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【インタビュー】林雅人のオランダ再訪記。AZとNECの現場で感じたグローバル時代のマネージメント術

2023.02.06

FC今治でアカデミーグループ長、およびU-18チーム監督を務めた林雅人(45歳)は1月、2週間に渡りオランダを訪れた。目的は日本サッカー協会S級ライセンス講習会の最後の課題である国外研修を受けるため。今回、彼はオランダ1部リーグのAZとNECを視察した。

林にとって、オランダは第二の故郷だ。日本体育大学のストライカーとして鳴らした彼は卒業後、サッカー部の恩師であるアーリー・スカンス氏の母国オランダへ飛んで指導者の勉強をし、フィテッセのU-12、U-11チームの監督を務めるなど貴重な経験を積んだ。

今回の研修を受けるにあたり、フィテッセ時代に温めた指導者との付き合いが生きた。当時、フィテッセのTDだったテッド・ファン・レーウウェン氏は昨年までNECのTDを務め、アカデミーダイレクターだったパスカル・ヤンセン氏は現在、AZの監督としてトップチームを指揮している。こうした縁もあって林はAZとNECをつぶさに見ることができたのだ。

研修が大詰めを迎えた頃、NECのあるナイメーヘンで本人に話を訊いた。

“第二の故郷”フィテッセ時代の思い出

――AZの監督、パスカル・ヤンセンさんとはフィテッセ時代に一緒だったんですよね。

 「はい。当時の僕はUEFA B(UEFAの指導者ライセンスで上から3番目のカテゴリー)の研修先を探していました。本来ならジュニアやジュニアユースが研修先になるんですが、すでに他の研修生で埋まっていて、U-19チーム監督とアカデミーダイレクターを兼任していたパスカルが『それなら俺のところへ来い』と誘ってくれました。UEFA Bの受講生にとってU-19はレベルが高いのですが、パスカルとの縁も含めてそれが運命でした」

――オランダのアカデミーは1歳刻みでチームがあります。それでもU-19チームしか研修生の枠がなかったんですね。すべてのチームに研修生がいることがすごい。

 「はい。UEFA Cから研修制度があって、全カテゴリーにBやCの受講生がいました。そこで1シーズン、コーチングスタッフの一員としてクラブの中に入り込みます。研修期間の長さは日本との違いですね。日本のS級は国内で1週間、国外で2週間研修します」

――オランダのクラブにとって研修生を受け入れるメリットは?

 「ボランティアのサポートスタッフがいるわけですからWin-Winです。監督、コーチがいて研修生もいたら毎回3人体制でトレーニングできるから各自の負担が減りますよね」

――しかも研修生は優秀なんですよね?

 「実はそうでない研修生もいます。しかし勉強中の身だから仕方ないですよね。でも彼らは『見て学ぶ』という立場ですから、チームの練習をすべて任せるわけでもない。やはり研修生がいた方が現場は助かります」

――リーグ戦を戦うと、どこかで「決断の時」がありますよね。今までのやり方を変えないといけないとか、それまでの主力を外すとか。その過程と監督の判断の瞬間を見ることができるのは大きい。研修生は1シーズンのマネージメントを学べる。

 「確かにそこは大きなメリットですよね。1年間の研修が終わり、フィテッセから『このままコーチとして残らないか』とオファーをいただき契約し、3年目にU-11とU-12の監督を兼任しました。イサ・カロン(現上海海港)、ケビン・ディックス(現コペンハーゲン)といった選手がいました」

――手を焼いたりしましたか?

 「まだ12歳でしたからね。可愛いものです。しかし、さらに歳が上がっていくと問題のある子も出てくる。フィテッセは地元の学校と提携し、そこに選手が通ってました。成績はどうでもいいんですが、学校での態度だけはしっかりしないといけない。それでクビになる選手もいますから。これはフィテッセに限ったことではないです。オランダの育成は人を育てるという面でも、意外とちゃんとしているんですよ」

旧友のサポートでAZとNECのリアルな現場へ

――パスカル・ヤンセンさんと今回AZで再会しました。

 「フィテッセで5年も一緒にやった仲なので『おお!』と友だちみたいで、初日から監督室で話し込みました。いきなり研修生が監督室に入ってしゃべっていたから、クラブの人も驚いたんじゃないでしょうか(笑)」

好調のAZを率いるパスカル・ヤンセン監督(写真:本人提供)

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AZFC今治NECエールディビジ林雅人

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中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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