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「鹿島らしさ」のこれまでとこれから。スペインから帰ってきた柴崎岳の探求は続く

2023.09.29

かつて鹿島アントラーズの中盤から、2016シーズンに達成したJ1リーグと天皇杯の2冠をはじめとする5タイトルの獲得を支えた柴崎岳。テネリフェ、ヘタフェ、デポルティーボ、レガネスとスペインの4クラブを渡り歩いて電撃復帰を果たした今、「常勝軍団」時代を知る31歳の目に岩政大樹監督が挑む「鹿島らしさ」の再構築はどう映っているのか。古巣帰還後初先発を果たしたJ1第28節、横浜F・マリノス戦後に舩木渉記者が直撃した。

「勝ちたかった」マリノス戦で見えた「希望」

 「やっぱりこういう試合で勝ちたかったな、と」

 横浜F・マリノスに1-2で敗れた直後のミックスゾーンで試合の流れや反省点などをひと通り振り返った柴崎岳は、そう言った。9月1日に約6年半ぶりの鹿島アントラーズ復帰が発表されると、同10日のYBCルヴァンカップ準々決勝2ndレグの名古屋グランパス戦に途中出場して再デビューを果たした。

 その後、リーグ戦1試合の途中出場を挟んで迎えたのが24日の明治安田生命J1リーグ第28節、横浜F・マリノス戦だった。前節の勝利で2位のマリノスに勝ち点5差まで迫っていた鹿島にとっては、逆転優勝に望みを繋ぐための大一番。そこで柴崎は加入後初先発を飾り、名古新太郎と交代する70分までピッチに立った。

 「初先発で、こういう試合が巡ってくるのも縁かなと思っていましたし、こういう試合に勝ってこそ自分が呼ばれた意味があると感じて試合をやっていたので、個人的にはもっとできたかな……と」

 勝てば2位どころか首位にも肉薄できる重要な試合だったが、鹿島は逆転負け。リーグ戦は残り6試合というタイミングで首位との勝ち点差は9に広がり、浦和レッズと名古屋グランパスにも追い抜かれて5位まで後退した。数字上は逆転優勝の可能性が残っているとはいえ、実質的に今季の優勝争いから脱落したと言っていいだろう。ルヴァンカップや天皇杯の敗退も決まっており、今季も無冠が濃厚となった。

 柴崎は先の言葉に、こう続ける。

 「(レガネス退団から鹿島に加入するまで)もちろん試合をやっていなくて、スタメンから90分間やるという感覚がまだ十分に持てていない中、60分でも70分でも、交代してでも最初からしっかりとギアを上げてやっていこうと思ってやっていたので、リードした形でサブの選手に受け渡したかったなというのが正直なところ。勝ちたかったな……と、本当にそれだけですね」

 マリノス戦で勝つことが何を意味しているのか、柴崎は誰よりもよく理解していたはずだ。鹿島のアイデンティティを深く体に刻み込んでいるからこそ、「1勝」がクラブの未来に大きな影響を及ぼすこともわかっている。一方で、岩政大樹監督が築くチームには将来性を感じているようだった。

 「こういうリーグ戦終盤、自分たち(の明暗)を分ける大事な試合で(勝利を)落としたのは非常に重く受け止めなければいけない部分だし、こういう試合で勝ってこそ強いチームになっていくと思う」と語った柴崎は、「でも……」とさらに言葉を続ける。

 「その(強いチームになれるという)希望というか……最後までみんなで諦めないでチャンスを作って、ある程度リスクをかけながら攻めにいく姿勢があったので、終盤にもチャンスがあった。巻き返せる意志が見えた後半だったので、そこはプラスな部分だったかなと。諦めずにこのまま続けてやっていけばいいんじゃないかな、というポジティブな要素も見えます」

J1第28節、横浜FM戦のハイライト動画

柴崎が語る今の鹿島。「自分たちの目指す方向は…」

 加入から1カ月も経っておらず「まだ全体像をつかみきれていないところももちろんある」と言い、マリノス戦でも一歩引いたような立ち位置からゲームコントロールに徹して“黒子”のような存在として振る舞っている印象があった。

 だが、柴崎はピッチ内でもピッチ外でも、自分やチームを誰よりも俯瞰で見られる選手だ。かつて在籍していた頃とは様変わりした鹿島に自らを適応させていきながら、チームをさらに成長させるためにどのような変化が必要なのか、何をつけ加えていけばいいのかを模索しているはず。

 そういった視点に立った時、今の鹿島は柴崎の目からどのように見えているのだろう。「アタッキングフットボール」というイメージを確立させてタイトルを獲得し、今季もリーグ優勝を争っているマリノスを相手にしても、柴崎は「個人的にはそこまで力の差があるようには思えなかった」という。

 「スタイルが確立されているクラブ、長年積み重ねてきたサッカーが今花咲いている状態を見ると、みんな同じようなサッカーを目指すというか、こういったサッカーが『善』であるというか、いいサッカーに見えてくる。同じようなビジョンのサッカーを目指しているというのは結構あるんじゃないかなというのは、帰ってきてJリーグを何試合か見て、1つの傾向かなと」

 その上で「鹿島がそれに当てはまるかと言うと、僕はそうではないかなと思っている」と続ける。……

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Profile

舩木 渉

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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