それは突然の発表だった。カルロス・テベス、ロサリオ・セントラルの新監督に就任(契約期間は12カ月間)。アルゼンチン1部リーグで6月24日に指揮官デビューを果たし、7月8日には3戦目にして初白星を手にした38歳の新たな挑戦、その意外性とサプライズに富んだ滑り出しの模様を、現地からChizuru deGarciaさんが伝えてくれた。
現役最後戦から1年、ボカの役員になるはずが
去る6月4日、カルロス・テベスがアルゼンチンのトーク番組『Animales Sueltos』に出演した際、MCのアレハンドロ・ファンティーノに「それは明日の朝刊の一面を飾るニュースだ」と言わしめる発言をして話題を呼んだ。
同番組から各国のスポーツ専門メディアが拾い上げたのはテベスが「現役引退」を明らかにした部分だったが、アルゼンチンに住む我われサッカー愛好家たちにとって、彼の引退はすでに当然の成り行きとして受け止められていた事案であり、新たに取り上げるほどのサプライズではなかった。
現役最後の試合となった昨年5月31日以後、いかなる魅力的なオファーも断り続けたテベス。スラム街での貧しく危険な環境で、義姉の私生児だった自分を実子同然に守り育ててくれた最愛の養父セグンドが亡くなった際、「僕が8歳の頃から毎試合応援に駆けつけてくれた“ファンNo.1”を失った」と語り、プレーする意欲を完全に喪失してしまった。もし彼が選手としてピッチに復帰していたら、その方がサプライズになっていただろう。
我われを驚かせた「朝刊の一面を飾るニュース」とは、ファンティーノに「今後のプラン」を聞かれた時のテベスの答えだ。
「数カ月前から弟たちと一緒に進めているプロジェクトがあって、とても楽しみにしている。監督になる決心をしたんだ」
意表を突く回答だった。ファンティーノの反応通り、この「監督になる」宣言はアルゼンチンの各メディアのポータルサイトでトップニュースとして扱われ、Twitterでもトレンド入りするほど大きな反響を呼んだ。ピッチを去ってからこれまでの1年間、彼の今後は「古巣ボカ・ジュニオールのクラブ役員になる」というシナリオが最も現実的と考えられていたからだ。
ハビエル・マスチェラーノ(U-20アルゼンチン代表監督)やフェルナンド・ガゴ(ラシン監督)といった同世代の元チームメイトたちがすでに監督として活動している今、テベスが同様に指導者の道を選んだところで決して不思議ではない。だが彼の場合、かねてから監督業よりも明らかにクラブマネジメントに興味を示し、「いつかボカの会長になりたい」と打ち明けたこともあった。元ボカ会長でアルゼンチン前大統領のマウリシオ・マクリとも懇意の仲で、来年12月に行われる会長選挙に向けてマクリ派の役員とコンビを組み、ファン・ロマン・リケルメが副会長を務める現在の首脳陣の対抗馬として立候補する可能性も十分あり得ると考えられていたほどだ。ファンティーノの質問が「クラブ役員になるのか、代理人になるのか、それともジャーナリストとしてテレビに出るのか」という内容だったのも、指導者という選択肢が想定外だった証だろう。
そういえば今年4月、テベスは欧州を周遊しながらかつて在籍したチームを含む数クラブを訪れ、マッシミリアーノ・アッレグリ(ユベントス監督)、ステファノ・ピオーリ(ミラン監督)、アントニオ・コンテ(トッテナム監督)らと会談した。今思えばあの時のクラブ訪問は、指導者としての新しいキャリアに向けた“授業”の一環だったのだ。
いきなりアシスタントコーチの“裏切り”
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Profile
Chizuru de Garcia
1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。