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女子サッカー熱に沸くオランダ。ネーションズリーグに感じた大きな可能性

2023.10.04

2023年からスタートした女子ネーションズリーグはパリ五輪予選も兼ねていることで、男子以上の真剣勝負の場になっている。Aリーググループ1の天王山となったオランダ対イングランドを現地取材した中田徹氏が、オランダの女子サッカー熱、そして女子サッカーの新しいエンターテインメントとしての可能性を伝える。

 夢の始まりはユトレヒトだった。2017年女子EUROのホストカントリーとしてオランダは7月16日、2万2000人のファンを集めてノルウェーと開幕試合を戦い1-0で幸先の良いスタートを切った。

 この試合のヒロインは唯一のゴールを決めたファン・デル・サンデンだった。さらに大会を勝ち進むにつれてMFフルーネン、ファン・デ・ドンク、スピッツェ、FWマルテンス、ミーディマたちが国民的スターとなり、オランダ国内は大いに盛り上がった。エンスヘデで行われた決勝戦でデンマークを4-2で下し、オランダが欧州ナンバーワンの地位を掴むと、彼女たちはユトレヒトの運河をパレードし、大勢の人々から祝福された。その模様は公営放送局でもライブ中継された。

女子サッカーの名将ウィーフマン

 あれから5年が経った。2023年9月26日、ユトレヒトのスタジアムに満員札止めの2万3000人の観衆が集まった。この日、女子ネーションズリーグのオランダ対イングランドが開催されるのだ。

女子ネーションズリーグ、オランダ対イングランドのハイライト動画

 「ここはやはり特別な場所。EUROで開幕戦を戦ったのよね」

 オランダを17EUROのクイーンに導いたサリナ・ウィーフマン監督は19W杯でも準優勝という好成績を残した。その後、イングランド女子代表監督に転身した彼女は22年EURO優勝、23年W杯準優勝と新天地でも素晴らしい結果を残した。つまりオランダ対イングランドという女子サッカー界最高峰のレベルを誇る国同士の戦いは、ウィーフマンが手掛けた2チームの晴れの舞台でもあった。

 「ウィーフマンを次期オランイェの監督に」

 そんな言葉を最近よく耳にする。つまりロナルド・クーマン現男子A代表監督の後継者としてウィーフマンを推す声が多いということだ。イングランド代表のバスがスタジアムのメインエントランスの前に着き、ウィーフマンが姿を現すとオランダサポーターの大歓声が沸いた。今の彼女はオランダ代表サポーターにとって対戦相手であるが、心情的にはいつまでも味方なのだ。

五輪予選を兼ねる女子ネーションズリーグ

 男子のネーションズリーグは2018年にスタートした。これまではW杯/EURO予選の合間に『選手の点呼』のような緩い親善試合が組まれていた。しかしネーションズリーグの誕生によって、欧州の国際マッチウィークはほぼ公式戦で埋まることになった。欧州のトッププレーヤーたちは過密日程で疲弊しきっているというのに……。

 ネーションズリーグは大きな批判とともにスタートした。だが、この大会はコンテンツとしてかなり面白い。当時のオランダではドイツ、フランスとのハイレベルな試合が毎回繰り広げられ、ファンを熱狂させた。オランダ代表が暗黒の時代を抜けたのは、このネーションズリーグでの活躍によるものだった。もう生ぬるい親善試合では、見る者は満足できない体になった。後戻りはできない。

 そして今年、2023年から女子ネーションズリーグがスタートした。女子W杯は8月20日に終わったばかり。W杯ファイナリストのイングランドにとって、ネーションズリーグの初戦、対スコットランドは1カ月後の9月22日。前半猛攻を仕掛けて2点をリードしたイングランドが後半落ちて、最終的に2-1の薄氷の勝利をつかんだのは蓄積疲労と関係あるはずだ。

 「私たちはロボットではない」

 そうウィーフマンは過密日程を批判し続けている。だが、今回の女子ネーションズリーグは各国、120%の力を出し切る覚悟で挑む必要がある。なぜなら、この大会は24年パリ五輪の欧州予選を兼ねているからだ。

過去にはオランダ女子代表の監督を務め、現在はイングランド女子代表の指揮を取るサリナ・ウィーフマン

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オランダ女子代表

Profile

中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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