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2児の父、多国籍軍団の一員として。オナイウ阿道がトゥールーズで過ごす日々【独占インタビュー前編】

2023.08.12

ついに幕を開けた2023-24リーグ1。フランス杯王者として新シーズンに臨むトゥールーズで、3年目を迎えているのはオナイウ阿道だ。日本時間8月13日22時キックオフの初陣ナント戦に先駆けて、現地取材を重ねている小川由紀子氏が実施した独占インタビューを前後編に分けてお届けする。

前編では、トゥールーズへの愛、フランスでの生活、多国籍軍団の言語事情、日本サッカーとの違いについて語ってもらった。

トゥールーズへの愛

「街全体を含めて僕はすごく好き」

――現在(取材日:6月26日)オフシーズン中で帰国されているオナイウ選手ですが、どんなことをして過ごしているのですか?

 「妻や子供を含めてみんなで日本に帰っていろいろなところに行くのを楽しみにしていました。でもやっぱり一番は、食べ物じゃないですかね。トゥールーズにも日本の食材を売っているお店はありますけど、日本食や日本料理として提供してくれるお店はないので。あとやっぱり日本はいろんな面で便利ですよね。例えば何か買い忘れたりしても、ちょっとコンビニに行けば買えますが、フランスはそういうお店や百均もないので。もちろん良いところもあるんですけどね。あと、この休みの期間に日本でお世話になった人を含めて、いろいろな人とお話をする機会もありましたね」

――どんなお話をされたのですか?

 「僕を知っている昔のチームメイトや指導者は、どうやってフランスまで行ったかというキャリアを知ってくれています。だから結果は別として『海外でプレーしているのはすごいことだよ』というのはみんな言ってくれましたね。『ただ海外に行ってサッカーしてるだけじゃないか』『どうせいつか日本に帰ってくるんだろ』って言う人だっているかもしれませんが、そういう人たちを見返せるのは数字なので、僕自身は『もっと頑張らないといけない』『結果を出したい』と思っています」

――ファンの方にトゥールーズというクラブを紹介していただけますか?

 「サポーターを含めて言うなら、ブーイングをされた覚えもないくらい、ホームの試合は常に盛り上がっています。チームが負けていたり、難しい展開でも常に鼓舞してくれて頼もしいです。街でも明るく『写真撮ろうよ!』って声をかけられることが多いですし、街全体を含めて僕はトゥールーズがすごく好きですね。そんなに大きい街ではないですけど、自然も豊かでいい場所だと思います。その分、日本みたいに一つの施設の中に遊ぶところがたくさん入っているショッピングモールはないですけど、公園でくつろいだりできるので」

――トゥールーズは他のクラブと比べても、アウェイの試合に足を運ぶサポーターの数が多いですよね。

 「そうですね。アウェイの試合でもたくさん来てくれて、常にどんな遠くでも応援しにきてくれる人たちがいるっていうのは、やっぱり心強いです」

――スタジアムの周りの雰囲気もいいから、ご家族が来られても安心です。

 「そんなに危ない感じもないですからね。雰囲気は常にいいので、それはすごくありがたいことだなと思います。家族も気軽にホームの試合に来ていますね」

二児のパパとしてのフランス生活

「常に家で2部練が始まる感覚です(笑)」

――オナイウ選手は二児の父ですが、「この子たちのために頑張ろう!」と気合いが入るんじゃないですか?

 「最近、試合に勝った時に行く祝勝会へ子供を連れていくのがチームで流行っているんですけど、娘2人はそこに行きたいみたいで。シーズン最後の方はなかなかチームが勝てなかったのもあって、『パパ、点取って!』って最近すごく言われています。『本当に頑張らなきゃな』って思いましたね。そういうのもわかるようになってきているから」

――フランスではそういう集まりに奥様だけが同伴することが多いですよね。

 「そうですね。日本は子供がいたら基本的に連れて行くじゃないですか。だけど向こうはベビーシッターとかに預けるのが普通ですね。それか、僕らはできないですけど、親が家にいて子供を見てくれるので奥さんと2人で出てくる選手も多いです。仲良くしている選手たちにもよくお願いしているベビーシッターさんがいたり、フランスでは若い頃にベビーシッターをやっていた人も多くて、選手の奥さんとかでも昔やってた人がいるくらい。だから僕たちも挑戦してみようかって話はしているんですが、子供たちは2人ともまだそういう経験がないので難しいですね」

――SNSでお写真を拝見しましたが、あんなにかわいいお嬢ちゃんがお家で「パパ〜!」って待ってくれていたら、疲れも吹っ飛んじゃう感じですね。

 「疲れも吹っ飛びますけど、そこからさらに疲れますからね。常に家で2部練が始まる感覚です(笑)」

――2部練ですか!(笑)すごく元気そうですね。

 「元気ですね。上の娘が3歳、下の娘が2歳でいろいろやりたがる年齢ですから。年子なのでよく一緒に遊んでいるんですけど、すぐ喧嘩します。仲良いのか悪いのか……でも姉妹ってそういうものだと思います(笑)」

――21-22シーズンには「おかあさんといっしょ」の「シルエットはかせ」を真似したゴールセレブレーションを披露して日本でも話題になりました。あれはお子さんたちに向けてやっていたんですか?

 「そうですね。日本にいた時は子供がハマっているダンスが多かったので、そういうのを見てやれていたんですけど、フランスに来てからはテレビで教育番組も特にやってないのでできていないです。でも来シーズンはもっとゴールを奪ってそういうのができたらいいですね。子供たちも喜んでくれるので」

――ご家族がフランスに一緒に滞在されているのは、オナイウ選手にとっても大きいのではないですか?

 「そうですね。子供の成長も近くで見られますし、家に帰っても妻がおいしいご飯をお昼も夜も作って、1人でいろいろ全部やってくれているので。家族も日本じゃないところで生活するのは難しい部分もたくさんあると思いますけど、それでも文句も言わずついてきてくれていろいろなことやってくれている。すごく感謝したいですね。本当に助かっています!」

多国籍軍の言語事情

「間違えながらでも喋っているタイプ」

――フランスでの生活が3年目に突入しようとしていますが、ご苦労はあったりしましたか?

 「僕自身はそんなに『これが困るな』という感じはなかったですね。最初通訳として来てくれていた方がいて、今はトゥールーズのスタッフをしているんですけど、その人の家族も含めて全体的に生活部分を助けてもらっています。もちろんサッカーの部分でも、わからないことがあったらすぐに教えてくれるので。本当に『何でも聞いていいよ』『何でも頼んでいいよ』って言ってくれているので、まったく不便もしてないんですよ。日曜日にスーパーが開いていないとか、最初の頃はそういう向こうの常識がわからなかったことはありましたけど、今は曜日を考えながら行くのが当たり前ですね。個人的に苦労しているとしたら、言葉くらいじゃないですかね。フランス語ももっとやらなきゃいけないと思っています」

――クラブではフランス語講座は?

 「一応、加入1年目からあって昨シーズンの途中で終わりました。今は自分でちょっと教材を探していて、シーズンが始まるタイミングでは僕1人でフランスに帰って、家族は少し長めに日本に残るので、その空いている時間を勉強にも充てようかなと思っています」

――なかなか1人で勉強するのは難しいですよね。

 「特にフランス語は苦手意識があるので、嫌いにならないようにモチベーションを維持するのが難しいですね。そうじゃないと結局やっても惰性になっちゃうから。でも娘はフランスの幼稚園に通っているので、フランス語を喋ろうとするんですよ。最初は言っていることがわからない時もあったけど、今はわかるようになって自分にとっても勉強になっています。それにより娘たちが喋れるようになったら、家でフランス語を話せる相手がいた方がお互いにとっていいと思うので、だからこそ自分ももっと勉強したいと思っています」

――サッカーでのフランス語はいかがですか?

 「サッカー系のフランス語は割ともう理解できていますね。ずっと同じ(フィリップ・)モンタニエ監督だったので、話す内容も似てきますし『こういうニュアンスで言ってるんだろうな』っていうのもわかるし、『これはこういうことだろうな』っていうのもわかっていました。それにモンタニエ監督が話してくれるフランス語を英語に訳してくれる通訳もいたので」

――トゥールーズは多国籍軍団ですからね。

 「だから選手同士のコミュニケーションは基本英語です。フランス人もいるんですけど、特に試合に出ていた主力の選手はフランス語よりも英語を喋れる選手が多かったので、僕も英語でコミュニケーションを取っていました。フランス語でコミュニケーションを取るよりは難しくはなかったです。そんなに人見知りとかはしないタイプですし」

――実際に現地で取材していても、オナイウ選手はチームメイトから愛されているイメージです。

 「特に昨季まで3人いたオランダ人の選手たちとは仲良くしていましたね。家族ぐるみで家に招待して一緒にご飯を食べたり、逆に呼んでもらってご飯をごちそうしてもらったり、クリスマスを一緒に過ごしたり……。あとは若い選手とコミュニケーション取るのも好きですね」

――でも英語やフランス語でも若い人が喋っている言葉は、日本語に若者言葉があるみたいにちょっと違ったりしますよね。

 「日本語にもそういうのがあるくらいだから、やっぱり向こうにも若者言葉がありますね。だからそこはたまに聞いたりします。『あれ、なんて言ってるの?』って。逆に若者じゃない自分がそういう言葉を使ったら面白いじゃないですか、向こうの選手からしても。そうやってコミュニケーションを取るきっかけを作れているので、もしかすると覚える必要がないのかもしれないけどプラスになりますよね。聞きながら『そういう意味なんだ!』『こういうふうに喋ってるんだ!』って英語もフランス語もいろんなことを学べますし、若い選手とも仲良くなれるので」

――どっちのタイプですか?間違えずにきちんと喋りたいタイプか、間違えてもいいからとりあえず言いたいことを伝えたいタイプか?

 「間違えながらでも喋っているタイプです。英語でもフランス語でも。みんなが喋っているのを真似しながら喋って、よく使う言葉を見つけながら意味を理解して、それをくっつけていけば文になるので。もしそれで伝わらないんだったら教えてもらう感じです。オランダ人のチームメイトたちも昔は全然英語が喋れなかったんですけど、そうやって勉強して喋れるようになったらしくて、『自分もやればそういうふうになれるんだ』って勇気づけられています。彼らも『最初よりも全然英語良くなってるよ』って言ってくれるんですけど、まだ自分の中では『こう言いたいけどうまく出てこない』ということも試合中にあるから、思ったことがそのまま英語でぱっと出てくるようにしたいですし、もっと細かいことまで喋れるようになりたいです。そうすれば信頼関係も戦術理解も、いろんな面でプラスになると思います」

フランスサッカー、1部と2部の違い

「相手の戦術や選手に合わせる側になるので…」

――ここからはサッカーのお話を聞かせてください。フランスで2年間プレーして一番日本との違いを感じたことは何ですか?

 「日本はアウェイの試合で当日移動ってあんまりないじゃないですか。フランスでも昼間の試合だったら前日の夕方に出発して夜ご飯をホテルで食べますけど、試合が夜だったら当日の朝に飛行機で行ったりするんですよ。夜7~9時のキックオフも少なくないので、当日移動が多いのは驚きましたね。あと試合前も日本だったら選手全員でアップするけど、フランスはアップを担当するコーチがスタメン組にしかついてないのはびっくりしました」

――でも、スタメンから外れた時も1人で入念にウォーミングアップしていますよね。いつも最初に出てきて、最後に出ていく印象があります。

 「フランスの選手はアップをスタメン組だけでやるのが普通だから、別に何もしないでベンチに座って、呼ばれてから準備を始めればいいんでしょうけど、日本では基本的にサブの選手も一緒にアップをやっていたので、自分の中でもある程度ちゃんとやることが決まっていて変わらずにやっています」

――トゥールーズはオナイウ選手の加入1年目でリーグ2優勝、2年目でフランスカップ優勝を果たしています。良いタイミングで入団した感覚はありますか?

 「僕が来る前のシーズンはチームが(リーグ1に)上がれなかったんですけど、入った年でちゃんとリーグ1に上がれて、ある程度結果も残せました。昨シーズンもチームがカップ戦で優勝して、リーグ戦も残留できましたし、そういった意味ではいい経験をさせてもらっていると思います。でも僕個人の話としては、全然納得のできるシーズンではなかったと思いますし、簡単に言えば、難しいシーズン、ストレスの溜まるシーズンだったと思います」

――入団初年度の21-22シーズンは、出場試合数が公式戦全43試合とチームで一番多かったんでしたよね。

 「そうですね。カップ戦、リーグ戦含めて、スタメンと途中出場のどちらかはしていました」

――22-23シーズンのリーグ1でも、オナイウ選手がメンバー入りした試合数はチームトップの全38試合です。

 「メンバーは1回も外れてないですね。出なかった試合はリーグ1で4試合だったと思います」

――22-23シーズンはオナイウ選手自身、初めてのリーグ1でした。違いは感じましたか?

 「やっぱり個人のクオリティだったり、インテンシティの高さの違いっていうのはあると思います。リーグ2でやっていた時は、チームも常に主導権を持ちながら戦えていたので相手がアグレッシブなチームかどうかよりも、自分たちがどうやってボールを握って攻撃するかということによりフォーカスできていたから、『このチームが手強い』といったことは感じなかったです。だけどリーグ1だと、相手の戦術や選手に合わせる側になることも多かったので、そういう難しさもありましたね」

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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