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「フェイエノールトの光明」上田綺世がロッテルダムダービーで示した現在地と可能性

2023.08.23

今夏クラブ史上最高額の1000万ユーロ(約15億円)でフェイエノールトに加入した上田綺世。新天地オランダでの2戦目、同じロッテルダムに本拠を置くスパルタと激突した“ロッテルダムダービー”で途中出場ながら示した現在地と可能性を、現地取材しているオランダ在住の中田徹氏と探ってみよう。

 8月20日のロッテルダムダービー、スパルタ対フェイエノールトが2-2で終わった翌朝、『アルヘメーン・ダッハブラット』紙のミコス・ハウカ記者は「レオ・ザウアーと上田綺世はフェイエノールトの光明」と書いた。ザウアーとは17歳のU-20スロバキア代表ウインガーのこと。フェイエノールトのレジェンド、ビーレム・ファン・ハネヘムもお気に入りの俊敏テクニシャンだ。後半頭から投入されたザウアーはアディショナルタイムにクリーンシュートをゴールネットに突き刺し、チームの敗北の危機を救う同点弾を決めた。

 そして上田。64分、ピッチに入った時にはチームが2点のビハインドを負っていたということもあって「自分でチームの状況を変えようと思っていた」という上田は早速4分後に好プレーを披露した。

 68分、フェイエノールトの左コーナーキックはクリアされるも、こぼれ球を右SBヘールトラウダがボックス内左奥深い位置に振って、これをヤンクバ・ミンテがヘッドで中に折り返す。この瞬間、スパルタの選手たちが一様にボールウォッチャーになった一方、上田は右ポストにミンテの折り返しが流れてくるのを予測してフリーランニングを開始。この過程で上田はスパルタの選手4人の背後を突いてGKとの1対1の状況が生まれ、スパルタゴール前は無人だった。つまり一手詰みの王手。ミンテは左ポスト口で難なく上田からのボールを押し込んだ。残念ながらミンテがオフサイドポジションにいたためVARの判定でゴールは取り消されてしまったが、劣勢だったチームに勢いを与える上田の幻のアシストだった。

ロッテルダムダービーのハイライト動画。上田の幻のアシストは5:04から

質実剛健の主将とも互角。「フェイエの練習は強度が高い」

 84分にも上田は走力、強靭なフィジカル、アイデアを生かしてチャンスメイクしている。ペナルティーアークの外にいた上田はボックス内左へ潜り込み、MFティンバーからのスルーパスを足下で受けた。この時、並走していたスパルタのCBフリンズに体を預け、外側へ引っ張っていた上田は、ヒールキックで動きの方向とは逆の内側へボールを入れ、ゴール正面に走り込んだザウアーに絶妙のラストパスを通した(ザウアーのシュートはミートしなかったがフェイエノールトはCKを獲得)。

 チーム練習に合流してまだ1週間余りということもあり、スパルタ戦後「連携はまだまだ」と認めた上田だったが、それでも即興的にチームメートとクリックした瞬間も幾度かあり「収穫もあった」と手応えを感じていた。

 ハウカ記者とは試合が終了してから1時間半後に会話を交わした。彼がまず褒めていたのが上田の空中戦の強さ。……

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中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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