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『モダンサッカー3.0』と『競争闘争理論』の共通点。ゲームモデルとは「事後の言語化(記号化)」である

2023.08.22

<コーナータイトル>
『モダンサッカー3.0』書評#3

好評発売中の『モダンサッカー3.0 「ポジショナルプレー」から「ファンクショナルプレー」へ』は、イタリアでカルト的な人気を誇る若手指導者アレッサンドロ・フォルミサーノの革新的なメソッドがまとめられた一冊だ。書評企画の第三弾は、鎌倉インターナショナルFCの監督を務め、『競争闘争理論』の著者でもある河内一馬氏。本書にも引用されている著作との共通点を掘り下げてもらった。

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河内氏が感じた「3つのコンセプト」

 『モダンサッカー3.0』というコンセプト、あるいは書籍が示すところの本質は3つに集約されます。

 1つ目は「サッカーというゲームは複雑である」という主張です。昨今は「複雑系」という概念を用いてこのことが頻繁に説明されるようになりましたので、決して真新しいことではありませんが、しかし、現代サッカーは複雑(系)であると認めた割には戦術や技術、トレーニングに関する(思考の基盤になるような)理論体系が“複雑を前提としていない”という矛盾を、彼(アレッサンドロ・フォルミサーノ氏)は解消しようと試みているという点が、本書を手に取るべき一番の理由となります。

 2つ目は(ここからは私の解釈になりますが)、それゆえに「サッカー監督」という職業における(他者による)評価が非常に“複雑”になり、良い監督と悪い監督、成功した監督と失敗した監督などを、定めるのが極めて難しくなったという事実を示している点にあります。サッカーは複雑である=サッカー監督の役割は複雑であるという論理は成り立ちますが、これからのサッカー界が「サッカーは複雑である」と主張すればするほど(そこに根拠を示せば示すほど)、それに伴って監督の評価というものは本来難しくなります。このことは「監督」という役割を担う者たちにとって、一体どんな意味を持つのでしょうか。

 3つ目に、上記の2つを前提とした場合「サッカーにおける理論・メソッドの類は絶対的な“法則”にはなり得ないため、自らで考え、体系化する他ない」という暗示です。これは実際に本書の中でフォルミサーノ氏が主張しているわけではありませんが、仮に「サッカーは複雑(系)である」と認めるのであれば、このことは同時に認めざるを得ないことになります。では、私たちは理論・メソッドが書かれた本書から、一体何を学ぶことができるのでしょうか。

「インテンション・サイクル」との類似性

 そもそも、なぜ私が本書の書評を書かせていただいているのかと言えば、私の著書『競争闘争理論 サッカーは「競う」べきか「闘う」べきか』内で提唱した概念「インテンション・サイクル」が、本書の中で引用されているためです。つまり『モダンサッカー3.0』で提唱されているある部分が、私のそれと「非常に似ている」のです。共著者のサッカージャーナリスト片野さんとはかねてより親交をさせていただいており、「河内さんと非常に似ているメソッドを謳っているイタリア人指導者がいる」という話は伺っていました。ただ、まさかここまでとは……というのが正直なところです。

 『競争闘争理論』という理論は、サッカーというゲームの前提を捉え直したモノですが、「インテンション・サイクル」は“その前提であるならば”サッカーのテクニカルな体系各種はここから始まるはずだ、という具体的なサッカー観(よりテクニカルな部分)の基礎になっている概念を一部提示した形になります。つまり、私はサッカーというゲームそのものを(それを創った西洋人がわざわざ行わない方法で)捉え直しましたが、その捉え直した前提を基に導いた「インテンション・サイクル」が、遠い海の向こう、まったく会ったことも話したこともないイタリア人のそれとほとんど一致するのならば、全国の『競争闘争理論』ファンは(いる前提で話を進めています)、「私たちは間違っていなかった」と盃を交わすべきです。『モダンサッカー3.0』を読んだ方は『競争闘争理論』と読み比べ、そのロマンを感じて欲しいものです。

 「インテンション・サイクル」のみならず、本書に書かれた彼の主張の数々は、ほとんど私のサッカー観と一致しています。これは、2年間私の現場を隣で作ってきたコーチが「『モダンサッカー3.0』読んだんですけど、一馬さんのサッカーとほぼ一緒じゃないですか?」と真夏の練習後に言っていたので、私が勘違いしているわけではないと思います。彼と同じサッカーの解釈でゲーム・チーム作りを実際に行っているサッカー監督として、本書を紐解いていきたいと思います。

「私のサッカー」への疑問

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モダンサッカー3.0競争闘争理論

Profile

河内 一馬

1992年生まれ、東京都出身。18歳で選手としてのキャリアを終えたのち指導者の道へ。国内でのコーチ経験を経て、23歳の時にアジアとヨーロッパ約15カ国を回りサッカーを視察。その後25歳でアルゼンチンに渡り、現地の監督養成学校に3年間在学、CONMEBOL PRO(南米サッカー連盟最高位)ライセンスを取得。帰国後は鎌倉インターナショナルFCの監督に就任し、同クラブではブランディング責任者も務めている。その他、執筆やNPO法人 love.fútbol Japanで理事を務めるなど、サッカーを軸に多岐にわたる活動を行っている。著書に『競争闘争理論 サッカーは「競う」べきか「闘う」べきか』。鍼灸師国家資格保持。

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