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異例の情報規制は、42分の1ではない2月18日に向けて。モンテディオ山形の“開幕戦”はもう始まっている

2023.02.01

ここ4シーズンで2度J1参入プレーオフに進出し、残る2シーズンも7位と安定した成績を残す一方、念願のJ1昇格には手が届いていないモンテディオ山形。立ちはだかる壁を打ち破るべく、積年の課題克服を見据え入念な準備を進めている。今シーズンに懸ける彼らの想い、そしてチーム作りの現状を、現地で取材する佐藤円氏がお伝えする。

 プレシーズンキャンプ突入直前、モンテディオ山形の広報からメディア各社に向けて、トレーニングスケジュールや取材方法の詳細を記したメールが送付された。注意書きなどがいくつか記載されていたその最後の方で、見慣れない一文が目に止まった。

 「開幕までのトレーニングマッチはすべて非公開での実施が決定いたしました」

 雪深い地域を本拠とする山形は毎年、1月10日前後に新チームを始動させると、それほど間を置かずにトレーニングキャンプに出かけ、山形に戻ることなく開幕戦を迎えている。その間、約6、7週間。開幕2週間前から練習試合が非公開になることはこれまでもあったが、すべて非公開扱いとする決定は初めてのことだった。

 その後に方針変更があり、静岡県御前崎市での1次キャンプ中に地元大学チームと行う練習試合が公開されることになった。「メディアのみなさまがトレーニングマッチありきでキャンプ地にお越しいただいていることを考慮し」てとのことだったが、ただその条件がなかなかに厳しいものだった。

・スタメンの公表はしないこと
・メンバーの詳細は出さないこと
(例:何本目に誰が出た etc…)
・SNSへの試合映像掲載の禁止
・全体がわかるような引きの映像の使用の禁止

 普段からチームの取材を続けている記者・ライターにとっても、記事を書くとなるとこの条件は難易度が高い。テレビ、特にこの練習試合にポイントを絞って取材をするメディアには、さらに高いハードルとなったに違いない。

 テレビ事情で言えば、山形県内向けにはNHKと地元民放4局がある。モンテディオは注目度の高いコンテンツだ。シーズン最初の練習試合となれば、いくつかの局が夕方のニュース内でその様子を報じ、モンテ情報に飢えた県内在住サポーターの渇きを癒してきた。しかし今年は、少なくとも練習試合の翌週にその様子を報じた局はゼロ。情報が漏れないのと引き換えに、山形県内向けに露出できる圧倒的なチャンスを失っている。

 その練習試合を報じたのはクラブオフィシャルのほか、地元地方紙、スポーツ紙の東北版、山形を専門に取材するWEBメディアなどごく限られたメディアのみ。クラブからは得点者の氏名のみがリリースされたが、誰が何分に挙げたものかは伏せて伝えられた。また、掲載される写真はどれも選手単独で写っているもの。ともにプレーする味方はほぼ写っていない。フレーム内に相手が写り込んでいなければ、練習試合の写真かどうかも断言できないようなものだった。

 大学生相手の、まだメンバーが固まらない時期の練習試合でこれほど念入りな情報規制が敷かれるのは異例のことだった。そして、開幕までに練習試合が何試合組まれているのかさえもアナウンスされていない。取材する立場としては貴重な機会を奪われることが残念でならないが、一方で、チームがそうせざるを得ない事情も十分に理解できる。それは、山形の“今シーズンに懸ける本気度”と言い換えてもいい。

積年の課題克服のために

 昨シーズンは終盤にかけて調子を上げ、6位でJ1参入プレーオフに進出。1回戦を突破したが、2回戦ではロアッソ熊本と2-2となり、レギュレーションにより敗退となった。ミラクルな勝ち上がりでプレーオフからJ1昇格を果たした2014シーズンの再現とはならなかった。

 山形は2019シーズンにも6位でプレーオフに進出しているが、その後の3シーズンの順位の推移は7位、7位、6位。安定していると言えば安定しているが、将来的なJ1定着を目指しているクラブとしては、上位2つの自動昇格枠に入れる力が足りていない現実を突きつけられることにもなった。この状況を打開するためになんとしても克服したいのが、開幕戦以降のスロースタートだ。……

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モンテディオ山形

Profile

佐藤 円

1968年、山形県鶴岡市生まれ。山形のタウン情報誌編集部に在籍中の95年、旧JFLのNEC山形を初取材。その後、チームはモンテディオ山形に改称し、法人設立、J2参入、2度のJ1昇格J2降格と歴史を重ねていくが、その様子を一歩引いたり、踏み込んだりしながら取材を続けている。公式戦のスタジアムより練習場のほうが好きかも。現在はエルゴラッソ山形担当。タグマ「Dio-maga(ディオマガ)」、「月刊山形ZERO☆23」等でも執筆中。

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