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オランダのサッカーはかくあるべき。W杯決勝進出の女子代表に見えた変化

2019.07.10

女子代表が、国民の関心事に昇華した

 「オランダ代表には1700万人の監督がいる」と言われている。1700万人の国民が「自分ならこのメンバーで戦う。これぞ、私が考えるオランイェの最強チームだ」と、まるで自分が指揮を執るかのように主張するのだ。しかし、あくまでそれは男子の代表チームに限ってのことだった。

 2019年女子ワールドカップで、オランダに新たな「1700万人の監督」が生まれた。初戦、6月11日のニュージーランド戦で攻守にバランスを欠いたオランダは、後半アディショナルタイムにジル・ロールトのゴールでようやく1-0で勝った。このゴールに3人の途中出場の選手が絡んだことから、メディアとファンは「次戦はメンバーを大幅に入れ替えるべき」と、かなり強い論調で要求した。このことは、オランダ女子代表が新たなステージに立ったことを表していた。2年前のユーロで優勝したオランダ女子代表の動向は、国民の最大の関心事の一つに昇華したのだ。

16強ではなでしこジャパンを破り、勢いそのまま決勝まで勝ち進んだオランダ

 今からちょうど10年前。2009年女子ユーロに出場したオランダはフランスを0-0からのPK戦で破って3位になった。当時の女子サッカーはまだ、オランダではかなりマイナースポーツだったが、ユーロでの快進撃に国営放送局『NOS』がウェブ中継を実施した。しかし、そのプレーの質の低さに多くの人が失望し、「ポルダー・カテナチオ」と名付けて強烈に批判する記事も掲載された。

 ベラ・パウラ監督は「それまで女子サッカーに興味を持っていなかったのに、私たちが成し遂げた成果に批判だけ浴びせるのはリスペクトに欠ける」と憤り、私も「そのとおりだなあ」と思ったものだった。しかし、やはりオランダには「サッカーの作法」というものがある。KNVB(オランダサッカー協会)は、ポルダー・カテナチオの女子代表チームを好しとせず、「オランダらしいサッカー」を表現すべく強化することにし、その過程でパウラ監督との溝が深まっていった。そしてユーロのベスト4からわずか1年後の2010年、両者は袂を分かった。

 10年前の成功と批判は、シャニス・ファン・デ・サンデン、ビビアンヌ・ミーデマ、リーケ・マルテンスの強力3トップを軸に優勝した2017年ユーロへつながっている。「オランダのサッカーはかくあるべき」というイメージが1700万人の国民に共有されているから、オランダ女子サッカー代表は2年前のようなチームを作ることができたのだと思う。

批判から応援へ。決勝では敗れたが

 今回のオランダ女子代表は、開幕からずっと批判を浴び続けてきた。GKサリ・ファン・フェーネンダールはゴールライン近くに立ち続けて、センターバックとのコミュニケーションが悪かったし、両サイドバックはボールの落ち着きどころを作れず、アンカーのシェリダ・スピッツェはボールハンドリングが遅かった。そして、ファン・デ・サンデンとマルテンスは最後まで調子が上がらなかった。

 しかし、彼女たちには欠点を上回る長所があった。ファン・フェーネンダールのセーブ率は高く、スピッツェはずば抜けたキックテクニックで準々決勝イタリア戦で2アシストを決めた。右サイドバックのデシリー・ファン・ルンテレンがこの大会で見せた成長は感動的ですらあった。

大会を通じて大きく成長した右SBのファン・ルンテレン

 調子が上がらずともオランダ代表が勝ち続けているうちに、批判をしていた人たちも応援に回り始めた。しかし、決勝戦の相手アメリカは、オランダが欠点をカモフラージュするにはあまりにも強すぎた。0-2という結果は妥当なものだった。

 「私たちは大会を通じて雌ライオン(オランダ女子代表のニックネームのひとつ)として戦い続けた。オランダが批判した。オランダが一緒になって戦った。決勝戦で負けた今、おそらくオランダは悲しんでいる。しかし、オランダはまた私たちのことを誇りに思っている」

 そう言ったドミニケ・ブルッドワースの決勝戦後の言葉は美しい。

 ワールドカップを前に、オランダはアイントホーフェンでオーストラリアを相手に壮行試合を戦った。そのキックオフ前、我々報道陣はKNVBに呼ばれて、オランダ女子サッカー強化政策のレクチャーを受けた。

 オランダ1部リーグをよりコンペティティブなリーグにすること。その参加チームには、リザーブチームの保有を義務付けること。12歳までは性差なく男女混合チームでサッカーをすること。オランダ女子代表の1試合あたりの手当750ユーロ(約9万円)を将来、男子代表の4000ユーロ(約49万円)と同じにすること……。

 彼女たちの伸びしろは大きい。


Photos: Getty Images

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中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。