができる。それに対して2032年の方は、地理的には間にバルカン半島を挟んで1300kmもの隔たりがある(ローマ・イスタンブール間は飛行機で2時間半)2カ国での共催という、過去には例がないケース。果たしてこの背景にはどのような事情があったのだろうか。

24カ国のEURO開催はハードルが高い

 大前提としてあるのは、2016年に参加国がそれまでの16から24になり、総試合数も31から51に増えて以来、EURO開催の「難易度」は大きく高まっているということ。16チーム制であればグループステージは4チーム×4グループで、スタジアムは8つあれば十分に事足りる。しかし24チーム制になるとGSが4×6グループに増え、決勝トーナメントのラウンド数も1つ増えるため10会場は必要。会期そのものも3週間から4週間に延びるため、インフラから治安維持まで開催コストは大きく膨れ上がる。

 実際、UEFAが公にしている開催要項には、10会場のうち最低1つは収容6万人(できれば7万人)以上、1つ(できれば2つ)が5万人以上、4つは4万人以上、3つは3万人以上のキャパシティが必要と定められている。これだけのスタジアムを用意して、1カ月にわたるビッグイベントを単独で開催できる「国力」を備えた国は、ヨーロッパでもイングランド、ドイツ、フランス、スペイン、そしてロシアくらいのもの。参加48カ国という途方もない規模に膨れ上がったW杯ほどではないにせよ、EUROも単独開催は難しくなってきているのが現実だ。

 24チーム制になって以来のEUROは、2016がフランス、60周年記念で欧州全土分散開催となった2020(コロナウイルス禍により1年遅れで開催)を挟んで2024がドイツと、大国による単独開催が続いてきた。残る大国のうちスペインはポルトガルとの共催で2030年W杯開催を目指していたこともあり、EURO2028を開催し得る国は、そもそも数えるほどしか残っていなかった。実際、大会の開催要項が公になった2021年の時点で開催に意欲を示していたのは、英国(4協会+アイルランド)、イタリア、トルコ、そして2018年W杯を終えたばかりのロシアくらいのものだった。

EURO2020の決勝の舞台となったイギリス、ロンドンにあるウェンブリー・スタジアム

 その中で最も有力だったのは、言うまでもなく英国である。中核をなすイングランドは、クラブサッカー世界最高峰のプレミアリーグを擁しながら、今から四半世紀以上前に遡るEURO96を最後に、代表ビッグトーナメント開催の機会を得られずにきていた。大きかったのは、満を持して立候補した2018年W杯開催で、下馬評では圧倒的な有利と見られながら、ロビー活動に長けたロシアにかっさらわれる形で開催権を逃すという「事件」に見舞われたこと。

 その後、2010年代後半になって、英国4協会+アイルランドの「パン・ブリティッシュ」体制を整えて2030年W杯開催を目指す方針を打ち出したが、最終的にはその枠をスペイン・ポルトガルに譲る形でEURO2028開催へと方向転換していた。……

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EURO2032

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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