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ファンエンゲージメントのマネタイズを受け入れられるか?イングランドで問われるファントークンの是非

2021.08.31

Jクラブでも地域通貨として導入が進んでおり、話題を呼んでいるファントークン。一方、欧州クラブでは株式のように取り扱われており、特にサッカーの母国イングランドではその在り方が物議を醸しているという。現地ファンと交流が深い田丸由美子氏に詳しく解説してもらった。

 2020年6月22日、バルセロナは世界に先駆けてファントークンを販売した。1トークン2ユーロで売り出されると、60万トークン以上がわずか2時間足らずで完売。売上額は130万ドル(約1億4000万円)以上にもおよんだという。スペインの名門に続いて、ユベントスやパリSGをはじめとするビッグクラブも次々と運用し、欧州サッカー界でファントークンは大きな注目を集めている。

 ファントークンとは、ブロックチェーン技術を用いて発行されるファン向けのデジタル資産。購入方法は簡単で、Socios.comというスマートフォンのアプリ上でチリーズと呼ばれる仮想通貨を買い、そのチリーズを用いて各クラブのファントークンを購入できるという流れだ。では、ファントークンを手に入れるとどんなメリットがあるのか? Socios.comのうたい文句は、「愛するチームに影響を及ぼそう」(Influence the team you love)。クラブも「意思決定のプロセスに関わることができる」(you’ll be able to take part in the decision-making process)と強調している。

 実際にファントークン購入者には、まるでちょっとした株主のようにクラブの様々な意思決定に参加できる投票権が与えられる。もちろん次の移籍市場で獲得する選手や、次の試合のフォーメーションまでは決められないが、例えばキックオフ前にスタジアムで流す曲や、チームバスのデザイン、あるいは練習場のピッチの名前を「ファン投票」で選べる。スマートフォンさえあれば誰でもどこでもファントークンを購入できるため、特にデジタル世代の若いファンや、海外のファンからは歓迎されるだろう。

新しいチームバスへの投票を呼び掛けるローマ公式Twitter

 一方ファントークンを発行するクラブは、コロナ禍で受けた経済的な打撃を仮想通貨を通じて緩和できる。Socios.comの創設者であるアレックス・ドレイファスCEOによると、同社は2021年になってからすでに2億ドル(約220億円)の収益を上げており、うち1億ドル(約110億円)がファントークンを販売したクラブに分配されたそうだ。

ESLに端を発する地元ファンからの批判

 新たな収入源として期待されるファントークン。その波はイングランドにも押し寄せている。2021年3月にマンチェスター・シティがSocios.comとの連携を発表すると、アーセナル、エバートン、アストンビラ、リーズも続いて仮想通貨市場に参入。8月13日にファントークンの販売を始めたアーセナルでは、1トークン2ポンドで売り出された200万トークンが約1時間半で売り切れとなった。ところが上々の滑り出しを見せている一方、現地ファンからはその流れに疑問が投げられかけられているのも事実だ。

 サッカーの母国におけるファントークンに対する非難は今に始まった話ではない。実はウェストハムは2019年4月、ライバルたちより一足先にSocios.comとの提携とファントークン販売を発表している。ところが、同クラブの地元ファンは大反発。複数のファングループから「お金を払わないとクラブと関わりを持てないというのはおかしい」という不満が噴出した結果、ウェストハムは2020年7月に1トークンも売り出すことなく、Socios.comとの契約を解消する事態に追い込まれている。

「あらゆる意見が平等かつ“無料”で伝えられるべきだ!」というメッセージの下、連帯を示したウェストハムのファングループ

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ファントークン文化経営

Profile

田丸 由美子

ライター、フォトグラファー、大学講師、リバプール・サポーターズクラブ日本支部代表。年に2、3回のペースでヨーロッパを訪れ、リバプールの試合を中心に観戦するかたわら現地のファンを取材。イングランドのファンカルチャーやファンアクティビストたちの活動を紹介する記事を執筆中。ライフワークとして、ヨーロッパのフットボールスタジアムの写真を撮り続けている。スタジアムでウェディングフォトの撮影をしたことも。