SPECIAL

「フランスの良心」が戻ってくる!1部復帰オセールの歴史、名物監督ギー・ルーの物語

2022.07.30

8月5日にいよいよ新シーズン開幕を迎えるリーグ1。そのフランス1部の舞台に11季ぶりに立つのは昨季2部で3位に入り、古豪サンテティエンヌとの入れ替え戦をPK戦の末に制したオセールだ。かつて名物監督ギー・ルーの下、育成クラブとして知られていた「フランスの良心」の歴史を、当時現地で取材していた西部謙司氏に振り返ってもらった。

「降格しなければいい」が口癖の監督兼解説者

 でっぷりとした巨体に丸顔、細いタレ目。誰に似ているかといえば、ドリフターズの高木ブーしか思い浮かばない。人口3万8000人弱の町にあるAJオセールを通算44年間も率いたギー・ルーは、フランスの名物監督でサッカー界の名士でもあった。

 人懐っこい笑顔と素朴なジョーク、しかし時折鋭い指摘もするルーは『TF1』(地上波)のUEFAチャンピオンズリーグでは解説者も務めていた。1996-97シーズンはオセールがCLに出場したのでさすがにその時は現場だったが、CL解説の常連としても有名だった。

 フランスというと大都市パリのイメージが強いけれども大部分は田舎である。豊かな自然とともに、ゆったりとした時間の中で人生を過ごしているのもフランスであり、ルー監督はそちらを象徴するような存在だったかもしれない。テレビに出るときはスーツだが、普段はずっとジャージ姿。1961年に監督に就任したときはまだアマチュアリーグだった。

 「寒かったので、よく周囲の森の木を集めてきて練習場で焚火をしていたよ」(ルー)

 1部に昇格したのは1979年。それから32年間、降格しなかった。この規模のクラブとしては偉業といっていいだろう。その間に95-96シーズンはリーグ優勝、クープ・ドゥ・フランスも4回優勝。リーグアンの強豪だった時期もあった。

 「降格しなければいいよ」

 開幕前のルー監督の口癖だ。他クラブの監督が「優勝」や「CL出場」といった目標を掲げる中、ルー監督は判で押したように毎年同じ。優勝した次のシーズンでさえ目標は「降格阻止」だった。まったく飾らない、背伸びもしない。どっしりと地に足を着け、今日と同じ明日を生きていく。

ボールを抱えて本拠スタッド・ドゥ・ラベデシャンのピッチを歩くルー監督。写真は97年3月のドルトムント戦

名手輩出の秘密、40年不変のシステム

……

残り:1,720文字/全文:2,673文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

オセールギー・ルー

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

RANKING