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セットプレーから驚異の22得点1失点! シティの緻密にデザインされたCKメカニズムを徹底解剖

2022.05.26

リバプールとの熾烈なデッドヒートに競り勝ち、プレミアリーグ連覇を遂げたマンチェスター・シティ。その強さを語る際にはポジショナルプレーによる組織的かつ流れるようなプレーに注目が集まりがちだが、1ポイント差の攻防を制する原動力の1つとして挙げられるのが、22得点1失点という驚異の数字を残したセットプレーの強さだった。今回はその22得点のうち過半数のゴールを奪ったCKに着目。その特徴について、サウス・ウェールズ大学に通う学生アナリストの白水優樹氏にデータを交えて分析してもらった。

CKにおけるシティの「原則」

 マンチェスター・シティのCKの戦術には、「どんな相手に対しても変わらない狙い」と「相手の守備に応じて変化する狙い」が存在している。まずは、どんな相手に対しても変わらない狙いから分析していく。

1.ターゲットとなる選手の特徴

 CKの分析において、ターゲットとなる選手の特徴を理解することは重要である。多くの場合で、キッカーが蹴ったボールをゴール前の選手が頭で合わせるという形でゴールを狙うことになるCKにおいては、キッカーとターゲットの個人の能力に依存する割合が高い。そして、シティはターゲットの能力を最大化させるためにも、各々が得意な形で合わせられるような設計をしている。確かに、同じ選手がニアやファーどちらにも走り込んだり、スタートポジションを変えることができたりすれば、相手をより惑わすことができるだろう。しかし、最終的に自分の得意な形で合わせることができないのであれば、ゴールに繋がる確率は低い。その点、シティのターゲットとなる選手たちは多くの動きのパターンを持っているわけではないが、ほぼ毎回自分の得意なエリアに走り込んでいる。ここからは、主要なターゲットの特徴を見ていく。

①ロドリ(191cm)

 まずは、エメリク・ラポルトと並びフィールドプレーヤーとしては最高身長のロドリのスタイルから見ていく。基本的なパターンは離れたところからニアに飛び込んでくる形か、その場をほとんど動かずファーに来たボールを折り返す形である。どちらかというとニアに飛び込む形がメインで、直近ではホームのニューカッスル戦でゴールを奪っている。また、この動きはFKでも見られ、アウェイのリーズ戦での先制点もFKを軽くそらす形だった。ファーに残る動きは、他のターゲットにニアへの飛び込みを得意としている選手がいた場合に、アクセントを加えるために使われることが多い。積極的にファーに残るロドリを狙う形は、主に相手がゾーンで守っている場合に行われていた。

②フェルナンジーニョ(179cm)

 次に、ロドリと同じくアンカーを務めることが多いフェルナンジーニョのスタイルを見てみよう。基本的にはロドリと似ているものの、179cmとそこまで大柄ではないのでファーへの狙いに違いがみられる。ニアに飛び込む形はロドリとさほど変わらないが、ファーで競り勝つような形は見られず、よりダイナミックにファーに飛び込む形が多かった。また、フェルナンジーニョはターゲットとして中に入らずにPA(ペナルティエリア)外に立っている時もあり、こぼれ球からのミドルシュートは1つの武器である。

③ルベン・ディアス(187cm)

 3人目はおそらくシティの中で最もパワフルな男、ルベン・ディアスだ。意外にもCKから直接ヘディングでのゴールはないのだが、CKからの「アシスト」を多く記録している。この「ファーでの折り返し」がディアスの武器である。もちろん、パワフルな飛び込みも多く見られるが、ファーで相手DFに競り勝ちゴール前にボールを落とすことができる強さは一級品だ。

④エメリク・ラポルト(191cm)

 4人目に見るのはディアスと比べると細く見えるものの、何気にCKから得点を重ねるラポルト。基本的にはディアスと変わらず中に飛び込む形とファーで競る形を使い分けていて、ディアスと併用された時はどちらかが中央へ、どちらかがファーへといった2択を用意している。どちらかというと他の選手に合わせて走るコースを決めることができる万能な選手で、こぼれ球への反応も速く貴重な得点源だ。

⑤ナタン・アケ(180cm)

 おそらく、シティで最もCKで脅威になれる選手は180cmのナタン・アケだろう。大柄ではないが小回りが利き、スピード感を持ってボールにアタックできるドレッドヘアーの27歳は、20試合でCKから3得点を挙げている。最終的には中央に飛び込んでくることが多いのだが、マンマークを振り切ってフリーで合わせる形が得意だ。

⑥ジョン・ストーンズ(188cm)

 最後にストーンズのスタイルを見ていく。そこまでCKからのゴールが多いわけではないが、他の選手と違ってユニークな役割が与えられており、実際にその形からFA杯のフルアム戦でゴールを奪っている。それは、相手のゾーン内からスタートしそのままニアで合わせるという形だ。ゾーンやミックスで守る相手にとって、ニアでそらすことができるストーンズの存在は脅威だろう。

 ここまで、CKで主要なターゲットになる6人の選手のスタイルを見てきた。基本的にはCBの2人とアンカーの計3人がターゲットになるのだが、SBにアケやストーンズが起用されるとターゲットが4人になる。しかし、どの試合でも「自分の得意なエリアに得意な動きで入っていく」という原則は変わらない。

2. キッカーを2人立てるスタイル

 次に、キッカーにも目を向けてみる。キックの速さや落差、曲がり方など質に関して素晴らしいキッカーがそろっていることは間違いない。それとは別の特徴として、ほとんどの場合2人のキッカーを立てているということが挙げられる。

 メリットは大きく分けて2つ。1つ目は、インスイングとアウトスイングの2つの選択肢を用意しておけるということ。多くのチームが、守備の立ち位置をインスイングとアウトスイングの場合で微調整する。ほんの数歩の調整だが、ボール1個分の差が勝負を分ける局面のため、こだわりを持っているチームは多い。しかし、右利きのケビン・デ・ブルイネと左利きのフィル・フォデンが立っているとなるとどのような軌道のボールが来るか予測できず、守備側はベストな配置で構えることができない。とはいえ、基本的には手を挙げた選手が蹴る傾向があるので、それを見て一歩移動したりすることは不可能ではないかもしれない。

 もう1つのメリットは、守備側の選手を引っ張り出すことができるということ。キッカーが1人しかいないのであれば、ショートコーナーの可能性がないので守備側は11人全員がPA内で守備をしても問題ない。しかし、キッカーとして2人を立てることによって、1人ないしは2人をPA外に引き出せる。もし相手が1人だけを出してくるのであれば、2対1を作ってよりゴールに近づいたところからクロスを上げることができるわけだ。

 一方、守備側が2人を出して数的同数を作ろうとする場合、PA内での数的優位を削らなければならない。基本的にPA内では守備側が数的優位の状況なので、少なくとも2人程度はマークを持たずスペースを守る選手がいる。だが、2人のキッカーに数的同数で対応しようとすると、この「ストーン」と呼ばれるスペースを守る選手の人数を削らなければいけない。そうなれば、攻撃側は相手のストーンが1人減った状態で中にボールを送り込むことができる。

 このように、キッカーを2人立てることによって「蹴る前」の準備段階から優位性を最大化させることができるのである。

3. ショートコーナーorセカンドボール回収から大外へのクロス……

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セットプレーマンチェスター・シティ

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白水 優樹

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