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外交戦略で見る、カタール2022――「湾岸諸国の先駆者」が及ぼす影響力

2022.11.02

2015年のFIFAスキャンダルの影響もあり、「政治と金」の色が強くつきまとうようになったカタールW杯。では、冷静に外交戦略の面から見てカタール2022は何を目的として企画され、その結果カタールはどのようなメリット・デメリットを得たのか。イタリアのWEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』でこの大会の政治面の功罪を追ってきたダリオ・サルターリ氏に解説してもらおう。

※『フットボリスタ第92号』より掲載

 2022年W杯のカタール開催が決まった時、それに好意的であることを示そうとしたFIFA会長(当時)ゼップ・ブラッターは、「アラブ世界」を引き合いに出してこう語ったものだった。

 「22もの国によって構成されているが、これまで一度もW杯を開催する機会がなかった」

 カタールにおいてアラブ民族は限られたエリート層であり、人口という点では他の民族と比べて圧倒的な少数派であることを考えると、このコメントはいささか奇妙に響く。しかしある意味では予言的な側面も持っていた。

「アラブの春」がもたらした特殊な立ち位置

 W杯開催が決まってからわずか16日後の2010年12月18日、チュニジアの地で「アラブの春」に最初の火がついたのだ。長年続いた汚職、そして飢餓に対する怒りは、チュニジアからリビア、イエメン、シリア、さらにはペルシャ湾の専制国家であるバーレーン、そしてとりわけエジプトにまで広がった。そしてこのアラブ世界の大国(エジプト)において、カタールはつい10年前には想像すらできなかった役割を占めることになる。

 というのもカタールは、この「アラブの春」運動を通して大きく勢力を伸ばしたイスラム主義団体「ムスリム同胞団」のリーダーであり、ムバラク政権崩壊後に成立した新政府の大統領となったムハンマド・ムルシーの最も重要な後援者だったからだ。自国の地下に巨大な天然資源が眠っていることを知る以前は、真珠の養殖と輸出が唯一の産業だったこのペルシャ湾の小さな専制君主国は突然、既存の体制への反抗を試みるアラブ世界の革命勢力にとって、重要極まりない基準点となったのだ。

ソフトパワー戦略における2つの「武器」

 実を言えば、カタールは突然そうなったわけではなく、地道で辛抱強い文化面での影響力、いわゆるソフトパワーの行使を通じて徐々に存在感を高めてきていた。ドーハは主に2つの「武器」を用いていた。1つはマスコミ、もう1つはスポーツである。

 国営放送局『アルジャジーラ』を通してアラブ世界全体に向けて24時間フルタイムで情報を流し続け、2022年W杯の開催権獲得以前から、様々な国際スポーツイベントを積極的に開催してきた。ブラッターがW杯開催を正当化する材料として使った2006年アジア大会の開催と成功もその1つだし、2004年に創立された最先端の育成機関アスパイア・アカデミー(5万人収容のスタジアムや世界最大級のインドアスポーツセンター、国際競技規格を満たした4つのプールなどを持つ)、そのアスパイアのスカウティングも兼ねて行われてきた「フットボール・ドリームズ」プロジェクトもそうだ。2007年にスタートしたこのプロジェクトは、アフリカと南米の国々から最高のタレントを発掘することを目的としており、10年間で50万人にもおよぶ13歳の子供たちが、毎年20人前後という狭き門を目指してセレクションを受けてきた。単なるユートピア主義のようにも見えたこのプロジェクトは、カタールが2019年のアジアカップで日本を下して優勝を飾ったことで、一躍サクセスストーリーとなった。カタールにとって初めてのタイトルだっただけでなく、アスパイア育ちのFWアルモエズ・アリが得点王に輝いたのだ。2022年のW杯は、これらのいわば集大成と言うべき重要性を帯びている。

アジアカップ得点王に輝いたアルモエズ・アリ。アスパイア・アカデミー出身で、国内のアル・ドゥハイルに所属している

いまや欧州サッカー保守派の「守護者」

 こうしたソフトパワー戦略の成功は、「アラブの春」以降のイスラム主義運動の発展を通じて、国際政治の舞台におけるカタールの地位向上をもたらすはずだった。しかし現実には、当初は想像もつかなかったような脇道へとカタールを導くことになる。……

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ダリオ サルターリ(l'Ultimo Uomo)