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これもJリーグの進化?サガン鳥栖のビルドアップは、なぜ機能しなくなったのか

2023.04.25

川井健太監督が就任して1年目からクオリティの高いサッカーを披露し、2年目の今季はさらに上位進出を期待されていたサガン鳥栖。しかし、ここまで12位と序盤戦はやや苦戦中だ。その理由を西部謙司氏に考察してもらった。

今季のJリーグで「非保持型」が優位な理由

 日程のおよそ4分の1を消化したところで、サガン鳥栖は3勝2分4敗の12位。開幕の湘南ベルマーレ戦を1-5で落としたものの、その後は勝つにしても負けるにしても1点差。そこまで深刻な状態ではないが、プレーぶりはけっこう深刻な状況にも見える。

 昨季の鳥栖はポジショナルプレーの模範のようなチームだった。GK朴一圭をフィールドプレーヤー化した自陣でのパスワーク、相手が前がかりでプレッシングしてくれば岩崎悠人、長沼洋一の両サイドへのロングボールでひっくり返す擬似カウンター。対戦相手の鳥栖対策は、とりあえず引いてブロックを固めることだった。

 ところが、今季はビルドアップが上手くいっていない。これは鳥栖だけではなく、J1全般に見られる傾向でもある。同時に、ボール非保持型のチームが上位を占めている。

 少し遡って整理しておこう。ヴィッセル神戸が「バルセロナ化」を標榜、横浜F・マリノスではシティ・フットボール・グループの改革が始まり、川崎フロンターレがピークを迎えた。ボールを保持できるチームの優位が顕在化していった。保持して押し込めるなら、ボールを失うのは主に相手陣内になるので、そこで守備をするのが理にかなっている。わざわざ80メートルも戻る必要はないわけだ。ここ数年は保持と相手陣内でのプレッシングの循環を作れていた川崎と横浜FMが2強として君臨してきた。

 ポジショナルプレーも徐々に浸透していた。ゴールキックのルール変更もあり、最深部からでもパスをつないでいこうとするチームが増えていく。そうなると、そこでボールを奪おうとするハイプレスも必然的に増えていた。同時に、2強に迫る第二勢力としてサンフレッチェ広島、セレッソ大阪、鹿島アントラーズが3~5位だったのが昨季までの状況だ。この3チームの特徴はそれぞれだが、高い位置でのボール奪取を狙いとしている共通項がある。広島と鹿島はドイツ系のサッカーで実績を残してきた監督を招聘。ブンデスリーガはハイプレスを軸としたプレースタイルが最も浸透している。

 リーグの頂点に君臨するチームの戦い方はおよそ決まっていて、ボール保持+ハイプレスを軸とするチームだ。ブンデスリーガにハイプレス特化型が多いのは、バイエルンの1強リーグだからだろう。ドイツの国民性もあるとはいえ、バイエルンと同じスタイルではなかなか勝ち目がないという事情がある。J1の川崎、横浜FMは、バイエルンやレアル・マドリー、バルセロナ、パリ・サンジェルマン、マンチェスター・シティなどと型としては同種である。ただし大きな違いがあり、それが今季のJ1の状況を生んでいる一因だ。

 欧州ビッグクラブは圧倒的な戦力を維持しているのに対し、日本の2強は主力を引き抜かれ続けているのだ。

2022シーズンのJリーグを制した横浜F・マリノス。当時主力だった高丘陽平と岩田智輝はそれぞれ新天地に旅立っていった

 最も保持力の高かった2強の戦力ダウンと同時に、ハイプレスの精度が上がっている。以前からハイプレスに取り組んでいた湘南、京都サンガ、北海道コンサドーレ札幌に広島、鹿島、セレッソ大阪が加わり、浦和レッズもハイプレス系の監督を据えた。そしてバルサ化を掲げていた神戸はむしろリバプール化に舵を切っている。……

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J1サガン鳥栖

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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