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渡辺皓太が覚醒に至った成長の軌跡。「引っ張る」のではなく「支える」マリノス連覇のキーマン

2023.02.10

J1優勝を成し遂げた横浜F・マリノスの2022シーズンでブレイクした1人が渡辺皓太だろう。2019年夏に東京ヴェルディから加入してきた小柄なボランチは、どのような葛藤を乗り越えて、優勝チームの中心選手として活躍するまでに至ったのか。彼の成長を追ってきた舩木渉が綴る。

優勝後に明かした2019年と2022年の違い

 2022年11月5日。横浜F・マリノスが3年ぶりのJリーグ優勝を決めたノエビアスタジアム神戸のミックスゾーンで、渡辺皓太は喜びを噛み締めるように語り始めた。

 「2019年とは違った喜びがありますね。正直、マリノスに来た時、自分がこういう風に(優勝チームの中心に)なれると信じていたけど、どこかで『無理じゃないか?』と思うところも少しあった。何回も諦めかけたけど、本当に頑張ってきて良かったと、(優勝が決まった瞬間は)信じられないような気持ちになりました」

 渡辺は2019年の夏にJ2の東京ヴェルディからマリノスに加入し、その年のJリーグ優勝メンバーになった。しかし、J1初挑戦な上、ベースができ上がったチームの戦術や強度に適応しきれず、リーグ戦の出場は9試合251分間のみ。15年ぶりのJ1制覇が決まった最終節のFC東京戦も終盤の数分間しかピッチに立てなかった。

 「あの時は正直、まったく優勝した実感がなかった。まあ、ラッキーだったかなって。夏に加入して、こんなに素晴らしいチームに来られて良かったなと。だけど、まったく喜べなかったし、レベルの高い中で、この先どうしよう……という気持ちの方が強かったです」

 2020年以降も苦しい時期が続いた。プレー時間や出場試合数は増えているものの、チームの中心にはなりきれない。「本当に毎年どうしようかと悩んでいた」と渡辺は明かす。

 U-24日本代表としての東京五輪出場を逃した2021年夏には、あるJ1クラブからの獲得オファーを受け取り、移籍か残留かで揺れた。なかなか継続した出番がない中で「ある日は『行きます』と言ったけど、すぐ『やっぱりやめます』と言って……本当にギリギリまで悩んだ」という。

 それでも最終的にはマリノスに残ることを選んだ。なぜなら「どうしてもこのチームで活躍しないと、違うチームにはいけないなと思った」から。渡辺は「活躍するまで絶対に諦めないでいたいと、その時に強く思えた。あそこで逃げなくて良かった」と振り返る。出番が限られていても、マリノスで戦い続けることによって自分がもっと成長できるという感覚もつかんでいた。

 「Jリーグの中でもこんなに素晴らしいチームはない。やっているサッカーも、目指しているサッカーも、選手のクオリティ、ファン・サポーターの皆さんの応援やクラブの規模も本当にJリーグNo.1だと思っています。そういうクラブにいるのに、ここで諦めたらもったいないという気持ちがあったから残りました」

ターニングポイントは次男の誕生、そしてU-24アルゼンチン戦

 不退転の決意で臨んだ2022シーズンは、前年に比べてリーグ戦の出場試合数こそ26試合から24試合に減ったものの、プレー時間は過去最長の1500分に伸びた。特に後半戦の活躍ぶりは目覚ましく、直近の公式戦5試合連続勝利なしという状況で迎えた9月7日のJ1第25節・湘南ベルマーレ戦で先発出場のチャンスを得ると、獅子奮迅のパフォーマンスを披露して6試合ぶりの勝利に貢献。3日後のJ1第26節・アビスパ福岡戦でも先発してマリノスを連勝に導き、ラスト6試合には連続で先発出場するなどチームに欠かせない中心選手として優勝まで駆け抜けた。

 9月以降の活躍につながったターニングポイントはどこにあったのか? その問いに、渡辺は「正直、2人目が産まれたことかな……。やらなきゃいけないという気持ちが増したし」と答える。

 次男の叶翔(かなと)くんが産まれたのは、7月7日のこと。チーム内での立場やパフォーマンスの充実ぶりに変化が見られた時期と不都合はない。だが、プレーヤーとしての進化のきっかけとなった真のターニングポイントは1年以上前にあったのではないだろうか。

 そう考えるに至るきっかけとなった言葉は、今でも忘れられない。

 「正直、手応えはまったくない……何もさせてもらえなかった印象です」

 2021年3月27日。U-24日本代表としてオンラインでの取材に応じた渡辺は、前日に0-1で敗れたU-24アルゼンチン代表との国際親善試合をそう振り返った。チームメイトの出場停止や負傷もあって先発出場のチャンスを与えられたが、東京五輪出場への「自分にとっての最後のチャンス」と意気込んで挑んだ試合で自信をへし折られ、画面越しに見える表情は心ここに在らずといった様子だった。

 同29日に行われたU-24アルゼンチン代表との再戦の機会では終盤に交代出場したものの、その後の活動では招集外に。渡辺は東京五輪の舞台に立つことができなかった。……

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J1リーグ横浜F・マリノス渡辺皓太

Profile

舩木 渉

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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